9ー1
アネッタがうたた寝から目を覚ますと、レグルスはすうすう寝息を立てていた。
熱は下がったようで、顔色もだいぶよくなっている。
時刻は昼近く、アネッタが黒パンをかじっていると、雇い主が訪ねてきた。
聖王クラウディアがアネッタに会いたがっていると。
「そなたがアネッタか」
初めて間近で見る聖王クラウディアに、アネッタは思わず息を呑んだ。
遠目で眺めた、パレードで悠々と手を振っている姿でもない。
嫌というほど見かけた、肖像画のような輝かしい美貌でもない。
雇い主の助けを借りてベッドから起き上がるその姿は、まるで枯れ木のようだった。
「驚いただろう?
こやつは変装魔法が得意でな。
私が健在だと思わせるために、代わりに表舞台に立ってもらっている」
「...どうして、私なんかに?」
アネッタでもわかる。
これは、誰にも知られてはいけない国家機密だ。
「そなたが見つけたあの紙には、魔法がかかっていてな。
あやつに嫌悪感を抱かない者しか、見つけ出せないようになっていたのだ。
そして10年、やっと...そなたを見つけた」
アネッタは悟った。
勝手にしていたことがバレていないのではない。
見て見ぬフリをされていたのだ。
「こたびの件で、そなたにもあやつにも危険な目に遭わせてしまった。
申し訳ない。」
「...恐縮です」
「そう言っているわりには、私への敬意が感じられないのだが?」
「...」
アネッタの雇い主と、レグルスの友人は同一人物。




