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書き込み日記  作者: ほな
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三月四日

「ふー?」

 日記って、こんなにごちゃごちゃなもんか?

「何の音?」

 自分ですら理解しづらい日記に意味はあるのか。ところどころ飛ばされてるからなんか夢日記に近い感じがする。

 昔は書いてたな、夢日記。

「今日は余裕だね」

 ソファーに寝転んでたら、皿洗いを終えたパパと目が合った。

「早起きだったから。」

 珍しくお母さんが忙しくなったせいで、いつもより結構早い時間に朝ご飯を食べた。

 お母さんには悪いけどお母さんがいない朝は余裕で過ごせるから好き。

「ねぇパパ。」

「うん」

「抱っこ。」

 横になっているまま腕を広げる。

「ん…重くなったね」

 パパがソファーに沈んでいる私を持ち上げて、ソファーに寝転ぶ。

「成長期ですからねぇ。」

 パパの上暖かい。

「そうかなぁ」

「そうなの。」

 お母さんよりは大きくなるって決めたし。

「ねぇパパ。」

「ん」

「パパはもうちょっと太った方がいいと思う。」

 パパは暖かいけど、硬い。

「柔らかいのが好きならお母さんに抱かればいいんじゃない」

「お母さんの上は息苦しいんだよ。」

「背中に乗ればいいじゃん」

「!」

「なにその閃いた顔」

 今日試してみよっか。

「パパ天才?」

「多分違う」

 まぁそれはそうか。

「ねねパパ。」

「なに」

「旅行行く?」

「急だな」

「私もうすぐ卒業するし、卒業旅行って感じで。」

「行きたい所ある?」

「特にない。」

「そう……?」

「今週の金曜日とかどう?」

「お母さんが忙しいから今週は無理そうじゃない?」

「じゃあ二人で行こ?」

 乗り気じゃなくても真面目に考えてくれるパパ。優しい。好き。

「うーん………京都でも行く?」

「狐?」

「うん……狐」

 多分、京都って言って狐って答えるのは間違ってると思う。でもパパ、狐像とか稲荷とか好きだし。

「いいよぉ。」

 ぼーっと山や石像とか眺められるの好きだから、京都もいいなぁ。

 古い建物とかもいい。歴史が感じられて心が落ち着く。

「じゃあ来週に皆で行こ。お母さんも含めて、三人で」

「えぇー。」

 二人で行くと思ったのに。

「お母さんは一人にしたら多分泣くよ?」

「そうかなぁ。一人は一人で楽しくしそうだけど。」

 お母さんって一人にさせたら一日で半分くらいは寝て、半分くらいはなんか食べてそう。

「まぁまぁ、皆でわちゃわちゃする方がもっと楽しいでしょう?」

 パパに頬をぎゅーっと押されて、鯉みたいな唇になった。

「パパは鞠湖(まりこ)さんがめっちゃ好きなんだぁ」

「そうだよ」

 パパったら、愛妻家だな。

「マリエもそうでしょう」

 パパの愛は色褪せないみたい。

「ぅーん?そうかなぁ」

 私もそうなんだろうか。


 今日も一日の出来事が終わって、家に帰る頃。一昨日出会った子供が現れた。

 多分、あまって名前だった気がする。

「わっ、おねーちゃんだ」

 野良猫を見つけてはしゃぐ勢いで私に近付いてくる。

「こんばんは。二日ぶりだね。」

 今日はお父さんらしい人が後ろで見守っている。よかった。

「げんきー?」

「元気ー。」

 緩いな。

「今日はどしたん。パパと遊びにきたんか?」

「うんっ」

 眠たいのか、前より元気がない。

「よかったねぇ。」

「へへ」

 ほっぺたをすりすりと擦ったらなんか腑抜けた顔になった。後ろのパパさんも腑抜けた顔になる。この家は皆こんな顔になるのか。

「おねーちゃんいいひと」

「あら、ありがとう。」

 褒めてくれるのはありがたいけど、いい人って言えるにはちょっと早いんじゃないかな。

「えへっ」

 知り合ってすぐの人に抱き着くのもよくないと思うよあまちゃん。

「んんっ」

 顔も擦ってくるじゃん。

 ちょっと懐き過ぎじゃないかな。

「すずしぃ…」

 抱かれているのに涼しいのか。子供の感覚って不思議だな。

「ふぁ…」

 空気が抜けた風船みたいに力がなくなったあまを抱き上げる。

 持ち上げたままゆっくりと、ゆさゆさ。寝かし付けるように動くとすぐに眠ってしまった。

 お父さんと遊ぶのがすごく楽しかったんだろう。

「ありがとう。娘によくしてくれて」

 パパさんはまだ眠くないっぽい。体力いいね。子供と遊ぶと疲れるのに。

「可愛い娘さんですね。」

 懐で収まったあまを緩く、上下に揺らす。

「そう言ってくれると嬉しいな」

 嬉しくて笑う顔があまと似ている。この家族似過ぎじゃないか。

「パパさんとのお出かけが楽しかったみたいです。ぐっすり眠っちゃいました。」

 言葉通り秒で眠ったな。

「あまも、君みたいな人になって欲しいな」

 パパさんにもいい人判定されちゃった。

「今日はありがとう」

 眠っている子供を受け取ったパパさんは、そう言いながら去って行く。

 緩いな。パパも、娘も。


 ゆるーくなった頭と体を動かして家まで戻ってきた。別に眠くないけど、寝たい気分。

 日差しが暖かいからだろうか。

 風が涼しいからだろうか。

 太陽が長く身を張るからだろうか。

「ふぅあ…」

 制服から部屋着に着替え、ソファーに寝転んだまま窓の外を眺める。

 紫と紅が多い。

 千紫万紅な景色。

 窓の隙間から入ってきた風が顔を擽る。

 正に春風駘蕩。

 うーん、四字熟語の使い方ってこれであってるのかな。違った気がするようで、ないような。

 難しいな。

「ん?」

 誰か帰ってきた。足音がちょっと慌ただしい。お母さんなのかな。

 こっちにくる気配はなく、作業用で作ってた部屋に入っちゃった。

 あの部屋まだ使うんだ。いつもはベッドやソファーでちょこちょこ仕事してたのに。

 忙しいのかな。

 こっちは暇なのになぁ。

 なにするのかちょっと覗きに行こっか。別に邪魔はしないから怒られないだろう。うん。

 もぞもぞ起き上がって、立つ。床が涼しい。ちょっとくらくらする。

 貧血みたいな感じがする。でもそんなに血流したっけ。

 流してないねぇ。じゃあただ眠いだけか。

 静かに廊下を歩きながら伸びをする。忙しい人の前で眠い顔見せたらだめだし。

 部屋からキーボードの音がする。気持ちいい音。

 そっとドアを開いて、中を覗く。

 やっぱお母さんだった。仕事してるねぇ。かっこいい大人だねぇ。

 なんかめっちゃ打ってる。メールでも書いているのか。

 難しそうな紙を見下ろしたり、モニターを見たり。

 真面目だね。

 でもなんで家で仕事するのかな。用が済んだらまた出るのかな。それは忙しいなぁ。

 どうして急に忙しくなったんだろう。昨日までは花見行こってうるさかったのに。

 そっと部屋の中に入る。

 えー、音楽聴いてんじゃん。あんま忙しくないんじゃない?

 わ、なんか難しそうなメール。んー?なんか見た目が違うね。めっちゃ仕事してる人が使いそうな感じじゃん。

 読めない漢字が多い。大人はこれを普通に読まなきゃだめなのか。なりたくないなぁ。

「〜〜♪」

 歌ってるやん。楽しいの?それ。

 あ、待ち受け私じゃん。ちょっとちっちゃいなこの私。

 考えてみるとお母さんって意外とスマホとか使わないんだね。私の前ではテレビ見たり、本とか読んでた気がする。あとなんかお絵描きとかしてたな。

 パパはもう家ではスマホか私か二択なのに、お母さんって色々やってんな。

 あれぇ?お母さんっていつも抱き着いてくると思ったのに、意外とちゃんと生きてるじゃない?

 あれれ?お母さんって意外とちゃんとした母親?

 だめなのはだめって言ってくれるし、ちゃんと愛も注いでくれるし、でもやり過ぎないし。

 え、しっかりお母さんじゃん。

 比べてパパは娘の頼みならほとんど聞いてくれるし、休みの時はゲームばっかするのに。

 だめ人間じゃん、パパ。

「んーっ」

 仕事が終わったのか、お母さんが体を伸びる。

 ただ体を伸びただけなのに色んなとこで音出てる。大丈夫なの?

 このまま会社に戻るのかな、お母さん。

 今日はもう休んで欲しいな。

「ふぅ……」

 制服を脱ぎ始めた。今日はこれで終わるのか。

「あっ」

 見られた。

「ぇ、?ま、マリエ?」

 めっちゃ慌ててる。

「お仕事お疲れ。」

「今日は早かったね……」

 すぐ落ち着くねぇ。やっぱ大人だからかな。

「こんな所で何してるの?」

「お母さんの仕事眺めてた。」

「げっ」

 嫌そうな顔。

「かっこよかった。大人っぽい。」

「大人だけど……」

 顔もお洒落になって、服も白いシャツだからすごく出来るお姉さんっぽい。お姉さんって呼ばれる歳じゃないけど。

「仕事終わったの?」

「うぅーん、まだちょっとかな…」

 出て行けって言われてるような気がする。お母さんったら娘に仕事してるところが見られたくないのかな。

 まぁ、私も学校で勉強するところは見られたくないかも。

「じゃあ、終わったらまたくる。」

「終わったらお母さんが行くから、大人しく待っててね?」

 大人しく。

「はぁーい。」

 昼寝しようかな。でも今寝たら夜が大変になるなぁ。

 じゃあなにすればいいんだろう。

 えぇー、暇。

 大人しく出来ないかも。

 ま、私まだ子供だし。いいか。

「ちょっと…戻って来ないで。お母さん忙しいのよ」

「大人しく眺めるのはだめ?」

「ダメ」

「お母さんの上に座るのは?」

「ダメって」

「どうしても?」

「……まぁ、少しなら」

 やったぁ。


 少し放って置いただけなのに、こんなに甘えん坊になっちゃって。

 どうしよう。娘の将来が心配になって来た。

 こういう甘えん坊な所は昔の自分と結構似てて、それがまた可愛く見えてしまって、何でもしてあげたい。可愛いからってなんでも受け入れたらダメなのに。

「へへ。」

 可愛い声で笑うねぇ。

「大人しくしてね。いい?」

「はぁい。」

 娘を抱えて仕事するのはいつぶりだろう。何か懐かしいな。

 マリエが今の半分くらいだった頃はよくやっていたけど、いつの間にかやらなくなった。

 ちっちゃい時は凄く顔を擦って来てたな。最初は猫を産んだのか勘違いしたよ。

 まぁ今は顔を擦りに来る猫の動画を見る娘になったけど。

「……ふぁ」

 欠伸した。眠いのかな。

 今寝たら夜に眠れなくなるから止めた方がいいよ?

「ん……」

 寝る気満々だねこれ。

「眠い?」

「うん。」

「じゃあ寝ていいよ」

「うん…」

 素直だなぁ。可愛い。

 何年前までは寝たくないって暴れてたのになぁ。マリエも少しは大人になったのかな。

 小さい頃はいつ大人になるのかっなて思ったけど、あっという間にここまで育ったな。

 あと何年で立派な大人になるのか。ちょっと信じられないな。

 ダメな大人になるかも知れない。

 個人的にはダメな大人になって欲しい。でも母親としては立派な大人になって欲しいな。

 どっちにしろマリエはマリエだから別にいいか。

 あたしより長く生きればそれでいいや。

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