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書き込み日記  作者: ほな
6/42

三月五日

「昨日、天使と会えた」

「急にどしたの葵ちゃん。」

 なんか変な噂話でも聞いたのかな。

「街中を歩いたら、空から降ってきたの」

「へー」

「信じてないな」

 それはそうでしょう。

「急に天使がなんちゃら言ったら信じないよ、普通。」

「それはそうだけど、これは本当。ほら、写真もあるから」

 翼だぁ。背中から生えてるねぇ。

「仲良さそうじゃん。」

「なんか違う」

 私になにを求めるのよ。うわぁ!とか言ってほしいのか。

「とにかく、昨日この天使と会えて色々話してみたんだ」

 どこか自慢げに胸を張る葵。

「どんな人だったぁ?」

 コスプレする人だったのかな。

「優しくて怖かった」

「怖かったんだ。」

 怖いのか。

「ぶっちゃけやべぇやつだった」

 やべぇのか。

「そうかそうか。不思議だね。」

「そうだよ。それより、この天使がさぁ」

 これは聞かなきゃいけない感じがする。

「うん。」

「マリエと顔が似た人を探してるって」

 顔が似た人なら私じゃないってことかな。

「写真見た時はちょっと驚いたんだ」

「そんなに似てる?」

「うんうん。見て見て」

 一緒に写真も撮って、写真も貰って、初めて会った人とよくそこまで出来るねぇ。

「お?」

 似てる。

「これはもうマリエの色違いバージョンだよ」

 よくない言い方だと思うよそれ。

「で、天使はファンだって。この子の」

「なんで?」

 アイドルとかそういうの?

「動画よく見てたんだって」

 天使ってスマホ使えるんだ。

「そこであたし、言っちゃったの。本人は知らないけど似た人は知ってるって」

「ぅん?」

「そしたら会ってみたいって言われて」

「なんで?」

「顔が似てるなら本人って思っても問題ないんじゃないかって」

 よくわかんないなぁ。まぁいいか。

「だから、天使見に行かない?」

 なんか、動物園とかに誘う感じだな。

「今日?」

「うん。よかったら今すぐ」

「急だねぇ。」

「実はさ、さっきからめっちゃ連絡きてるからさぁ」

 連絡も出来るの?

「いいよぉ。」

「いいの?じゃあ呼ぶね」

 ここに呼ぶの?人多いのに大丈夫?

 それより、見に行くんじゃなかった?

「今日はなるべく日常服でくるって」

「うん。」

 天使の日常服ってなんだろう。

「ねね葵。」

「うん?」

「ケーキ食べる?」

「いいの?」

「いいよ。」

 葵が渡されたケーキを一気に頬張って、ちょっと可愛くなった。

「ゆっくり食べなさい。」

 もぐもぐしながら頷く。食べる途中には言わないの偉いね。育ちの良さってことかな。

「美味しかった」

「よかったねぇ。」

 顔が柔らかくなった。ケーキ食べたら大人しくなるねぇ。可愛いねぇ。

「あっ」

 急に葵の目がきらきらになって、その視線を辿ってみたらなんと。

「お?」

 如何にも、天使だった。

 服は確かに日常って感じがする。街でよく見かける格好。

 でも翼が。

 天使がにこにこと笑顔を保ったまま葵の隣に座った。翼がちょっと窮屈そう。

「初めまして。」

 挨拶すると向こうもぺこっと返した。

 この天使、なにも言わないねぇ。翼はぴくぴく動くのに。

「………」

 静かだなぁ。

 葵は大好きなアイドルでも出会った感じで天使の方を見てるばっかだし、天使はなにも言わずただただこっちを見るだけだし。

 どうする?先になんか言う?

 先に話題出したとしても、なに話せばいいの?最近のドラマとか?それともアニメ?

 あれ、天使ってドラマとか見るのかな。動画は見てるみたいだし、見るのかな。

 それより天使ってなんで人に紛れてるの?

「初めまして」

 喋った。いい声。

「はい。」

「へっ」

 急に翼で葵を包んだ。

「真希だよ」

 真希さんかぁ。普通だな。天使だからって皆が難しい名前じゃないんだ。

「おぉ……」

 呑気に翼を触りまくる葵を横に、天使が話しかけてくる。

「名前を聞いてもいい?」

「マリエです。」

「歳は?」

「今年で十六。」

「若いね」

 審問されてる感じがする。ちょっと怖い。

 いつの間にか手も握ってきたし、葵が言った通りやべぇやつかも。

「柔らかい指」

 嫌な感じがする。

「肌も、綺麗」

 なんでなんで。

「顔もいい」

 この天使、気持ち悪い。見られるだけなのに、嫌だ。

「可愛い」

 吐き気がする。

 もう嫌だ。無理。

「あれ?マリエ?」

 身体中を虫が駆け巡る感じがする。

 見られてる。

 気持ち悪い。

 離れたい。

 嫌だ。

 触るな。

 消えろ。

「どうしたのかな?」

 掴まれた。

 力は弱い。

 なのに逃げられない。

 離れない。

 どうして。

「怖い?」

 唇触るな。

 離せ。

「そう怖がらなくぁっ」

 指、噛んじゃった。

 普通の人と同じ味がする。

「触らないでください。」

 嫌な気分が消えた。

「ふふ、ごめん」

 噛まれたのになんで嬉しそうな顔するんだろう。

「顔が似てるからつい」

 本人と会えたら同じことするつもりなのか。これはやべぇやつだな。

「その顔もいいね」

 睨む顔褒められた。喜ぶべきなのかな。

「私可愛いの大好きだから、貴方みたいな子供がすごく好きだよ」

 やべぇやつだ。

「もちろん可愛い男も好きだから。安心してもいい」

 まじでやべぇやつだ。

 どうして葵はこんなやつと仲良くなったんだろう。飴でも貰ったのか。

「天使なのに、犯罪者ですか。」

「いやいや、そういう目で見た事はないから。ただの親心みたいな」

 葵を抱き締めた。

「人を守る為の天使だから。安心してもいいの」

 葵は背中を撫でられらと、赤ちゃんみたいな顔になって。無邪気に、嬉しそうに。

 いいのかそれ。やべぇやつだよ。

「へへ」

 笑って、抱き返す。

 葵ったら可愛がられるとすぐめろめろになっちゃうから心配。

「決して犯罪者なんかじゃない」

 最後の一言で怪しくなった。

「不審者。」

「違うって」

「天使なのに。」

 背中の翼は子供を攫うためなのか。

「天使だから大丈夫」

 翼以外は普通の人間に見えるから、天使じゃないかも知れない。

 コスプレ不審者かも知れない。

「人を守る私達だからこそ、そういう危ない心を持っても大丈夫なの」

 関係あるのか、それ。

 ん?あれ。危ない心ってことはまじ物の不審者?

「………」

 今日は帰ろっかな。ごめんね葵ちゃん。私こんな人苦手だから。

「帰るの?」

「うん。急用が出来て。」

「じゃああたしも」

「…ん?」

 手際よく天使から抜け出して、私の隣に寄ってくる葵。すごいねぇ。

「え、なんで?帰るの?」

「急用が出来て。」

「天使と出会える事以上の急用ってあるわけないでしょう」

 コスプレ不審者のくせに、未だ天使を名乗るのか。

「ごめんね真希さん。また連絡してね」

「待ってなんで」

 あんなやつが天使ならもう終わりだよ。悪魔の方が善かも知れない。


「おかえりぃ」

 帰って早々抱き締められた。お母さんの温もりと、香りがちょっとだけ嬉しい。

 変なのと会えて疲れたのかも知れない。

「ただいまぁ。」

 うーん。お母さんの方がもっと天使っぽくていいな。

「今日は早いねお母さん。仕事大丈夫?」

「うん。忙しいのは終わったから」

 よかったぁ。

「今日はいつもより甘えん坊さんだねぇ。どうしたの?」

「内緒。」

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