第1章 一幕 紅兎のいつも通りの仕事
〈紅兎〉、最終確認だ。今回の依頼はいつもの内容通り情報を集めたのち、ターゲットの誘拐からの拷問。最終的にはいつものように殺しても構わないが、クライアントから絞れるだけ搾り取ったらすぐに殺すか自殺に見せかけるようにとのことだ。いけるな〉
紅兎「‥了解」
いったいいつからだろうかこの仕事をし始めたのは。死に近いこの仕事をするようになってからはやれることはなんだってやってきた。
この仕事がばれないように日常生活では普通を装っているが。ぼろが出ないように生活し、好印象を持たれるように嘘をつき続け演じるようになってから『心ここにあらず』師からはそういわれ重要任務以外では仕事をする事も減り表の生活を送っていた、あの時までは。
紅兎「ずいぶん頑丈な場所に隠れているが特に問題はないな。警備員や監視装置も想定していた数よりも少し多く設置されてはいたが大した問題でもなかった。これを開けるとなると‥‥ふむ事前に調べておいた解除コードも無用の長物だな」
紅兎がそうつぶやくとポケットから指輪を取り出した。指輪が少し光ると紅兎の手には長剣が握られていた。
「これ自体には仕掛けは全くない。むしろこれを突破するのは無理だという自信からきているのか、まぁいいこれくらいならスキルを使えば壊せる」
紅兎が長剣で左手の指先を少し切り血を剣に浸み込ませた。すると長剣が赤黒く変色した。そこにさらに魔力を通し目の前の扉だけを切り刻んだ。
「これで入れる。お前が堀越か」
「なっ、なんだ!・・・・はッ?!お前が噂の『紅兎』か!誰だ、誰の依頼で俺を殺しに来た!」
「‥‥黙れゴミ。お前がしゃべっていいのはお前が鯖目コーポレーションから秘密裏に手に入れた情報と俺の質問へのイエスかノーだけだ」
「だ、だまれ!ま、まぁしかし残念だったな紅兎。俺がこのスイッチを押せばこの部屋は燃えお前の欲している資料と情報は灰に消える!それと同時に全警備員がここに集まりお前は終わるんだよ。俺に何もしないんだったら資料の一部だけくれてやるよ」
「ふむ。いい交渉だ」
「あぁそうだろだから」
「そうだな。だから教えておこう.。そういうものは最後まで隠しておくべきだったと覚えておくといい。まぁ今日ここでお前は死ぬがな」
「そうかよ!」
スイッチを押そうとするが圧した感触がしなかった。むしろ手の感覚すらないようだった。堀越がそれを見ようとするも。そんなことをするまでもなかった。手が地面に転がっておりスイッチはすでに紅兎が手に持っていた。
「あっあっ、おっ俺のてがぁ!」
「ふむ。その反応、どうやら例の薬をやっているという情報も本当だったようだ。常人なら手首をこれで切られたら痛みで狂ったように叫ぶのだがあの薬のせいで痛覚が機能していないようだ」
紅兎の持つ長剣は人の痛覚を十倍にし肉と骨を徐々に溶かす作用のある紅兎特性の魔法が付与されていた。その後刀身に熱が伝わりほんのりと赤く光る。そのおかげか黒刃の刀身が見えそこには[[rb:紋章 > ルーン]]が30文字ほど刻まれており、その剣の製作者を特定するのは難しくないだろう。そんなことを考えていたのは堀越の首と胴が離れている時だった。
紅兎が通信機を耳にかけ、部屋の探索をする。机の棚から盗まれていた資料を手に持ち、自殺現場に見せかける仕掛けを施す。
まず、堀越の腕と頭を再度くっつける。血を体内に戻し血を巡らせ、もともと部屋にあった長剣を浮かし握らせ自ら首を切るように指示をする。
「あぁ、あとは魔力の痕跡も消すか。〈回収〉」
すると部屋にある使用者を特定する魔力だけを吸い取り、ひし形の魔結晶を生成した。
「これで終わりだな。おめでとうお前のその恐怖は今自分の手で消えたぞ。よかったな堀越」
そう言い残し潜入していた金庫から転移魔法でその場をあとにした。
その後警備員が魔力の痕跡などを調査したが、その場からは堀越が流した血と首だけが残っていた。
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紅兎「任務完了」
???〈わかった。いつも通りお前の部屋にいつものを送ってある。前払い金が余ったから今回の分と一緒にいつもの銀行に入れてある。後で確認しておいてくれ〉
紅兎「わかった。いつもありがとう先生」
先生?〈構わないさ。お前のおかげでこの無理難題の依頼を捌き切れてる。お前がいなかったらうちの事務所もとっくに潰れていただろうな〉
紅兎「さすがにそれはないでしょ」
先生?〈もしかしたらだ、だが珍しくもないだろう大手スポンサーに見限られて潰れて行った事務所がどれだけあるのやら〉
実際この事務所も潰れはしないだろうが、師が紅兎をここに所属させていなければ今よりも依頼数も少なくここまで大きな仕事は任せてもらえなかっただろう。
先生?〈それにしても今でもお前のその身体能力には驚かされる。いくら魔力で強化しているとはいえそこまでの強化となると魔力が枯渇してほかの魔法が使えないだろう?〉
紅兎「企業秘密。例え先生でもこればかりは言えないよ。どうしても聞きたいなら鯖目のオヤジに聞いていいか聞けばいいじゃん」
先生?〈相変わらず秘密が多いなぁ〉
紅兎「先生も人のこと言えないでしょ」
先生?〈ハハハ、何せうちの事務所自体が秘密が多いからね〉
紅兎は頭を悩ませながらも通信を切った。すると先生以外の電話番号から電話がかかってきた。
???〈う~め~くん?どこほっつき歩いているのかな?〉
卯目「仕方ないだろ蓮花、まさか、仕事で遅くなるってオヤジから聞いてないのか?」
蓮花〈聞いてはいるよ?でももう深夜の1時なんだよ!心配だってするよ〉
卯目「はいはい。もう家の前だから切るよ」
そういい通話を切り。門を開け、警備員の人に遅れた理由を伝え庭園を通り玄関を開けると蓮花が広間で待っていた。
蓮花「おかえり卯目。ちゃんと作業着は持ってきたの?ちゃんと洗っておかないと予備が何着もあるとはいえ毎日洗っておかないと新垣さんの事務所に迷惑かかるでしょ?」
卯目「かえって早々お説教はやめてくれ疲れているんだ」
蓮花「はーい‥‥今日もダメ?」
そういうと蓮花は腕を広げハグを要求してきた。
卯目「だめだ、そんな物欲しそうな顔で見たってな。あんまり汚れてはいないとはいえダメなものはダメ」
蓮花「けち、いいもん。ほら持ってる作業着とか頂戴?お手伝いさんのところに持っていくから」
卯目「ン。ありがと」
頬を膨らませ、怒った顔を見せ、少し離れてから蓮花はあっかんべーをして使用人たちがいる洗濯場に行った。
蓮花と入れ違うように出てきたのはオヤジこと、鯖目達也だった。
達也「帰っていたか」
卯目「‥‥ただいま戻りました。いつも通り面倒くさい仕事をありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いしますよ」
達也「こうでもしないとお前は小遣いをもらおうとしないだろう」
卯目「‥‥お世話になってる身で小遣いはおこがましいですし、それにこれに限らずほかにもバイトしてますから。もらうのは気が引けるというか」
達也「ハァ、頑固だねぇお金なんていくらあってもいいだろうに」
卯目「さすがにそろそろ汚れを落としたいので失礼します」
そういい汚れを落とそうと入浴場へ向かおうとするが、世話好きな達也はいつものことを卯目に言う。
「‥‥ふむ。さすがにこの時間だから早めに上がってすぐに寝るといい。軽く食べるものをお前の部屋に持っていくようにさせておいてある。湯も沸いているだろうから入ってきなさい。いつも通りあの子に気が付かれないようにな」
「わかっています。蓮花には知らないままでいてほしいですから」
「すまないな」
達也がそういうと卯目は軽くお辞儀をし入浴場へと向かった。