2話 鍛錬中
「はぁっ!はぁっ!」
波縷がナールに来て早1週間、運動音痴の波縷は素振りに励んでいた。だが、素振りや運動を始めて気づいたことがあった。それは…
「全く筋肉痛が始まらないのよね〜、こんな事したら次の日全身痛めて湿布貼ってたのに」
そういう事だった。運動音痴には良くある?事で体育で少しハードな運動をするだけで全身筋肉痛が起こるという地獄現象。それがこの世界に来てからないのだ。
「それに…目が良くなってメガネをするとクラクラするのよね」
波縷の視力は0.06というまぁまぁひどい有様である。波縷が通っていた高校は中高一貫で中学の頃から入学している一貫生でもある。中学受験をし、まぁまぁいいところに行ったからか親戚は
勉強しすぎで目が悪くなったんじゃないの?遺伝もあるし、頑張ってるね〜
などと言ってくれるが両親と兄は知っている。勉強もしてるけど絶対にネット小説とアニメの見過ぎでこんなに悪くなったということを!
「これもすべて天職のおかげ…なのかな」
ちなみに家に帰る手段は今のところない。波縷は予想通りのテンプレで目を輝かせていたが、その場で泣き崩れているクラスメイトも多数いた。 部屋の中に閉じこもり始めた生徒も何人もいる。
波縷も波縷で帰りたい気持ちもあるが、そのためにはまずこの世界、ナールを知らないといけないと思っている。
そして波縷は鷹也のパーティー、通称勇者パーティーの中に入っている。が、最近魔物を倒しに森へ行く時は波縷はいない。正確にはいるように見せかけて、自分の実力を確かめに行っているのだ。魔法(分身体)で鷹也達と一緒に魔物討伐をしてるようにし、波縷は鷹也達より少し深い場所で魔物を倒していた。デコピンだけで災害級が倒せてしまうので、最近泣きたくなっているのが事実である。魔法でもやってみるが、怯えられているのが分かるぐらい魔物がビビっているのだ。
災害級の魔物に怯えられる少女。さすがに哀れである。
そして、波縷は外出許可をもらい武器を買った。
弓と短剣である。暗殺者は短剣を2本持ち、気配遮断で不意打ちを狙うのが基本だ。短剣は腰に付けているが、波縷はたとえ異世界でも異世界アニメオタク気質であることは変わらない。
だとしたら、戦闘メイドぐらい試してみたい!と思うのが普通?だ。
弓はアニメで見たとおりにすれば魔物を仕留められるのでは?と思って買ったが、短剣は太ももに付けるようである。本当は毒を塗って魔物を倒すためにある短剣なので小さいが、付けてるだけでいっか!となった。
「お疲れ様です!」
庭で訓練してる際はいろんな人間とすれ違う。例え召喚者でも礼儀を忘れては絶対にいけないと波縷は思ったため、侍女さん達に王城で人と会ったときの礼儀を波縷は教えて貰っている。
「君は…」
「ハル=ナカワと言います!」
「あぁ…って召喚者組の方!?」
「あ、はい。そうですけど…」
「こ、これはご無礼を!私第137期従騎士団所属ユウ=カーハルと言います!」
とても深々なお辞儀をするユウ。
「頭を上げてください!私、巻き込まれただけで、そんな凄い人じゃありませんから!そんなに堅苦しくなくて大丈夫です。」
「そ、そうですか…」
「えっと、ユウさんと呼んでも良いでしょうか?」
「もちろんです」
そう。波縷は勇者召喚に巻き込まれただけなのだ。しかも凡人だった波縷は未だにこの反応に慣れない。
そして波縷はユウの笑顔を見て胸の高鳴りを感じた。
「私のことも何でもいいので呼んでください。あ、堅苦しくるしいのはなしで。」
「じゃあ、ハル…と呼んでも…いや、さすがに」
「も、もちろんいいですよ!あ、あと敬語もいいです。あなたの方が多分年上だと思うのでよろしくお願いします。ユウさん!」
「分かりました。じゃなくて、分かった。よろしくハル」
波縷とユウは握手をした。
「そういえば稽古をしていたのか?」
「あ、はい。私、運動音痴で多分ステータスのおかげで運動神経抜群になりましたけど、まだ慣れないので」
「素振り少し、見てもいいか?」
「え?あ、はい」
波縷は従騎士だから召喚者組の実力が気になるのだろうと思い、素振りを始めた。
「………」
「えっと…こんな感じです…?ユウさん、どうかしましたか?」
「あ、いや!素晴らしい腕前だ。」
「あ、ありがとうございます…」
少し照れる波縷。ユウは剣術にドン引きしたのだが、それを波縷は気づいていない。
「何か直した方がいいところってあります?」
「そうだな…力任せにしまっているから剣術を練習したほうがよさそうだ。まぁ、剣術も覚えたら君はどこを目指しているのか分からなくなるがな。それに力任せだと剣が不意打ちされることもあるからな。無駄がない綺麗な剣筋といったほうが分かりやすいかもな。」
「なるほど…ありがとうございました。」
「あぁ、またな」
そしてユウと波縷は別れたのだった。
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その日の夜…
「あの素振り…勇者よりも凄かったな。よほど鍛錬したのだな…おそらく体力も伸びて隊長格だぞ。あれ」
そう。波縷の素振りは隊長格の者たちとそんなに変わらなかったのだ。
「また、会えたらいいな…って俺は何を考えてる!」
布団に包まり顔を真っ赤にしたユウだった。