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女子が去った後、体育倉庫には静けさだけが残った。
亮太は壁にもたれながら苛立ちを隠しもせずアーリャを睨んでいる。せっかくのオタノシミを邪魔されたのだ。当然だろう。
「……で?ロシア女。わざわざ授業サボってまで二度と来るなって言われたここに何しに来た」
低く、喉の奥で鳴るような声。殺気や敵意の温度が、昨日より明らかに上がっている。
(……体育倉庫……女の人……不良……)
一方、アーリャは危険な状況なのにも関わらず、胸を高鳴らせていた。目の前の光景がいつも読んでいる漫画のページと重なってしまう。
……気づけば、ポケットからスマホを取り出していた。
(……昨日、読んだシーン……)
画面には、薄暗い倉庫で“リョウ”が女子を押し倒すページ。さっきまで亮太がやっていたことにあまりにも似ていて、思わず開いてしまった。無意識のうちの行動だった。
……しかし、その“無意識”は亮太の神経を逆撫でした。
「……テメェ、今なに読んでんだよ」
亮太がゆっくりと近づいてくる。足音が、埃っぽい床を重く叩いて響いた。
アーリャは気づかず、ページをスクロールしてしまう。
ガッ!
突然、手首ごとスマホを掴まれる。
「ッ……!」
そのまま、亮太は力任せにスマホを奪い取り、画面を見る。
そこに映っていたのは……“体育倉庫で女子を襲う不良”のシーンだった。
「……は?」
……亮太は一瞬固まった。だが次の瞬間、目が細くなり、あきらかに何かが切れたような気がした。
「おい何だよ、これ」
アーリャは息を呑む。亮太は画面を睨みつけたまま、低い声で吐き捨てる。
「ロシア女……テメェ、これが好きで俺に近づいてんのか?」
張り付くような声だった。笑っているのに、殺意が滲むような、そんな感じの。
「漫画の不良と俺を重ねてんじゃねえよ。……現実は優しくねえんだよ、ロシア女」
スマホを指先で弾くようにして見せながら、亮太はゆっくりとアーリャの顔を覗き込んだ。
「……世間知らずのお姫様に“漫画と現実の違い”教えてやるよ」
その目は、本物の危険そのものだった。




