学園の電力を俺一人の性欲発電でまかなっているのに退学なんですか?
原油価格の高騰がシャレにならない所まできたらしく、日本では計画停電が始まった。
【エアコン使用禁止!】
【照明使用禁止!】
至る所に張り紙が目立ち、車が走る姿もめっきりと減った。
「パソコンすら使えねぇのかよ……」
学園の共用パソコンすら使えぬ始末に、俺は深い悲しみを覚えた。
「……二年一組の聖翼クンだね?」
白衣を着た女子生徒に話しかけられ、静かに頷く。見覚えのない顔に嫌な予感しかしなかった。
「今、話良いかな?」
「……ええ」
「ココじゃなんだから、私のラボへ向かうとしよう」
「?」
女生徒はそのまま歩き出し、俺は黙って後ろをついて行った。
「……この部屋は?」
「見ての通り化学準備室」
案内されたのは化学準備室だが、女生徒は埃まみれの人体模型をずらすと床を外し、階段を降りていった。なんだこの人……。
「さて、挨拶が遅れたね。私は三年二組の鳥嶋咲月。君の一つ先輩にあたる偉大なる先人だ」
「……」
化学準備室の下、俺の知らない怪しげなラボとやらには、大量の機械が眩しく光り、怪しげな動きを見せていた。計画停電の中動く機械にどの様な大役が込められているのか定かではないが、コレがこの学園の運営に深く携わっていることだけは容易に想像がついた。
「ま、いきなりだから言葉も出ないだろう……ただそのまま聞いて欲しい。今から話すことは君の人生を大きく狂わせる事になるやもしれないからだ」
「……」
「……この機械は発電機。コレ一つで学園全てのエネルギーを賄っている」
「……すげ」
「ニュースを見ない君でも流石に知っているだろう。最早日本のエネルギー政策は破綻した。ガソリン価格はついに500円を超え、一般家庭の電気代は月に10万。スマホの電源ですら1回100円だぞ? 終わっている」
「……その発電機の燃料は?」
「ふふ、流石にそろそろ勘づいてきたかな?」
「いえ……」
「今、この発電機は辛うじて動いているところだ。理事長の性欲で」
「──は?」
「……ふふ、普通はそうなる」
この白衣の先輩はキ〇ガイが何かか?
今、理事長の性欲がなんたらとか言ったような……。
「理事長は今年で御年68。流石に性欲は無い。しかし理事長は愛すべき学園の為に、ありとあらゆる欲望を投じた。睡眠、食欲、承認欲求すらも、だ」
「……」
「その結果、理事長は三日で病院送りとなったわけだ」
「で? 何故俺がココに?」
「……察しの悪い男だ。君は選ばれたのだよ。この性欲発電の燃料として」
「──は?」
「分かったからその顔は止めてくれ。調子が狂う」
「帰ってもいいすか?」
「君の性欲を買い取りたい。君はAIによって選ばれた性欲モンスターなのだ」
「あ、帰ります」
「因みにだが……昨日は何回したのかね?」
「じゃ」
「1シコ5000円換算だが」
「七万五千円んんんんんんんんん!?!?!?!?」
「顔が近い顔が近い」
こ、この白衣先輩……俺の性欲を買うとか言ったな!?
俺の性欲が金に……!?
「あ、因みにだが買い取りは10シコからで宜しく。ちっちゃい電気だと逆に効率が悪い」
「やべ、余裕……」
「あ、因みにだがあくまでシコは単位で、実際にシコシコシコシコシコシコシコシコシコする必要は無い。ケーブルから性欲を回収するからな」
「尚更余裕」
「じゃあ、承諾という事でいいかな?」
「…………」
と、一瞬脳が止まった。何か出来そうな、一瞬のチャンスを感じたからだ。
「もし断ったら?」
「理事長の自己肯定欲が無くなるだけだ」
理事長が死のうが俺には関係ないのだが……。
「一つ条件がある」
「君の家にも電力を回そう」
「二つ条件がある」
「学食のタダ券をつけよう」
「三つ条件がある」
「卑しい奴め。言ってみろ」
「彼女が欲しい」
「は?」
「女が欲しい」
「率直に言えば良いという物では無い」
「彼女が居れば性欲も湧きやすいかと」
「その性欲を全て吸収するのだから、彼女なんか要らなくなるぞ?」
「それでも欲しい」
「……分かった。準備する」
「じゃあ早速お願いします」
承諾するなり、白衣先輩は発電機の横からヘルメットを取り出した。ケーブルがヘルメットと発電機を繋いでいた。
「これをかぶって」
「……はあ」
何の変哲も無い、ただのヘルメットだ。
「スイッチ入れるぞ」
「あ、はい」
ちょっと緊張する。
「はい終わりー」
「…………何も変わってなくないですか?」
「いや、君の性欲は確実に吸収された」
「……と、言っても何も変化が無いんじゃあ……」
「じゃあ、私とエッチしようか」
「──は?」
「その顔好きだね。良い反応だ」
「いやいやいや、何でですか?」
「私が君の彼女になろう。こう見えて家庭的なのだよ」
「いえ、結構です」
「白衣で分からないだろうが、こう見えてGカップなのだよ」
「いえ、大丈夫です」
「エロ本をあげようか?」
「いえ、間に合ってます」
「ほら、君の性欲は既に無くなっている」
「…………」
そう言われると、確かに何もエロい気持ちが湧いてこない。どうやら俺はさとり世代へとなったらしい。
「君の性欲のおかげで、この学園三日分の電力が賄えた。礼を言おう」
「いえ」
「謝礼金は後日。また三日後来てくれ。私はいつでもここに居る」
「…………」
なんというか、不思議な気分だ。献血をした後みたいな、ほわんほわんとした気持ちだ。
「……帰らないのかい?」
「さっきの話ってまだ有効ですか?」
「ん?」
「エッチしないかって話です」
「──はぃ!?」
「あ、すっごい顔しましたね。移りました?」
「ちょちょちょ! え? ええ!? 今、たった今君の性欲は全て吸収した筈だが!?」
「エッチしてもいいですか?」
「み、見るなっ……!!」
白衣の上から胸を隠す先輩。ラボの隅に置かれた仮眠用のベッドを指差すと先輩は必死に顔を横に振り始めた。
「ヘルメット! ヘルメットをかぶれ!」
「はい」
「スイッチオン!」
「…………」
「エ、エッチするか?」
「大丈夫です」
「ふー。じゃ、また今度な」
「…………さっきの話ってまだ有効ですか?」
「──はぃぃ!?」
「その顔も中々可愛いですね。そそります」
「ちょちょちょ! 待て! ヘルメット……ああ!! もう電力がMAXだ! これ以上吸収出来ない……!!」
「じゃあ、宜しいですよね」
「──ク」
「く?」
「君は退学だーーーー!!!!」
「は?」
「じゃ!」
「……え?」
学園を退学になった俺。俺がいなくなって閉鎖された学園と理事長の訃報。
日本のエネルギー全てを俺一人で賄う様になるのは、ほんの少し先の話。