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2-1




アリサ・クドリャフツェフの朝は早い。




まだ夜の名残が薄く漂う早朝、学生寮の静けさを破るように、アーリャはぱちりと目を開けた。金糸のような髪がふわりと肩に落ち、淡い光に透ける。

窓からの朝日に照らされる彼女は、まるでお姫様のようだった。


彼女が生活するのは小さなワンルームの部屋。机の上には単語帳と整えられたメイク道具。そして、その端にこっそり置かれた日本の漫画……。


表紙だけ見えるように積まれているそれを見て、アーリャは微笑んだ。


「Ну вот… я же знала, что если продолжу читать, то точно просплю.(もう……続きを読んだら絶対遅刻するって分かってるのに)」


彼女は軽く伸びをして、スリッパをぱたぱたと鳴らしながら簡易キッチンと向かう。




いつものようにロシアンティーを淹れ、甘酸っぱいベリーの香りを胸いっぱいに吸い込む。

焼いたパンにバターをのせながら、鏡の前で髪をとかす。金髪がさらりと流れるたびに光がきらめく。


制服に袖を通す前、アーリャは単語帳を手に取り、数語つぶやいてから閉じた。


「Сегодня тоже нужно выучить новые японские слова…(今日も新しい日本語を覚えないとね……)」


支度を整え、リップをひと塗りし、鞄を持って部屋を出ようとしたときだった。

ふと視線が、机の端に置かれた漫画に戻る。


表紙には……黒髪に赤い瞳を持つ不良キャラクターの“リョウ”が不敵に笑っている。どことなく、クラスメイトの佐藤亮太に似ているキャラクターだった。


アーリャは小さく頬を染め、誰もいない部屋で覚えたばかりの日本語をこっそり呟いた。




「カッコイイ……」




ロシアにいた頃から、彼女にはある悪癖があった。

強くて、乱暴で、とてつもなくゲスい“日本のワルい男”に憧れてしまうこと。


だからこそ昨日、教室で出会ったリョウと同じく黒髪に赤い瞳を持つ“彼”のことが気になっていた。

体育倉庫に引きずり込まれてマットの上に押し倒されて、耳元で妖しく囁かれた時……彼女の胸はこれ以上ないくらい高鳴っていたのである。


……そう、昨日の彼女は、怖がってすらいなかったのだ。


「Мне этого нельзя… но всё равно…(いけないのにね、私。でも……)」


小さな罪悪感と、隠しきれないときめき。

それは確実に彼女の胸で燃え続けていた。




アーリャはそっと扉を開ける。


「行ってきます、日本」とロシア語でつぶやき、今日も日本の学校で何が起きるのか、 “彼”は何をしてくれるのか……彼女はひそかに期待していた。




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