1
「本日より、あなたのお世話係を務めさせていただきます、アネッタです。
よろしくお願いします」
「...おまえ、よくこんな状況でそんなことが言えるな?」
床に押し倒されたアネッタの喉元で、剃刀が鈍く光る。
漆黒の髪に、血のような赤い瞳。
左右60~70センチほどの長さで繋がっている手足の枷は、彼が罪人だという証だ。
とある御仁の世話係を募集しているという紙を見つけ、報酬に釣られて申し込んだアネッタだったが、まさか殺戮帝レグルスだとは思わなかった。
殺戮帝レグルス、大陸でもっとも多くの人の命を奪った当時14歳の少年が、この塔に幽閉されて10年。
聖王クラウディアの最初の偉業として有名な話だ。
暗殺を企む輩が少なからずいるとかで、レンガで造られた魔法仕掛けの塔は認証者以外の侵入を拒み、窓を覗いても中の様子はまったく見えないのだとか。
いきなり手痛い洗礼を受けたが、アネッタはやるべきことをするだけだ。
「命と貞操の心配はまずいらない、と説明されましたから」
「そうだな。
お前たちの親愛なる聖王陛下の隷属魔法で、俺はこれ以上のことができない。
忌々しいことに。
...まあ、軽く痛めつけるぐらいのことはできるけどな?」
「...とりあえず、レグルスさん、新聞を持って来たので読みますか?」
「......」
アネッタが差し出した新聞をレグルスが奪い取ると、動きに合わせて鎖はジャランと鳴った。