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04

よろしくお願いいたします。



「ほんとに、ルノはよく今まで生き延びたわね」

朝食の干し肉を齧りながら言うベラに、ルノフェーリは首をかしげた。

「うーん、一応これでも竜だから。環境とかほとんど気にせず、どこでも生きていけるんだよね。外敵もいないし、町から遠くても飛べばいいし。ただ、食べ物だけはうまく確保しないといけないけど」


随分と適当だ。

「あー、うん、わかった。最強種だからこそのごり押しでなんとかなってきたのね。独り立ちしてからずっとなの?」

「そうかも。独立してからは、親にも全然会わなくなったし」

それは、会えなくなったの間違いでは。


うーん、と考えたベラは、残りの干し肉を咀嚼してからごくんと飲み込んだ。


「わかった!それじゃあ、私がついて行く。っていうか、道案内するわ。私の旅の目的は一応果たしたけど、謝っただけだし。それなら、贖罪(しょくざい)ってことでルノの迷子を防止しようじゃないの」

じっくりと菫の砂糖漬けを味わっていたルノフェーリは、驚いて藍色の目を見開いた。

「えっ?!でも、俺の旅って目的はあるけどアテはないんだよ。いつ終わるかわからないし、場所だってあいまいで」


それを聞いたベラは、一つうなずいた。

「だから、ついて行くんじゃない。ルノは、私に蹴飛ばされて巣から追い出された上戻れなくなったのよ?家を追い出されたようなものじゃない」

「確かに、戻れないけど理由がちょっと違うよね」

「そのままだと、永遠に終わらないかもしれないわ。私がついて行けば、少なくとも目的地にはきちんと着くから。探し物だって、ずっと早く見つかるんじゃない?」

「うっ、それは――」

口ごもるルノフェーリは反論できないらしく、言葉を発する代わりにもう一つ砂糖漬けを口に入れた。


「ま、とりあえず考えておいて。プイレナまでは一緒に行くんでしょ?」

「ん。お願い、ひまふ」

「食べ終わってからしゃべりなさいよね」

「んん、ん」



焚火の跡なども始末し、二人はまた町に向かって歩き出した。


山賊たちは、相変わらず檻の中でうごうごしているが、何も聞こえないのでただの重い飾りである。

道は少しずつ下っているので、ルノフェーリの負担もそこまでではないようだ。

「それで、ルノが探してるものって何?形も何もわからなかったら、探しようがないでしょ」


「俺の逆鱗の欠片」

「えっ」


歩いていたベラは、ぎょっとして振り向き立ち止まった。


「逆鱗、の、欠片……?あの、国宝級になるアレ?」

「そうそう、家宝とかになることもあるとかいうアレ。でも、実際には誰も持っていないアレ」

ルノフェーリも、彼女に合わせて足を止めた。


「え?実際には誰も持ってないもんなの?」

「そりゃあね。どの竜も、自分の逆鱗なんて他人に渡さないよ。よく逆鱗扱いされてるやつは、ちょっと形が崩れた普通の竜の鱗だから」

「うそ、やだ。それって聞いたらマズいやつじゃないの?だってなんかすごい扱いされてめっちゃ厳重に保管されてるとかなんとか」

うえー、という顔をしたベラは、ルノフェーリの隣を歩きだした。


彼女が進むのに合わせて、ルノフェーリも車輪の付いた檻を引っ張りながら歩いた。

「普通の鱗でも、十分貴重なものだからいいんじゃないかな」


そのあたりの価値はよくわからない。

とりあえず納得したベラは、ふと疑問に思った。

「鱗って、べりって剥がすもんなの?」

「えっ!そんなことしたら痛いよ?!普通は剥がさないから。人間が爪を剥がすのと同じ。鱗が剝がれるのは、爪を切る感じかな。いらないものが落ちるんだ」


「へぇ。爪みたいなもんなのね。大きさは?」

「大きさは場所によっていろいろだけど、手のひらくらいのやつから両手で抱えるくらいのまであるかな。逆鱗は、これくらいの大きさ」

ルノフェーリは、親指と人差し指で小さめの輪を作って見せた。


「え、ほかよりやたら小さい」

「そうなんだ、小さいんだよ。だけど、逆鱗って特殊で、生え替わらないからちょっともろくてね。急所にあるから普段は守ってるし、まず砕けたりすることはないんだ。ただあのとき、俺めちゃくちゃびっくりしてさ。上の穴から飛び出すときにうっかり岩の先に首元を引っかけちゃって、手の爪で首のあたりをひっかいて岩を砕いたんだよね」

「もしかして、それで、ぼろぼろにしながらまき散らした的な?」

「的な」


「じゃあ、ますます私が手伝うべきじゃないの!!半分以上私が原因なんだから」

「えぇ?でも、悪いよ。俺が一人で40年かけたから、まだあと何年かかかるかもしれないし」

苦笑するルノフェーリは、本気でそう思っているようだ。


「や、そんな小さな逆鱗が欠けたところで、10個に別れたらあとは粉じゃない?逆鱗の粉って、集められるもんなの?」

「粉?!いやいや、粉にはならないよ。かなり堅いし、ちょっと特殊だから」

「じゃあ、欠片かぁ。それって、ただの石とか貝殻との違いってある?道端に落ちてたとして、誰も拾わないと思うんだけど」


ベラなら、そんな小さな石ころがあったところで見もしないだろう。

「えっとね、今までに集めた逆鱗がこれなんだ」

そう言いながら、ルノフェーリは首から下げた巾着を服の中から取り出した。


「あら、小さいけど魔法袋」

魔法袋とは、魔法がかかった袋のことで、見た目よりもたくさん入ったり、匂いを遮断したり、水を漏らさず持ち運べたり、様々な用途を魔法で付与された袋のことだ。

「そう。ここに入ってるから、取り出してみて」


片手で巾着を首から外し、ルノフェーリはベラに投げ渡した。

パシ、と受け取ったベラは、躊躇なく巾着の口を開け、中身を手のひらの上に転がした。


「っ!!!」

袋から藍色の欠片が出てきた途端、ベラは息をのんだ。


「ね、わかるでしょ?逆鱗って、竜ごとに違う魔力を含有してて、しかも放出してるからわかるんだ。さすがに、あんまり離れるとわからないんだけどね。近づいたら確実にわかる」

それは、確かにものすごく変わった魔力を放出していた。


強く、重く、でもどこか丸みを帯びたような魔力だ。


それは、そのままルノフェーリの印象と重なった。

「これなら、町の端にあれば感じ取れそう」

「そうなんだよ!竜として飛んで探したら早すぎて通り過ぎちゃいそうな感じがするのもあって、人型で旅をすることにしたんだ。さすがに、町の上をを低空飛行するのは敵対行動ととられて攻撃されそうだし」


確かに、知らない竜が突然町のすぐ上を飛んでいたら、攻撃されるか悪戯されるか、と住民は心が休まらないだろう。

まともな領主なら、追い返そうとするはずだ。


「なるほど、わかったわ。だったら、やっぱり私と一緒に行くべきね。ルノ一人だったら、本当に探しきれないわよ。私が一緒なら、一年かからないで終わるかも」

「えっ」

「それに、私は一応冒険者登録してるから、こうやって旅をしながら賞金を稼ぐ方法もよく知ってるわ。ルノ、無一文はさすがにきついんじゃない?」

「うっ」

「それに、私は一応ある程度料理できるわよ」

「くっ……お、お願い、します」

「わかった」

説得されて頭を下げたルノフェーリに、ベラはにこっと笑った。


「じゃあまずは手始めに、プイレナで山賊を売るわよ!」

「おー!おー?え、それでいいんだっけ」

「いいのよ」



そうして、一人と一体の逆鱗を探す旅は始まった。



読了ありがとうございました。

続きます。

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