3ー1
そんなに怖くない人。それがアネッタの抱いた、レグルスに対する評価だ。
痛めつけると言ったわりには、レグルスは一度だってアネッタに直接手をあげたことはない。
せいぜい、ちょっとびっくりさせるくらいだ。
ここに来てアネッタが思ったのは、罪人にしては扱いがかなり丁重であるということ。
最上階にある部屋は日当たりがよく、トイレに水道、掃除用品、洗濯板、物干し用のロープまで用意してあり、レグルスが一人でやっているらしい。
雇い主からは、「怖い思いをするが、まあ頑張れ」ぐらいしか言われていないので、わざと曲解することにした。
花を飾るな、なんて言われていない。
花瓶は5瓶くらい割られ、花にいたっては何度もダメにされたが、2カ月も粘った甲斐があった。
黒パンやくず野菜と塩だけのスープを勝手に変えるな、なんて言われていない。
最近は保温ができる魔道具があるので、温かいまま料理を運べる。
うまいもまずいも言ってはくれないが、残さず食べてくれる。
ちなみに本来の食事は、アネッタがその都度味を変えて頂いている。
新聞を読んでいる時以外、レグルスは決まって外を眺めている。
なにを見ているのかはアネッタにはわからない。
レグルスは「別に」としか答えてくれないし、近くに寄ってみようとすると睨まれてしまう。
「レグルスさん、今日もいい天気ですね」
だから、アネッタは勝手に話を振る。
「...そうだな」
なんだかんだ言いながらも、レグルスはアネッタの話に付き合ってくれるから。