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書き込み日記  作者: ほな
21/45

三月十九日

 今日は、とても素敵な空が広がっていた。

 仰ぐ先には真っ青。

 ただただ青く。広く。

 雲は流れるも数は少なくて。

 不思議なくらい青が目に入ってくる。

 白は、入らない。

「起きた?」

 ぼーっと、窓外の青さに惚れてしまう。

「うぅん。寝てる。」

 陽は見えないから、朝はもう過ぎたんだろう。

「じゃあ起きるまで待つね」

「うん。」

 青に似た声が囁かれる。

 心が落ち着く声で、なにもかも抱えてくれる声で。

 大好きな声。

「ふふふ。」

 私が笑った。

「あらぁ、面白い夢でも見てるの?」

 お母さんも笑う。

「うん。」

「よかったね」

 こんなに大人しいお母さんは珍しい。

 今日は仕事休んだのかな。

「髪長いね。後で美容院行こっか」

 私の髪と、自分の髪を結びながらお母さんが言う。

「ふふふ。懐かしいね」

 詳しくは覚えてないけど多分、幼稚園の頃にお母さんの髪で遊んだ記憶がある。

 私とお母さんの髪の毛同士を結んで、三つ編みにしてた。まるで今、お母さんがしたように。

「いい髪ねぇ。ずっと触りたいくらい」

「お母さん。」

「起きたの?」

「うん。」

 なんか今日、大人しい。

 今日のお母さんならなにを言っても受け入れてくれそうだ。微笑みながら全てを肯定してくれそう。

「ご飯にする?もう少し後がいいかな?」

 久々に感じるお母さんの、母親っぽい空気に戸惑ってしまう。

「ご飯食べる。」

「分かった。じゃあ先に出て準備するね」

「うん。」

 行っちゃった。

 なんの躊躇いもなく部屋を出ちゃった。

 どうしてぇ。

 お母さんが変になっちゃった。

 パパみたい。

 まぁ、いいことだ。

「んっ。」

 ベッドから起きる前に、軽く手足を伸ばす。

 お腹をベッドに当ててぐーっと。

 今日は部屋の空気が暖かい。

 心もなんだかぽかぽか。

「ふぅあ。」

 少しだけ開かれたドアの向こうからほんのり聞こえる、皿の音。歩き音。

 その音は頭に直接響く眠気を与えてくれる。

 眠くないのに眠くなっちゃう。

 駄目だ。こんな気持ちでベッドに潜っていると一日がすぐ消えてしまう。

 髪の毛が頬を叩くように強く、頭を振る。

 よし。少しは動けそうだ。

「ん?」

 布団を捲って真っ先に感じた、体を包む温もりに驚いてしまう。

 こんなに暖かかったのか、私の部屋は。

 普段は寒くて布団から出るのが嫌だったのに。

 お母さんがなんかやったのかも知れない。

「服はちゃんと着なさい。水飲む?」

「ちょうだい。」

 いつもより暖かくて、暑く感じて。パジャマのボタンを外してしまう。

 だらしない姿を見ても抱き着いたり怒ったりしないお母さんは初めてなんじゃないかな。

 今日はなんかすごく、お母さんだ。

「ほら。女の子がはしたないの」

 水を渡してボタンも留めてくれる。

 お母さんだぁ。

 似合わない。

 うちのお母さんはもっと子供っぽく、人好きの犬みたいにぐいぐいと縋り付いてくれる方がいいのに。

「お母さん。」

「どうしたの?」

「今日、綺麗。」

「あらら、ありがとう」

 褒められて、にっこりと笑い返すお母さんはやっぱり慣れてない。似合わないのだ。

「ママぁ。」

 だから私が抱き着いた。

「ぅ、うん?どうしたの?」

 強く攻めれば元に戻ってくれると思った。

「それ嫌。いつも通りがいい。」

 お母さんは私が好きで仕方がないから。

「そう…?」

「私、いつもみたいなお姉ちゃんっぽいお母さんが好き。」

「そう思ってたんだ……嬉しい」

 元に戻った。

「お姉ちゃん。」

「流石にお姉ちゃんって呼ぶのは止めてね?」

 簡単だね、やっぱり。

「ママぁ。」

「お母さんがいい」

「お母さん。」

「うんうん」

「今日はなんで大人しかったの?」

「マリエが可愛いからかな」

「は。」

 やっぱり、お母さんはこんなくだらないこと言うお母さんがいいや。


「ねねねね。爪切って。」

「はいはい」

 ご飯食べてすぐゲームに夢中になってたマリエが、突然あたしに近付いて来た。

 爪切ってって。

 可愛い奴め。

「この前、ネイルやるって言ってなかった?」

「うぅん。それパパ。」

「一緒にやらないの?」

「やらない。」

 答えが短いのがまた可愛い。

 今日はやけに子供っぽいんだね。

「そっかぁ」

 あたしの隣にちょこんと座って、片手だけ出して口を閉じたマリエがとても子犬っぽい。

 大昔犬も飼いた事あるよなー。

 なんか懐かしい。

「ふふ」

「どうしたの。」

「懐かしいなーって」

「今朝もそれ言ってた。」

「今日は懐かしさを沢山感じる日なのかな」

「そうかも。」

 くすりと笑うマリエの姿はとても大人しい。綺麗って言ってもいいくらい。なのに爪切り一つ出来なくてお母さんに頼むなんて。

 可愛いねぇ。

 ギャップがいいよ。

「ね、お母さん。」

「うん?」

 あ、これ。真面目な話が始まりそうな感じ。

「お母さんは女が好きなの?」

 うぅん?

 急にどういう事なのかなぁ。

「この前友達が本見せてくれたの。ここに出るのやってみようって。」

「それで?」

 あたしと関係あるのかなそれ。

「昔、ちょうど二年くらい前かな。お母さんが読んだのと同じ本だった。いけないとわかっていてもそれに抗えない気持ちが文字に出るとか。」

「ぇ、え?」

 何年前に本屋で買ったあれか。でも何であたしが読んだってマリエが知ってるんだ。

 覚えてないだけで、知らないうちに色々と喋っちゃったのか。

「お母さん、めっちゃ読んでたよね。」

「いやぁ…?そこまでじゃなかったけど…」

「思春期の娘と本の中の人を重ねて見たり?」

「そんな事ないよ」

「じゃあただ女が好き?」

「それも違う」

「でも読んだのに。」

「怖い映画を一回見ただけでホラー好きにはならないんでしょう?」

「そうだけど。」

「たまたま気になって、見てみただけだよ」

「じゃあ女より男?」

「ね、マリエ。お母さんはお父さんと結婚したんだよ?お父さんは男なの」

「そうだね。」

 子供の前で変なもん見ない方がよかった。

「お父さんと子供も作ったし」

「私だね。」

「そうそう。女が好きだったら男と子供は作らないんでしょう」

「なんか、必死ね。」

「それはマリエが変な誤解したから…」

「本当ー?」

「もうからかわないの。お母さん怒るよ?」

「はぁい。」

 マリエの周りにそういうのを見る友達がいるのかぁ。ちょっと心配だな。

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