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2-4




亮太はアーリャのスマホを指先で弄びながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「……ページ捲るみてえに、人のこと覗いてんじゃねえよ。気持ちわりィ」


その声音には、怒りよりも……抑え込んだ衝動のほうが濃かった。

思わずアーリャは後ずさり、背中が体育倉庫の冷たい壁にぶつかった。逃げ場はない。けれど、逃げたいという本能よりも先に、胸の奥の“期待”が反応してしまう。




ドンッ!!


亮太は片手でアーリャの横の壁を叩き、彼女を囲い込む。所謂壁ドンの状態だ。


「……ロシア女。ビビってねえのか」


顔が近い。息が触れる距離。アーリャは喉がひりつくほど緊張しているのに、目を逸らせない。


『……だって、こんなの……いつも読んでる漫画みたい……』


アーリャの言葉が翻訳されたその瞬間、亮太の目がギラッと光る。


「……その“漫画”みてぇに、してほしいってか?」


指先がアーリャの顎に触れ、強引に顔を上向かされる。首筋に触れそうで触れない距離をなぞるように、亮太の指がゆっくり動く。


(……あっ……来る……)


視界が熱で揺れる。怖い。でも、それ以上に胸がざわつく。

亮太の手が、アーリャの腰に落ちる。顔が更に近づく。


キスされる……そう思った瞬間だった。




ピタッ……と、彼の手の力が、抜けた。


「……ウゼェ」


亮太は眉をひそめて舌打ちし、苛立ちを隠さずに呟く。


「胸糞悪ィんだよ、お前」


アーリャの腰にかけられた手が、ぎり、と握られる。

彼女は亮太をじっと見つめてはいるが、彼女の目に、“亮太”は映っていない。


(コイツは俺を通して“漫画のキャラクター”を見ているだけだ)


それが、とてつもなく彼の心を不快にさせた。女を思い通りにするのは好きだが、女の思い通りになるなんて御免だった。




亮太はアーリャの腰に回した手を引き剥がすように離す。そして荒く息を吐き、髪を掻きむしった。


「……ロシア女。お前、まじで邪魔くせぇ」


アーリャの胸はまだ早鐘のように打ち続けている。掴まれた腰に、熱が籠る。もう少しで触れていた唇がふるふると震えた。


(……もう少しで、本当に襲われていた……)


怖い……普通ならそう思うはずなのに。

憧れていた漫画の中の危険が現実に現れたようで、全身が熱く震えていた。


亮太はそんなアーリャを睨み、毒を含んだ声で言い放つ。


「……次はねえ。もう来るな」


そう吐き捨てると、彼は倉庫の奥へと消えていった。




アーリャはその場に立ち尽くし、指先だけが震えているのを感じていた。


けれどその震えは怖さよりももっと別の……どうしようもない感情だった。




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