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書き込み日記  作者: ほな
13/41

三月十一日

「行ってらっしゃい」

「うん。」

 いつもより少し早めに出るからだろうか。パパの挨拶を受けながら家を出る。

「ふ。」

 私が出た家の中から微かにお母さんが暴れる音と、そんなお母さんを落ち着かせるパパの声が聞こえた。

 その声を少しだけ聞いて、歩き始める。

「出たよ。」

「ん」

 家のすぐ近くで待っている、玲奈と呼ばれた子の隣に立つ。アイリと明日会おうって約束したけど、こんな朝に会うとは思わなかった。

 アイリって人の顔を見るのが好きなんだろうか。

「ついてきて」

 軽く顔を下げて、前に進む。

 口数が少ない子だね。だからだろうか、雰囲気が大人ぶる椎香と似てる。でも椎香よりは大人っぽい。こっちは本物の大人って感じだ。

 まぁどっちも子供だけど。

「アイリは?」

「まだ寝てる」

「じゃあアイリのとこに行くの?」

「うん」

 昨日初めて顔を見た人と、朝早く二人きりで歩く。

 なんか変だね。

 まだ夢でも見てるんじゃないかってなるくらい、頭がぼーっとする。ぼーっとするのは単に眠いからかも知れない。

「名前、玲奈だったよね。」

「…うん」

「玲奈って呼んでいい?」

「好きにして」

 気まずいな。

「私はマリエでいいよ。」

「うん」

 やっぱ気まずい。

「……」

 信号を待ちながら、玲奈の顔を見上げる。

 背高いね。私より頭半分くらい高いんじゃないかな。

 なんか羨ましい。

「…なに?」

 顔をじっと見てたら、こっちに目を向けてくれた。瞳が濃い茶色だった。

「美人だなーって、思っちゃって。」

 仲良くなるには取り敢えず褒めるといいって、どこかで見た記憶がある。

「……まぁ」

 褒めたらちょっと嬉しそうに笑った。

「背も高いし。」

 最初は見た目を褒めて、相手が少し心を開くと内側を褒めればいいんだっけ。

「なんか羨ましいねー。私も玲奈くらい大きくなりたいよ。」

「そんなに高くないけど…」

「そんぐらいが一番いいの。」

 玲奈は背丈で褒められたことが少ないみたいだ。嬉しそうに、同時にちょっと戸惑いながらも。

 どこか偉そうに私を見下ろす。

「私くらいだと服屋とかで店員さんにこれ着たら可愛いよーとか言われないんだよ。こっちは子供扱いされたくないのにな。」

「確かに可愛い服が似合いそう」

「可愛い服は嫌いじゃないけどさぁ。たまにはかっこいい女にもなってみたいのよ。」

 中学生がかっこいい女だなんて、ちょっとおかしいかな。

「でもマリエならどんな服着ても可愛く見えそう」

「ほらー、みーんなそういうこと言うの。」

 優しい微笑みを浮かべて、ちょっと楽し気に返事をしてくれるから間違ってはないだろう。

「アイリと似てるね。いろいろ」

「そうなの?」

「性格も結構似てるかも」

「へー。」

 アイリはこんな性格なんだ。

「はとこだからだろうかな。」

「はとこ?はとこって、どれくらい離れているの?」

「おじいちゃんの、お兄ちゃんの、孫娘くらい離れてるね。」

「近いようで遠い」

 驚くくらい、話が切れない。玲奈って、意外と親しみやすい性格なのかも知れない。

「いとこなら結構あったけど、はとこはなんか思い浮かばないな」

「私もそうだよ。」

「二人はあったこと少ないの?」

「少ないと言うか、四日前に初めて会ったよ。」

「四日前?!」

 そんなに驚くことなんだろうか。

「じゃあ昨日が二度目の出会いだったってこと?」

「そうなるね。」

「てっきり昔からの知り合いだと思った」

「そんなに?」

「アイリってああ見えて人も知りなんだ。あまり親しくない人にはほとんど自分から声をかけない」

「親しみ難い性格だったんだ。」

「うん。そんなアイリが昨日は当たり前に声かけたから」

「そりゃ驚くか。」

 人見知りだったんだ、アイリは。全然そう見えないけど。

「動画?配信?とかやってるのにそうなの?」

「やっても性格は全然変わらないから問題なんだよ。動画関連で誰かに声かける時はいつも私がやってるんだよ。撮影もしてるのに」

 よく言うね。アイリと関わると口数が増えたりするんだろうか。

「大変そうだね。」

「そうなの」

 色々言うけど、笑ってる。

「玲奈はどうやってアイリと知り合ったの?」

 かなりアイリが好きなんだ。椎香と似てるなやっぱ。

「あんま、覚えてないな…昔からの知り合いだから」

「幼馴染み?」

「そうだと思う。七年くらい付き合ったような」

「へー。」

 椎香と知り合った時と同じやん。

「仲良しだねー。」

「ま、そういうこと」

 嬉しそう。自分が褒められたことより、アイリとの関係を褒められて喜ぶなんて。なんて椎香とそっくりなんだろう。


「ぅーっ。」

 疲れた。

 朝早く呼ばれて、急に撮るって話になって。

「お疲れ」

 ぎりぎりな時間までカメラに向けて笑ったり喋ったり。

「いいもん撮れたよ。明日もくる?」

「寝坊したくせになに言うの」

「それはごめんってー」

 こういうのって、私には向いてないみたい。

「私そろそろ出なきゃいけないんだけど。」

「うんうん。行ってらっしゃいー」

「なに呑気にいんの。暇なら片付けでもしなさい」

 手を振ってベッドに戻るアイリに一言吐いた玲奈が、私の方を見る。

「行ってきまーす。」

 そんな玲奈に笑い掛ける。

 にかっと、目を細くして歯を見せ付ける。

「…行ってらっしゃい」

 なんで照れるんだろう。

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