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よろしくお願いいたします。
※ファンタジーなので、アレルギーの原因や治療方法などは創作です。ファンタジーなので。
のんびりとリッキンドの町と温泉を楽しんで、5日後にベキュンディッシャに戻った。
博物館の前の広場には、館長をしている貴族がそわそわと立っていて、その周りに騎士らしい人たちが並んでいた。
『待たせたかな?』
「いえいえ。私は先ほど参りましたところでして」
デートのようなやり取りをしていると、博物館から館長よりも豪奢な服装をしたおじさんがやってきた。
おじさんは、両手に装飾が施された箱を持っていた。
あれは魔力を遮断する文様だ。
『厳重に保管していたみたいだね。陳列していた棚にも似たような魔法がかかっていたっけ。それくらいしてしかるべきものだよ』
うんうん、とルノフェーリがうなずくと、おじさんと館長は顔色こそ悪いままだったが少しほっとしたようだった。
「こちら、竜殿にお返しします」
豪奢なおじさんが、箱をこちらに差し出した。
『ベラ』
「はいはい」
ベラはルノフェーリの背中から飛び降り、すたすたとおじさんに近づいた。
箱を受け取って開けると、そこには逆鱗の欠片があった。
一応周辺を探ったが、ほかには逆鱗の気配はない。
「ルノ、これで全部かな?」
『あぁ。このあたりにはもうない』
「ならくっつけるわね」
『頼む』
預かっていたルノフェーリの魔法袋を取り出し、中に入っていた逆鱗を取り出した。
持っている逆鱗は、もう八割がた形を取り戻している。
そこに、先ほど受け取った欠片を近づけると、ぴとり、とくっついてそのまま境目がわからなくなった。
「な、なんと不思議な」
豪奢なおじさん……多分国王は、その様子を見て目を丸くした。
くっついた逆鱗を魔法袋に入れて鞄に戻してから、ベラは魔石を取り出した。
12センチほどの大きさがある。
それを、国王(多分)の手の中に押し付けた。
『それと交換で』
「こ、こんな大きな……!ありがとうございます」
『逆鱗は、大事なものだから』
「はい、ありがたく賜ります」
軽く頭を下げた国王(多分)に、ルノフェーリは満足そうにうなずいた。
『それにしても、呼吸が苦しそうだけど、風邪でもひいているの?』
「え?いえ、これは生まれつきでして。咳は薬で抑えておりますし、うつるものでもないようですのでお気になさらず」
国王(多分)は、よく聞けば呼吸のたびに小さくひゅうひゅうと音をさせている。
確かに、風邪をひいて咳が出るときのような、肺を患っていそうな感じだ。
『生まれつき?ベラ、ちょっと診て』
「わかった。失礼しますね」
「あ、あぁ」
魔法を使って国王(多分)を診ると、確かに肺のあたりに炎症が起きているようだった。
それよりも気になったのは、全身の症状だ。
「あー、これアレルギーですね」
「アレルギー?」
「バナナの皮がダメっぽいです」
「バ、バナナの皮?!ナナバ王国の国民食ともいえる、バナナが……」
そう言った国王(多分)は、眉を寄せた。
「治しましょうか」
「な、治せるのか?!」
国王(多分)は、前のめりになって聞いた。
ぐいぐい来るので思わずのけぞったら、ルノフェーリが後ろから片手でベラを抱き上げて国王(多分)を威嚇した。
『それ以上近づくな』
「しっしし失礼しました」
「ルノ、大丈夫だから」
『治せるもんなの?アレルギーって、もうそれを食べないとかそういうことしかできないと思ってた』
「それもいいけど、この人の場合は元々ちょっと身体が弱くて過剰反応してるみたい。悪いものじゃないから気にすんな、って身体に教えればマシになると思うよ。あとは身体を鍛えたらもっといいかも」
『へぇー。なんでそんなに詳しいの?』
「私の甥っ子が、小麦粉のアレルギーだったのよ。離乳食が始まった途端に全身に蕁麻疹が出て、家族総出でめちゃくちゃ色々調べたの。それでまぁ、魔法でアレルギーってわかって、治し方も色々試して治ったわけ」
『ふぅん。すごいね』
「頑張ったもの。ってことで、あの人に魔法かけてもいい?」
『うん』
地面におろしてもらったベラは、ぽかんとしている国王(多分)に近づいた。
「いきますよ」
「あ、あぁ」
魔法を練り上げたベラは、国王(多分)に治療を施した。
「っ!あ、息が、楽になった……?!」
「良かったです。あとは、毎日走るとかそういう運動をして、身体を鍛えるといいですよ」
「ありがとう!ありがとう……!竜殿も、感謝してもしきれない!」
国王(多分)は、目を潤ませて頭を下げた。
『俺は何もしてないよ』
「私が治療したものね」
『そうだけど、自分で言っちゃうとありがたみが薄まるね』
「事実だもの」
漫才を始めそうになった二人に、国王(多分)が話しかけた。
「この魔法は、どこかに文献などあるのでしょうか」
真面目な雰囲気だったので、ベラは向き直ってからうなずいた。
「一応、冒険者ギルドに登録してありますよ。ナナバ王国でも閲覧できるはずです」
『あんまり普及してないの?』
「んー。需要はあるっぽいんだけど。普通の治療魔法でも症状は抑えられるから、あんまり知られてないと思う」
「陛下!本当に、呼吸が?」
「あぁ」
館長に聞かれた国王(確定)は、嬉しそうにうなずいた。
「でしたら、その文献を参照すれば、第二王女様は」
「多分、治る。竜殿、眷属殿。本当に感謝する」
「王女様も似たような感じなんですか?」
ベラが聞くと、国王は悲しそうに視線を落とした。
「ああ。私の体質が遺伝したらしくてな。治療魔法もあまり効かず、いつも咳が辛そうなのだ」
少し考えるようにしたベラは、眉を寄せた。
「親子だからって必ずしも原因が同じとは限らないので、文献を見て、医療従事者に判断してもらうのが良いと思います。ちょっと魔力を多めに消費するし、医学の心得がある程度ないと理解も難しいみたいですけど、文献には全身の状態を探る魔法も載せていますから」
それを聞いた国王は、神妙にうなずいた。
「そうだな。原因が違う可能性もある。冒険者ギルドから資料を取り寄せて治療してみよう。改めて、感謝する」
「いえいえ。子どもがつらそうなのは、見ているこちらの方もつらいですからね」
国王だけではなく、館長や騎士たちもうんうんとうなずいていた。
ベラたちは、一路フルーツィーラ王国を目指した。
「休憩しなくてよかったの?」
ルノフェーリの背中からベラが聞いた。
『温泉で十分休んだよ。それより、逆鱗が結構集まったからか、何となく残りの欠片の場所がわかるんだ』
「え、どっちの方?」
『多分、フルーツィーラ王国。あっちの方だから』
ルノフェーリが鼻先をくい、と上下してみせた方向は、確かにフルーツィーラ王国がある方だ。
「そっか。ならまた資金稼ぎしながら移動する感じね」
『うん』
一月近くかけて、途中で魔石を調達したり、町に降りて冒険者ギルドで魔石を売ったりと寄り道をしながら、二人はフルーツィーラ王国へと戻ってきた。
『あっちの方だけど、大体の場所しかわからないから、途中から下りて歩こう』
「わかった」
降り立った場所を見て、ベラは言った。
「あれ、ここ私の故郷に近いところよ」
「え?そうなの?」
「……もしかして、ルノの巣にしてたとこに転がってるんじゃない?」
「あっ」
ルノフェーリは、思わずと言った風に口を手で塞いだ。
「ルノの元の巣だったら、私が知ってるわ」
「え、あ、それじゃあ」
「行きましょうか」
「お願いします」
読了ありがとうございました。
続きます。