5
例の花はなかなか見つからず、頼みの綱とばかりにアネッタは図書館に向かった。
図鑑からそれらしい花の絵を見つけだし、露店にモチーフになっている置物が売っていたことを思い出し、どうにかそれを手に入れることができた。
気付いた時には、辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。
「急がないと...」
レグルスにひもじい思いをさせては元も子もない。
小さな花の置物を握りしめながら、アネッタは塔に向かって走っていた。
近道にと、人通りの少ない道を選んだのがマズかった。
「俺と一緒に来い! お前がいれば! お前さえ、いれば!」
いきなり立ち塞がってきた男は、目は血走り、ナイフを握る手は震えている。
逃げようとしたアネッタだったが、仲間らしき男が退路を塞いでしまっている。
アネッタはようやく思い出した。
塔に入れるということは、侵入のために狙われる可能性があるということを。
聖王クラウディアの守護魔法があるとはいえ、注意するようにと雇い主から言われていたのに。
「いや...」
男の手が間近に迫り、アネッタは恐怖に目を閉じた...その時だった。
「が!?」
背後から悲鳴が聞こえたかと思うと、アネッタは後ろから誰かに引っ張られた。
顔には柔らかな感触が当てられ、なにかが斬れた音が聞こえた。
恐る恐る目を開けると、アネッタは見たことのない美女に抱きしめられていた。
真っ赤な髪、漆黒の瞳...ついでに豊満な胸の美女は、肩から血を流している。
「あの、あなたは...」
「邪魔するな! 俺は、殺してやるんだ! あの、悪魔を!」
美女はなにも言わず、ナイフを振り上げる男の顎を蹴り上げた。
「いたぞ! あっちだ!」
アネッタが声のする方を向くと、赤の制服を着た男たちがこちらに向かっているところだった。
聖王クラウディアの親衛隊だ。
アネッタを襲った男たちを追っていたらしい。
助かったと胸を撫でおろし、アネッタが振り返った時には美女は姿を消していた。