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3/17

 栗色の髪を一つに(まと)めているその娘は、命知らずにも扉を開けたかと思うと、水色の瞳でまっすぐこちらを見つめた。


 図太い女。それがレグルスの抱いた、アネッタに対する評価だ。


 世話係は塔の下に用意された部屋から、新聞、食事(たまに石鹸)を持って螺旋階段を上り、読み終えた新聞と食器を持って下りるの繰り返しだ。

 扉には小さな引き戸が付いていて、前任者たちはそこから物を入れたり回収していた。


 だというのに、このアネッタという女は懲りずに部屋に入ってきては...。


「レグルスさんは24歳なんでしたっけ?

 私は16歳だから、8つ上ですね」

「今日もいい天気ですね。

 洗濯物がよく乾きそうです」

「じゃーん! バザーで花瓶を買ってきたんです。

 せっかくだから、花でも飾ろうかと思いまして」


 一方的に話しかけてくるわ、勝手なことをしてくるわで、鬱陶しいたらありゃしない。

 水をぶっかけてみようが、すぐ近くに物を投げつけてみようが、まるでへこたれる様子がない。


 どこかの村、一国の軍団、さる帝国の皇族、誰彼こんなやつらを殺したと語ってみるも、アネッタの態度は相変わらず。


 花瓶を割れば新しい花瓶が、花を踏み付ければ別の花が用意され、殺風景だった部屋がいささか華やかになってしまった。

 

「まったく、クビにされても知らないぞ」

「別に、私はただ仕事をしているだけです」

「ここまですることはないだろ。

 ...なあ、なんでお前は俺なんかの世話係になんてなったんだ?

 生活が困窮してるのか?」


 たとえば多額の借金を帳消しだとか、生家から虐待されていたとか。

 なにかしらの援助を条件に仕方なくやっているのなら、まあ納得がいくのだが...。

 

「いえ、一般的で普通な平民暮らしです。

 ...強いて言うなら、毎日おやつが付きます」

「おやつ?」

「マカロン、おまんじゅう、チョコレートにタルトタタン、いろんな地方のお菓子が...」

「...」


 泣く子も黙る殺戮帝の世話係をやっている理由が、おやつ。

 レグルスは思わず頭を抱えた。

 

「レグルスさん、どうしたんですか?

 ...ああ、今度からレグルスさんにも分けてあげます!」

「いらねえから!」


 結局、甘いものは好きじゃないと言ったら、アネッタは代わりに手料理を運んでくるようになり、レグルスの食事が様変わりしてしまった。

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