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外はすっかり暗くなったころ、階段を駆け上がる音に、レクサスはベッドから起き上がった。
鍵を開ける音がいつにも増してガチャガチャ鳴ったかと思うと、アネッタが酷く慌てた表情で部屋に入ってきた。
「レグルスさん!」
バタン!と扉が壁に叩きつけられる音に、思わず顔をしかめるレグルスだったが、間髪入れずにアネッタに押し倒された。
「おい、なにすん...」
「やっぱり、レグルスさんだったんですね」
アネッタがはだけさせたレグルスの襟元からは、包帯代わりであろう服の切れ端が覗いていた。
反転の指輪、枷の鍵、女物の服。
無理やり押し付けられたそれらは、聖王クラウディアと友人からのせめてもの配慮だった。
今回のことがなければ、レグルスは一生使わなかっただろう。
「熱もありますよね?
怪我、ちゃんと見せてください。
見せてくれるまでどきません」
「...」
アネッタの剣幕に、レグルスは観念してシャツを脱いだ。
服の切れ端を取ると、傷口は紫に変色している。
あのナイフには、毒が塗られていた。
アネッタが死んだら元も子もないだろうに、仲間の大半が捕まったことで正常な判断を失っていたようだ。
「...! 治療院に...」
「殺戮帝を治したがるやつなんていない。
心配しなくても、俺にも聖王陛下の守護魔法がかけられている。
明日には回復するだろうから、お前はさっさと下に戻って休め。
今は食欲がない」
昔のレグルスであれば、あんなヘマはしなかっただろう。
毎日鍛錬を欠かさなかったとはいえ、10年の引きこもり生活は思いのほか体を錆びつかせていたようだ。
「わかりました。
今晩はここにいます」
「おい...」
「私は、あなたのお世話係ですから」