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よろしくお願いいたします。



「ここの温泉すごいわよ!天国よ天国。すっごいわ」

「ベラ、ちゃんと髪を拭いて」

「はーい」


ベラたちが泊まった宿はなかなか高級な部類で、お値段も高級だった。

部屋にはアメニティも充実していて、用意されている寝間着まで高級品。

当然、食事もごちそうが部屋まで運ばれてきた。


「美味しい!山の上で海の幸って背徳的」

ベラは、貝のバター焼きに舌鼓を打った。

「わかる。しかもお酒がよく合うね」

ルノフェーリは、リッキンド特産らしいスピリッツをちびちびと口に含んでいた。


「ちょっと贅沢すぎるかしら?でもたまにはいいわよね」

「お金は余裕があるし、大丈夫でしょ」

「魔石たくさん売ったものね」

「せっかくだし、もう一回王都に行くまでのんびりしようよ」

「賛成」



食事の後、ルノフェーリも部屋の温泉に入った。

半分屋根のある露天風呂になっていて、外からは見えないようきちんと塀が設置されていた。

山の上にあるからか、風がひんやりと気持ちよく、湯は温かい。

「ベラが言ってたのはこれかぁ。確かに、天国だ」


石づくりの浴槽はこぢんまりしていて、二・三人が入るのにちょうど良さそうな広さだ。

部屋からはこちらが直接見えないように衝立があって、周りを気にせずにのんびりできる。


とてもいい。


ほこほこになったルノフェーリが部屋に戻ると、もうベラはベッドで寝息を立てていた。

上掛けのシーツの上に寝転んでいたので、コロンと転がして半分シーツを剥がし、もう一度逆側に転がしてシーツをかけた。

むにょりと口を動かしたベラの頬に残る傷は、もう見慣れてしまった。

そこに軽く触れて撫でると、薄い皮膚が他と違うことがわかる。


灯りを消して、ルノフェーリも隣のベッドにもぐりこんだ。




朝起きると、ベラはベッドにいなかった。

大浴場もあると聞いたとき、ベラはどっちに行こうか迷っていた。

そちらに行ったのかもしれない。

なら、部屋の温泉は独り占めできるだろう。


ルノフェーリは、寝間着を脱いでタオルを腰に巻き、露天風呂へ続くドアを開けて足を踏み入れた。


「お?」

「あっ」


浴槽に入って立ったベラが、こちらを向いて伸びをしていた。


見事に引き締まった身体は、いつも出ている部分だけ日焼けをしていて、あとは白い。

ルノフェーリは、ベラの傷を初めて全部見た。


「えっ?待って、ベラ。それ、怪我の傷だけじゃない……?」

ベラの頬から続く傷は、首元や豊かな胸の横を通って、きゅっと引き締まったわき腹にまで走っていた。


「あぁ、このへんから下、なんか刺青っぽい色がついてるよね」

首元のあたりから色がついているのは見えていたが、まさかこうなっているとは。

ルノフェーリは、息を吸い込んだ。


「それ、それ……番の契約紋っ!!」

「へ?つがい?」

ベラは、自分の身体を見下ろして契約紋が浮き出た胸の横からわき腹にかけてを撫でた。


「あぁっ!!ごっ、ごめん!!!」

じっくりとすべて見た後で、ルノフェーリは慌ててくるりと後ろを向いた。


「いやもう見た後。ってか、ルノは何百年も生きてるんでしょ?今さら女の裸くらいで慌てないでよガキんちょじゃあるまいし」

ベラは呆れたように言った。

ルノフェーリの背後で、お湯の音がする。


「み、見たことないもん」

「え?」

「竜の発情期は、400歳を過ぎてからしか来ないし、最近はずっと逆鱗探してたし!そもそも、番契約したいと思ってきちんと契約してから発情するものだから!」

「あー、じゃあどうて」

「うゎああああ!!!とっ!とりあえず、上がってから話そう!ね?!」

ルノフェーリは逃げるように部屋に入った。


ベラは、浴槽から出てそのまま扉を細く開けた。

「もうちょっと浸かってから上がるわー」

「わかったから!」


そしてそのまま、ゆったりと30分はお湯を堪能した。



上がってからこちらで買った服を纏い、部屋に入ると朝食が用意されていた。

「美味しそう!とりあえず食べよう」

「うぅ。ベラはなんでそう普通なの」

「今まで何ともなかったから、今さら騒いでもしょうがないじゃない」

「むむぅ」

挙動不審なルノフェーリをよそに、ベラは席に着いた。


朝食は、とても美味しかった。




「で、なんで番の契約紋ってわかるのよ」

「えっと、ちょっと待って。これ」

ルノフェーリは、シャツをまくって腹を見せた。


そこには、ベラのわき腹にあるのと同じ模様が浮かんでいた。

ただし、ルノフェーリの紋の方がもう少し細かく書き込まれていて複雑だ。


「似てるけどちょっと違うわね」

「そうなんだ。番契約したら、これが消えるはず。だから多分、契約は完了してないんだと思う」

頷いたルノフェーリは服を戻し、困ったように眉を下げた。


「そもそも、途中までとはいえなんで番契約が成立してんの?」

「うーん……それが、俺にもよくわかんない。こないだサーダユギノが言ってた、古い契約方法が関係してるのかも」

「あぁ、血を飲みあうやつ」

「それ」


冷たいお茶を飲むと、さっぱりする。


「俺が知ってる番契約は、逆鱗を相手に飲ませて、あとは儀式をするってやつだ。番契約をしたらもうほかの竜と番になることはなくて、あと離れていても意思疎通が図れて、繁殖もしやすくなる。逆に、契約していないと繁殖がうまくいかないし、ほかの竜にとられる可能性がある」

「逆鱗って、そういう使い方するもんなのね。じゃあ、ほかの人が逆鱗を飲んだら爆散するのって」

「竜が強く拒否するから、だ。わかってるけど、でも受け入れたくないもん。ベラだって、他人がベラの髪の毛を細かくして飲むって嫌じゃない?」

「絶対嫌。気持ち悪いし」

「うん、そういうこと」

「そこまでしてつながりを深めるのが、番ってわけね。だから逆鱗は大切なもの、と」

「うん」

そういうことか、とベラは理解した。

多分、竜にとって唯一の存在となる番以外の魔力を拒否してしまうのだろう。


ルノフェーリは、一人掛けのソファに座ってそわそわとしている。

「腑に落ちたんだけど」

「何が?」

「多分、仮契約とはいえ番契約してるんだよね」

「そうみたいね」

「だからかな。たまに、ベラがめっちゃ可愛く見えて。なんかこう、押し倒したくなって」

思わずといった風に言葉に出してしまったルノフェーリは、真っ赤になった。


「えっ」

思春期の子どもかな、とベラは思わず呆れた視線を向けてしまった。

「お、思っただけだから!してないから!!」

「そりゃ知ってるわよ。ぶっ飛ばした記憶もないし」

「ぶっ飛ばすんだ」

「当たり前でしょう」

ベラの言葉に、心なしかルノフェーリはしょんぼりした。


「でも、それがこの仮契約のせいだったら、問題しかなくない?」

「そうかな?あ、そうか。お互いにそういうつもりで契約したわけじゃないもんね」

「うん。中途半端なままも良くないだろうし」

「ほかにどういう影響が出るかもわからないか」

顎に手を置いて考えるルノフェーリに、ベラはうなずいた。


「そうよ。今は大丈夫だけど、今後はわからないんだから。こういう契約紋とかって、誰に聞いたらいいのかしら」

食事を終えたベラは、頬杖をついた。


「魔法陣なら魔法使いだよね」

「やっぱり魔法使いかぁ。魔法が発達してる国って言ったら、フルーツィーラ王国?」

「じゃあ、逆鱗を受け取ったらフルーツィーラ王国に行こう。それに、まだあの国にも多分逆鱗の欠片が残ってるんだよね」

「わかったわ」



方針を決めた二人は、切り替えて温泉を楽しむことにした。


「でもベラ、自覚しちゃったし、同じ部屋だと俺が気になるんだけど」

「大丈夫、何かあったらぶっ飛ばすし」

「だけど」

「ルノは、私が嫌がることを無理やりはしないでしょ」

「それはそう」


というわけで、そのままのんびりと温泉街を散歩したり、温泉を堪能したりして過ごしたのであった。



読了ありがとうございました。

続きます。

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