第五話「添い寝」
投稿遅れたんゴ
森の朝は涼しく、澄んだ空気が胸いっぱいに広がる。
カイトは畑の様子を見終えて小屋に戻る途中、家の裏手で薪を抱えて歩くセレナを見つけた。
「おい……何やってんだ」
「薪を運んでただけよ。べ、別に問題ないわ」
セレナは強がった笑みを浮かべている。けれど、その足取りは危うく、次の瞬間、薪を落としそうになった。
慌てて駆け寄ったカイトが腕を支えると、彼女の身体が小さく震える。そして、その腕に巻かれた薄い布がわずかにずれて、赤く爛れた痕が覗いた。
「……腕、怪我してるじゃねぇか」(しかも、あの狼の爪の毒じゃん)
「っ……これは……昨日の戦いの時に……」
セレナは視線を逸らす。
彼女は戦いの後、自分の草魔法で無理やり回復させていたのだ。表面だけは塞がって見えたが、無茶をしたせいで傷は完全には治っていなかった。
「隠してたな」
「……言ったら、余計な心配をかけるでしょ」
「余計どころか、もっと心配になるわ」
カイトは短く息を吐き、薪を取り上げるとセレナを椅子に座らせた。
水桶から汲んだ清水で布を濡らし、カイトはセレナの腕を丁寧に拭った。
セレナは落ち着かないように顔を背ける。
「本当に大したことないのよ。少し痛むくらいで……」
「その少しを放っとくと、取り返しのつかねぇことになるんだ」
カイトの手つきは思いのほか優しかった。
普段は皮肉を飛ばしてばかりなのに、こうして世話を焼かれるとセレナはどうにも居心地が悪い。
「……ちょっと無理をしただけよ」
「無理して、隠して、それでお前が倒れたら……俺はどうすりゃいいんだ」
その言葉に、セレナの胸が熱くなった。
彼女は強がりを飲み込み、唇を噛む。
「……昨日は、助けてくれてありがと」
「おう。けど、俺よりお前が無茶しなきゃ、もっと楽に済んでた」
「……かもしれないわね」
少し照れくさそうにセレナが笑う。
その笑顔を見て、カイトはほんの少し肩の力を抜いた。
手当てを終えると、セレナは布団へ押し込まれた。
文句を言おうとしたが、体は正直で、布団の温もりに触れた瞬間、安堵のため息が漏れる。
「今日は休んでろ。薪も畑も俺がやる」
「……カイトって、意外とおせっかい」
「意外とじゃなくて、最初からだろ」
セレナはくすっと笑い、布団に身を沈めた。
けれど、しばらくすると彼女の指先が布団の端をもじもじと掴み、視線が揺れる。
「……ねぇ、カイト」
「ん?」
「……その、隣に座っててくれない?」
か細い声に、カイトは少し驚いた。
しかし断る理由もなく、布団の脇に腰を下ろす。
セレナはそっと彼の袖を握り、安心したように瞼を閉じた。
「不思議ね……あんたがそばにいると、ちゃんと眠れそう」
「そりゃよかった。俺は寝かしつけ役かよ」
「ふふ……悪くないわ」
そのまま、セレナの呼吸はゆっくりと整っていく。
カイトは彼女の手をそっと布団の中に収め、呟いた。
「……これからはちゃんと頼れよ」
返事はなかったが、握られた袖口がほんの少しだけ強く引かれた。
それが彼女なりの「はい」だと、カイトにはわかった。
前回のオオカミさんは爪に弱い毒を持っています。
主の方は強めの毒です。