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よろしくお願いいたします。



次の日。

ルノフェーリは迷子になった。



「何で一人で王都に出て宿に戻れると思ったの?今までの実績考えたらわかるじゃない。せめて宿が見える範囲までにしなさいよね」

「ごめんなさい。ちょっと行くだけだから大丈夫だと思って」

正都を出て外都の商店街をうろついていたルノフェーリを、ベラが捕捉したのである。


「どうやったら無意識に正都を出られるのよ。確認されるでしょ」

「うん、なんか通路みたいなとこは通って、兵士に何か聞かれたかも。でもあれが正都を出るための確認だったのか」

「まったく。自分が20年かけて大陸中を迷子になったってことを自覚しなさいよ」

「ごめん。探してくれてありがとう」

「そりゃあね。『買い物に行ってくる』ってメモだけ残して二日も経ってれば探すわよ」

「うぅ……」


そう、ルノフェーリは二日かけても宿に戻れなかったのである。


「で、何が欲しかったの?」

「うん、ちょっと装飾品を見たくて」

「装飾品?刃こぼれしにくい魔法とか、魔獣との遭遇を減らす魔法とかかかってるやつ?」

「そういう効果があるのもあるけど、普通に、ただのアクセサリーを探そうと」

「ただのアクセサリー?それなら、まぁ外都の方が多いわね」

「あ、そうなんだ」

「もう夕方だから、明日行きましょ」

「わかった」

くたびれたルノフェーリは、ベラに連れられてやっと正都の宿に戻れたのである。



きちんと休んだ次の日、ルノフェーリをアクセサリーショップへ連れて行ったベラは、そのまま旅に出るための買い出しに行った。

「いい?買い物が終わったら店の前に立ってること。何があってもそのへんにいて。一応、覚えたからある程度ルノの魔力は追えるけど、昨日も大変だったんだからね」

「分かった。選んで買い終わったらここで待ってる」

何度目かの確認の後で、やっと買い出しに向かった。


契約うんぬんは保留だ。

ルノフェーリが何やら言っていたが、保留と言ったら保留なのだ。

すべきことをまずは全うする。

止まるよりも動く。


ベラは、まずは旅に必要な食料品や消耗品を買い足した。


買い出しから戻ると、ルノフェーリは店の前でぼんやりと立っていた。

「買ってきたよ。ルノ、あっちで分けよう」

「うん」

欲しいものがなかったのか、ルノフェーリは気もそぞろな感じである。


「はい、こっちがルノの分の食料」

「ベラの消耗品はこれ」

それぞれ半分に仕分けして、お互いが半分ずつ持つ。

何かあったとき、片方の荷物だけでも残れば生存率が上がるから分けておくのだ。

そうして鞄に詰め終わってから、ベラは聞いた。


「欲しいものはあったの?」

「うん。買えた」

「それは良かったわね」

「うん」

ルノフェーリは満足そうにうなずいたので、ひとまず欲しいものは手に入ったようだ。


「どこに着けてるの?」

「まだ着けない。時期がきたら着けるつもり」

「ふぅん?とりあえず、買えたんなら逆鱗探しに向かっていいのね?」

「うん。……ベラ、俺は頑張るよ」

「え、うん。頑張って……?」

「うん!」

よくわからないが、ルノフェーリは張り切っているらしい。

とりあえず、はげましておいたがそれで正解だったのかは不明だ。


「まずは、あっちの方に行こう。逆鱗の気配がちょっと強いから、多分そんなに遠くない」

「わかったわ。あっちならズアンの街ね。多分徒歩なら三日くらいで着くわ」

「じゃあ、途中は飛んで短縮しよう。ズアンの街から、また気配を探ることにする」

「ここからは飛ばないの?」

「王都の端で竜になったら、魔法研究所の人たちが見逃してくれない気がする」

「確かに。素材収集されそうね」

「怖い」


ルノフェーリとベラは、まずはズアンの街を目指すことにした。

道中は割と平和で、小型の魔獣しか出なかった。


途中から少し竜体になって飛び、ズアンの街に着く前に、街道から少し離れて降りた。

「街の中にはなさそうかな。少しあっちに逸れてるみたいだ」

ルノフェーリは、街へ続く道から南側へずれた山の方を指さした。

ベラにはまださっぱりわからない。


「じゃ、すぐ向かう?それとも、いったん街で休む?別に急がないから、街で休憩してから明日の朝に向かってもいいと思うけど」

時刻は昼過ぎ。

もし今から山へ行くなら、野宿確定である。


「急ぎたい気はするけど、ベラを付き合わせて野宿させるのも気になるから、街で宿をとろう。ベッドで寝る方が回復するし」

そう言ったルノフェーリは、ごく自然にベラの手を持って歩きだした。


「ルノ」

「ん?」

ベラの手を掴む力が強まった。

「ズアンはそっちじゃないわ。街道もあっちよ」

「あう……」

そして、ベラの手を掴んだまま大人しく引かれて歩いた。



夕方になる前にズアンの街に到着し、宿を確保できた。

懐は温かいとはいえ、無限にお金が湧いて出るわけではない。

節約も大事、ということでいつものように一部屋取った。


「いやベッド一つ」

「ダブルだったからね」

部屋の中には、大きめのベッドが一つだけ鎮座していた。


「ツインに変えてもらおう」

そのままドアに向かったベラに、ルノフェーリが声をかけた。

「いいよ、このままで。どうせひと晩なんだし」

「は?寝返りうったら起きそうじゃないの」

ベラは眉を寄せたが、ルノフェーリはへらりと笑った。


「大丈夫。ベラは落ち着いて寝られるところだと朝までぐっすりだから」

「え、何で知ってるの?」

「何回も同じ部屋で寝てるから知ってるよ。夜中にトイレに起きても、ベラは全然反応しなかった」

「む……」


「俺も寝相はいい方だし、ベッドが広いから別に気にはならないよ。雑魚寝と一緒でしょ。それより、ご飯食べに行こう」

「雑魚寝と一緒、そういえばそうね。じゃあ屋台に行きたいんだけど。すごい美味しそうな匂いがしてたわ」

「あの串焼きかな。香ばしい匂いだった」

「多分それ」

そして二人は、街に夕食を買いに出た。

肉と野菜の串焼きも、ついでに買ったフルーツも美味しかった。



明け方、ベラはふと背中が温かいと感じて目を開けた。

窓の鎧戸からは光が入らず、しかし鳥の声は遠く聞こえる。

そろそろ夜が明けるらしい。


温かい布団に潜ろうとして、自分を捕らえるものに気がついた。

後ろから自分を固定しているのは、ルノフェーリの腕だ。

温かいと思っていたのは、彼自身だったらしい。


ベラは、知らぬ間にルノフェーリの抱き枕と化していた。

いつそうなったのかはわからないが、そうされても起きなかったので、確かにベラはぐっすり眠っていたのだろう。


起きたら驚いて飛び上がればいい、と思ったベラは、ゆるゆると寝返りをうってルノフェーリの肩口に額を寄せた。

そのまま起きていて驚かせてやろうと考えていたのだが、温かさに眠気が誘われ、そのままもう一度意識が落ちていった。



窓の外の明るい気配を感じて、ルノフェーリは覚醒した。

自分の腕が宝物をしっかり抱えていると自覚して、目を開けた。

ベラは、ルノフェーリの腕の中に身を預けて眠っていた。


そっと抱き寄せて頭に唇を寄せても、ベラは起きない。

このまま身体を密着させて抱きしめていたかったが、彼女が起きたら絶対にぶん殴られる。


確信を持ったルノフェーリは、それはもう慎重に腕をベラの首の下から抜き、代わりに枕を差し込んだ。

起きないことを確かめてから、揺らさないように気をつけてベッドから下りた。

「……シャワー浴びてこよ」


宿のシャワー室は、いつでも使えるようになっている。

とてもありがたい。


ルノフェーリは、ベラの体温を覚えている手をきゅっと握った。



読了ありがとうございました。

続きます。

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