四月五日
ご飯を食べ終えてから、だらだらと。
少し硬いパパの上にうつ伏せになって。
「ん……」
うとうと。
「ぃひ…」
とろとろ。
「そんなに顔擦ると擽ったいよ」
微睡むこの時間が私は一番好き。
「もう、こらぁ」
気持ちいい。
「…ぅへへ。」
止めらんない。
パパのこの丁度いい硬さと、涼しさがすごく落ち着く。ただただ柔らかくて、熱いお母さんとは違う。
この体の上にいたら別に眠くなくても自然と眠気が体の奥から溢れてしまうの。この上に乗っていたらいつの間にか欠伸が漏れ出るの。どうしてだろう。単に硬いからではないと思うのに。
愛が伝わるからだろうか。でもお母さんだってパパ並みに私を愛しているのに。
「ぁは……」
この体は私を上に乗せる為に作られたのかも知れない。
否、私がこの上に乗るように作られたのだろう。
「ぱぱぁ…」
「はいはい」
私がパパの上に乗るのが好きになれるように、遺伝子に刻まれたのだ。
「すきぃ。」
「うんうん。好きだよ」
色々考えてたらちょっと目が覚めた。
薄っすらと髪の毛に触れるパパの指が感じられる。
「今日も来た!」
急に大声が聞こえた。
「あ、ぁー……ごめんなさい…」
アイリがぱっと部屋の扉を開いたと思ったら、謝りながら外に戻っちゃった。
なんだろう。
「お姉ちゃん来たよ?」
「聞いた。」
「行かなくていい?」
「多分。」
人見知りだからなのか。
「無視はよくないよ。後で顔くらい見せてあげな」
「うん。」
アイリったら、お姉ちゃんだって言ってるくせに行動は妹みたい。
初めて見る人が怖くて、後ろに隠れる妹。
どうして私と血の繋がりがある女は皆、大人って感じがしないのだろう。
まぁ、お母さんとアイリしか知らんけど。
「パパ。」
「どうしたの」
「お母さんもあんな感じだった?昔。」
「流石にあれじゃなかったね」
そういえばパパからの、お母さんの昔話は聞いた事がない感じがする。
「じゃあどうだった?」
お母さんからの昔話は色々聞いてたけど、正直信用出来ないし。
「口数が多いマリエだったかな」
「私お母さんと似てるの?」
「ちょっと似てるよ」
「どんなところが似てるの?」
「甘えん坊な所とか」
私ってそう見えてるんだ。
あんま人に甘えたりとかした覚えはないけど、いつもの振る舞いのせいなのか。
「ほぇー。」
ま、いつもこうやってパパの上に乗ってるから。
甘えん坊って思われても仕方ないか。
「人の上によく乗ったりしてたよ、お母さん」
「パパの上にも乗った?」
「うん」
パパの上に乗ると気持ちいいのは、私がお母さんの娘だからなのだろう。
「パパぁ。」
「うんうん」
「明日から学校だって。」
「そうだね」
「なんもしてなかったのに、もう。」
「あっという間だね」
「また毎日、外に出て頑張らなきゃいけないの。」
「そうだね」
他人事のように答えるな。他人事だけど。
「友達も作らなきゃ。」
「学生は大変だね」
「ねぇ、パパ。」
「うん」
「パパの高校生活はどうだった?」
「どうだったかな」
「きらきらしてた?」
高校生のパパってあんま予想出来ないな。
お母さんの高校生頃も想像出来ない。
「きらきらを超えて、目が眩む程ぴかぴかしてたよ」
「えー。」
なんか嘘っぽい。
「お父さんこう見えても高校の頃はアイドルみたいなもんだったから」
「嘘。」
「本当だよ」
高校の友達が今もかなり多いってことは、本当なのだろうか。よく友達と遊びに出るし。
本当にアイドルだったのかも。
「ふーん。」
「あの頃の写真まだ持ってるけど、見てみる?」
「写真?」
卒業アルバムみたいなのでも持ってるのかな。
「うんうん」
「うぅん、見ない。」
「何で」
「見たくない。」
「なぁんで」
「見なくていいの。」
数年前、一日の中で一番熱くなる時間はいつなのかって、気になっていた時があった。色んな人に聞いてみると日が頭の真上にある十二時だって言う人もいて、真上から少し後の一時頃だって言うも人もいた。
当時の私は色んな意見を聞いて、結局。
どうでもいいやってなって投げ出していた記憶がある。
「さぁ、お姉ちゃんの膝においで」
「んっ。」
「よしよしよし」
周りの暖かな音が耳をくすぐる。
「ふふふ」
それは春風に舞う木々の音でもあり、春風に身を揺らす人の音でもある。
「眠いのぉ?」
「全然。」
朝はお母さんと、昼はパパと、午後はアイリと。
今日は一日中家族の上に体を乗せて過ごしている気がする。
人形になって一生を過ごせば、今日みたいな日が繰り返されるのだろう。
「ね、アイリ。」
「どうしたの?マリエ」
あまにお姉ちゃんって呼ばれたいと言っていた頃とは全然違う声色。
「人形になって生きればこんな感じなのかな。」
「どうかな。わたし、人形はあまり好きじゃないから」
「そうなんだ。」
見上げると、にっこり。
私に向けて優しい笑顔を送っているアイリの顔が見える。
「ぬぐるみは好き?」
「ぬいぐるみもあまり、好きじゃない」
「そう。」
手を伸ばして、アイリの頬に触れる。
「どぉしたの?寂しくなった?」
アイリの顔って私よりパパの方にもっと似てるんじゃないかな。パパのお姉ちゃんの娘だからなのだろうか。
いとこの子が自分の顔と似てるとどんな感じなのだろう。
「お姉ちゃん。」
「うんうん」
性格もパパとちょっと似てるのかも。
「お姉ちゃんは友だち多い?」
「少ないよ」
「ほぇ。」
「友達と呼べる人は少ない方がいいのよ。多過ぎると面倒になるから」
人生の先輩みたいな言葉。
「多くても五人。わたしはそう思ってるよ」
「うん。」




