4ー1
孤児や親に疎まれている等、いらないとされた子供が戦場に送られるのは、少なくともこの国では珍しくない。
12歳のレグルスと友人はまだ年長のほうだったが、彼女が率いる部隊に引き取られなければ、他の子と同じ末路を迎えていただろう。
庶子の王女クラウディア。
血と泥にまみれた姿は、まるで戦場に咲いた一輪の花のよう。
15も年上である彼女は、剣術に魔法、サバイバル術にいたるまで、いろんなことを教えてくれた。
特にレグルスは才に恵まれていたようで、メキメキと頭角を現していった。
ある日、うっかり彼女の水浴びに出くわしたレグルスは見てしまった。
体のあちこちに刻まれた、地獄の痕跡を。
同時に、これほどまでの目に遭ってもなお気高く美しくあり続ける彼女に、姉以上の感情を抱くようになった。
もっとも、彼女はレグルスの求愛をまったく物ともしてくれなかったが。
子供が戦場に送られることのない、平和な世界を作りたい。
それが彼女の夢だった。
周りから笑われようとも、何度打ちのめされようとも、諦めずに戦い続ける姿に何度も魅了された。
力になりたいと思った。
彼女が作る、平和な世界を見てみたいと思った。
だからこそ終わらぬ争いに、散っていく戦友に心をすり減らしていく彼女の姿を、これ以上見ていられなかった。
手始めに、彼女の足を引っ張る無能を皆殺しにした。
色狂いの王も、着飾ることしか興味がない王妃も、私腹を肥やしてばかりの宰相も、追い落とすことしか考えない彼女の異母兄妹も。
禁術に手を染めた代償か、髪が黒く染まったのはうれしい誤算だった。
”レグルス”は比較的ありふれた名なので、彼女の部隊にいたガキだと気付く者はほとんどいないだろう。
争いを止める手っ取り早い方法。
それは、団結せざるを得ないほどの脅威を示すこと。
『あとはうまくやれよ、ディア』
『待て、レグルス!』
彼女の悲痛な叫びに背を向け、レグルスは殺戮帝への第ニ歩を踏み出した。