四月十日
「金曜日って言えば?」
午後、日が沈み出したところ。
授業は終わり自由になり始める頃。
そろそろ部活も始まるんじゃないかなって思って、顔出しでもしてみるのがいいかと思ったけど。
「女子会だよね!鞠絵もやるに決まってるんだよね!!みんな楽しみにしてるからね!」
朱莉は全然そう思わないみたいで。
昨日も一昨日も今日も、ただひたすら友達を作って遊んでの繰り返しだ。中には今みたいに、無理矢理私を付き合わせるのもあった。
無理矢理って言っても、断ったらきっと辞めるんだろう。今までもそうだったから。
でも、今まではずっと断ってたから。
今日くらい、付き合ってもいいんじゃないかな。
断るばかりだと仲良くなれないし。
「何するの?女子会って。」
「え、行くの?」
行きたいって言ってたら、朱莉が目をまん丸に開いて驚いた。口もぽかんと開かれて、可愛い。
まさに驚いたって感じだな。
「行こうかなって。」
「本当に?今まではずっと嫌って言ってたじゃん」
「明日休みだし。」
「それはそうだけど」
私が行くって言ったのがこれほど驚く事なのだろうか。確か三日前は一緒に遊んだはずなのに。
焼肉も行ってたし。
「んー……まぁいっか。人が増えたのはいいことだし。それが鞠絵ならもっといい事だし」
「よかったね。」
行くのはいいけど、女子会ってなにかな。女の子達でお茶でも飲むって事かな。
「どうぞー」
周りには私と、朱莉と、まだ顔もはっきり覚えてない子が二人。
それと、顔はしっかりと覚えた子が二人。昨日廊下で抱き着いて来た子と、匂いを嗅がせた変な子だ。
女子会って言った割には男が半分だな。
今時な女子会はこんなんなのかな。
「広いなぁ。」
この女子会、人も変だけど場所も変だ。
「うちは金持ちなんだからな」
カフェとかでお茶でも飲みながらのんびりすると思った私の想像とは違く。朱莉が女子会の場所で選んだのは多分蒼真って名前の男の子の家だった。
いくら金持ちだからって、こんな急に押し込んだら迷惑なんじゃないかな。
「ささ、女はこっちだよー」
でも朱莉は全然そう思わないみたいだ。むしろ、まるで自分の家のように私達を導く。
蒼真君と朱莉って仲良しなのかな。
「男はこっち」
「分けるの?」
「もちろん。女子会だもの」
「男子会も一緒にやるよ。隣の部屋で」
今日は予想外の事が多いな。
男も混ぜたけど女が半分だから女子会って言い張ると思ってたのに、ちゃんと女だけにするんだ。
「どうぞ。川崎朱莉のスペシャルルームだよー」
なんか変な名前だな。
「狭っ…」
「狭いね。」
スペシャルルームとか言ってる割にはかなり狭い。
私が五人くらい入ればいっぱいになりそうなくらい狭い空間だ。私より頭一個分は高い子にはかなり狭く感じられるだろう。
頭当たってるし。
「秘密基地みたいでよくない?うちの猫ちゃんも好きだったよここ」
「猫もいるの…?」
「大丈夫。いないから」
猫って言葉に動揺したように見える。アレルギーでも持ってるのかな。
「好きに座っていいよー。わたしは飲み物持って来るね。その間二人でお喋りしてて」
「ぇ、ふ、二人で?!」
「そうだよ。ばいばーい」
慌てる大っきい子を他所に、朱莉は去って行った。
なんか、手馴れてるな。
人を置いてどっかに行く事に慣れた人って、いったいどんな人なのだろう。
「…………あの」
そういう人は、人をよく集める人なんじゃないかな。葵もなんだかんだ、そうだった。
「どしたの。」
まあ。二人きりって事は、名前を覚えるにちょうどいいチャンスって事で。
なんだかんだ上手く話して名前を引き出そう。
これから一年は一緒に過ごす間柄なんだから、名前くらい覚えておかないと失礼だし。
「………えっと、今日、天気よかったね…」
「そうだね。晴れ晴れだった。」
いきなり天気の話しとは。あんなに話せるのがなかったのか。昨日は抱き締めたりもしたのに。
「晴天の空って、眺めてるだけでいいよねぇ。」
「うん…いいよね」
昨日はどうして積極的だったのかな。今日の姿が元の彼女らしいけど。
好きな話題だったから盛り上がったのか。
じゃあ、この子の好きな話題は匂いなのか。
「お日様も明るくて、陽だまりでぽかぽかになるととても気持ちいいんだよねぇ…」
まぁそんなわけないか。
「涼しい春風に髪の毛がゆらゆら靡いて、日差しに照らされたところはぽかぽかに温められて…陽だまりの中に漂うお日様の匂いを嗅ぐと……」
「めっちゃいいな。陽だまりの匂いって」
「うんうん。なんだかぼけーってなっちゃうって言うか……和らぐんだよな。」
匂いの話しで急に雰囲気が変わっちゃった。
まじで匂いが好きなのかな。
やっぱり変な子なのかな。
「わかるぅ〜」
たまたま陽だまりが好きなだけなのかも知れないし。まだ断言するには早い。
「陽だまりはいいよねー…でも私は神崎さんみたいな甘くてふわふわなのも好きかな。むしろそっちの方が陽だまりっぽくない?」
匂いが好きな子だった。
やっぱり変な子。
「そーかな?」
「そうだよきっと。柔らかくて暖かいから、きっと神崎さんの匂いがもっと陽だまりに似合うよ」
陽だまりの匂いに相応しいって言われたら普通、人々ってどうはんのうするのだろう。
褒めてくれたんだから、お礼かな…?
「ありがとー。」
「ふふ…ね、神崎さん。思い出したらまた嗅ぎたくなっちゃった。こっちおいで」
やばっ。
匂い嗅ぎたいからおいでって、不審者極まりない所業だ。二人っきりじゃなかったら、ここが外だったらすぐに逃げ出したのだろう。
でも二人っきりだから。あと密室だから。
「直はちょっと恥ずかしいな。服で我慢出来る?」
「え……」
嗅がれるの見られたらちょっと恥ずかしいしから、ここは上だけで勘弁して欲しいな。
「いいの…?」
「…………うん。」
なんか、喜ばせちゃった。
「…はい、これ。」
「ありがとー…♡」
嫌な笑みだな……ちょっと気持ち悪い。
「お…なんか不思議な状況になってるね」
「神崎さんの匂い、川崎も一緒に嗅ぐ?」
「……ふーん」
私を見て、私のブレーザーを見て。朱莉が色々と察したような顔で私を見た。
そして、にっこり。
「いいねぇ」
持って来た飲み物を適当にテーブルに置いて、二人で一緒に私の服に鼻をくっ付ける。
確かに、気持ち悪い景色である。




