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第八八話 シャルロッタ 一五歳 暴力の悪魔 一九

 ——ヒキガエル面の怪人は大きく手を広げて天へと何かを乞うような動作を見せる……それはまるで神への嘆願を行う大司祭のようでもあり、精霊へと助力を乞う呪術師のようにも見える。


「檻に囚われた魂よ、墓地に囚われし悪霊よ、悪魔の翼を得て立ち上がれ……」

 知恵ある者(インテリジェンス)の朗々とした詠唱が始まる。

 それと同時に地面がガタガタと揺れ始め、彼を中心として巨大な魔力が集まっていくのを感じる……そしてこの詠唱内容はわたくしも知らない魔法体系に基づくもの。

 つまり混沌魔法だ……あまりに集中した魔力により天候がどんどん変わっていく、黒雲が渦を巻いてあたりに冷たい風をふきつけていく。

「新たなる命を得て、全てを打ち壊すその姿を現世に表せ……いくぞ勇者よ混沌魔法、腐死の女王(リビングデッドガール)


「……しま…っ!」

 その詠唱完了とともにわたくしの立っていた場所を中心に、凄まじい数の巨大な白骨化した腕が突き出していく……こいつはオルインピアーダが見せた相手を結界へと閉じ込める混沌魔法と同じやつか。

 無数の骨はまるで自ら格子を作るかのように手を握り、腕を鷲掴み……そして白い牢獄を作り上げていき、あっという間にわたくしと知恵ある者(インテリジェンス)だけが対峙する密閉空間を作り上げてしまう。

 そしてその空間内には恐ろしいまでの死の気配……いや夥しい数の死霊が蠢く濃密な空間へと変化を続けていく。

 わたくし自身は防御結界を纏っているからこの程度の死霊に触れられようが、噛みつかれようが無傷で済んでいるが、普通の人間が閉じ込められたら数秒で肉体を引き裂かれ絶命するだろう。

「……やはりお前は異常だ、この結界内には冥界に漂う濃密な死を呼ぶ空気が流れている、それなのにお前は絶命しない……」


「……いーや? 防御結界を解けばさすがにダメージは受けそうね」


「だが、この結界内では全ての力を解放して戦うことなどできようはずもなかろう? そしてこの中では私が王となる……」

 いきなり頭に何か固いものが衝突してわたくしは思わずつんのめりそうになる……なんだいきなり後ろから殴るとか……と、顔を上げたわたくしに向かって全方位から超高速で白い骨の槍が向かっていることに気がついた。

 まずい……さすがに相手の攻撃力が完全に判明していないのに防御結界任せにしたら魔力を無駄に浪費することになる。

 わたくしは右手に構えた不滅(イモータル)を奮って飛来する数百の骨の槍を叩き落とす……切り裂き打ち据える度にパキン! ボキッ! ゴキン! という少し耳障りな音が上がるが、そうも言ってられない。

「……はあああっ! まだまだああっ!」


「……ああ、勇者……これぞ勇者だ……だがあっ!」

 飛来する骨の槍を次々と撃ち落としていくわたくしを見て、知恵ある者(インテリジェンス)は口の端を歪ませる……濁った目には何か懐かしいものを見ているかのような色が浮かぶ。

 次の瞬間彼の隣にまるで空間を引き裂くように不気味な姿をした何かが出現していく……それは真っ白な白髪に、顔が半分溶けかけたような腐乱死体……いや、所々に腐り切っていない肉体が残されており、まるで死体を無理やり動かしているかのようにカクカクとした動きを見せながら地面へと降り立つ。

 なんだこいつは……知恵ある者(インテリジェンス)は眉を顰めるわたくしを見て再び歪んだ笑みを浮かべる。

「……何? 不死者(アンデッド)……? いやそれにしては……」


「さあ腐死の女王(リビングデッドガール)……勇者の顔を手に入れよ」


「……美しい顔……欲しいイイイイイーーッ!」

 腐乱死体がわたくしと目が合った瞬間、凄まじい金切り声をあげると開いたままの口から恐ろしい数の死霊(レイス)が吹き出していく……。

 見たことも聞いたこともない魔物? いやこいつは混沌の眷属に違いない、だが前の世界には存在しない不気味な怪物の対処法など初見でわかろうはずもない。

 とにかくこの結界を破壊するのと、膨大な数が空間に解き放たれてまるで竜巻のように荒れ狂う死霊(レイス)をどうにかしなきゃいけない。


「神なる御霊よ、大いなる怒りよ、我が元へ顕現せよ、魂の焔(ソウルフレイム)ッ!」

 サルヨバドスにも使った聖なる炎を巻き起こす魔法魂の焔(ソウルフレイム)が空間内へと荒れ狂う……白銀の炎は呻き声や怨嗟の声を上げながら殺到していた死霊(レイス)を一瞬で焼き尽くす。

 さすがに対混沌専用に近い魔法とはいえ腐死の女王(リビングデッドガール)と呼ばれた大元の怪物には対して効果が出ていない……ということは第四階位の悪魔(デーモン)より強力ってことか。

 あちこちに白銀の炎がまとわりついても意に介せず、腐死の女王(リビングデッドガール)が再び腐り切った顎を広げて金切り声をあげる。

「ずルいずるイズルいズるい!! お前の顔が美しいのが妬ましい……声が美しいのも羨ましい……よこせええええっ!」


「……うわ……なんだよ本当に……」

 まるでその体を包み込むように恐るべき漆黒の魔力が渦巻く……暴風のように空間へと吹き荒れると魂の焔(ソウルフレイム)をかき消していく。

 彼女のそばに立つ知恵ある者(インテリジェンス)も無傷……そしてわたくしを見て笑みを浮かべたまま、腕を組んでこちらをじっと見ている。

 こんな魔法じゃ大した効果は出ないって顔なのか……? カチンときたわたくしは一気に魔力を集中させていく。

 それに反応したのか腐死の女王(リビングデッドガール)がまるで滑るような動きで不規則な動きを見せながらわたくしへと迫り来るのを見てわたくしは叫んだ。

「舐めやがって……ならやってやりますわよ! ぶっ飛ばしてやりますわっ!」


「ホシィイイイイッ!」

 腐死の女王(リビングデッドガール)が腐乱しかかっている腕を振り回す……関節部分はすでに肉が腐り落ちている故に繋がっていないため、こちらの予想よりもほんの少しだけ拳が伸びるような感覚がある。

 だがわたくしはその大雑把な攻撃を避けつつ、不滅(イモータル)をその体に叩き込む……明滅する刀身が不死者(アンデッド)の体へと食い込むが、まるで巨大な壁に阻まれているかのように重い手応えが伝わる。

 わたくしは城壁程度だったら一撃で切り裂く自信もあるが、そんなレベルじゃない……まるで地面を叩き割ろうかというくらいの重さ、そして肉体は切り裂けていない。

「な、なんて固さ……なんだこれ、何かが……」


「チョウダイイイッ! その綺麗な目を、綺麗な髪を……あなたの全てを頂戴いいいッ!」

 不死者(アンデッド)がその半分溶けかけた眼窩より蛆虫が吹き出しながら、歓喜の表情を浮かべてわたくしへと大きな口を開けて噛みつこうとする。

 わたくしは咄嗟に相手の体に前蹴りを入れて距離を離すが、やはり異常なほど手応えが重い……重い?

 おかしい、わたくしは一定の条件下でなければ、相手を蹴ったり殴ったりすることにこれほどの手応えを感じることはない。

 だが……目の前の腐死の女王(リビングデッドガール)の手応えはまるでわたくしがその特定の条件下になったかのように……いや、わたくしが弱くなっているかのような錯覚を覚える。

 間髪入れずにわたくしへと骨の槍が埋め尽くすように殺到するが、わたくしは剣を振るうとその全てを切り裂き叩き落としていく……そこでようやく一つの可能性にたどり着いた。

「……空間のせい? いや、もしかしてこの空間内にいる限り目の前の敵は……」




「……くだらん、これではアンスラックスのような戦いにはなり得ないではないか……」

 腐死の女王(リビングデッドガール)とシャルロッタが対峙し接近戦へともつれ込んでいるのを見ながら、呆れたようにため息を吐く知恵ある者(インテリジェンス)

 本当にこの女がアンスラックスを倒したのか? という軽い失望と、好敵手(ライバル)であった元勇者がこのような感情的に戦う女に負けたという事実が信じられずに落胆している。

 この結界内において腐死の女王(リビングデッドガール)はほぼ不死……肉体を破壊しようが、魔法を叩き込もうが死ぬことはない。


 シャルロッタは腐死の女王(リビングデッドガール)を叩き切り、拳で破壊し、蹴りで粉砕しようとしているがその度に不死者(アンデッド)は金切り声をあげて肉体を修復してしまう。

 さすがにおかしいと考えているのか困惑の表情が浮かんではいるものの、それでも接近されている故に反撃し続けている……そのうち疲労で動けなくなるだろう。

「ああ……我が好敵手(ライバル)よ、思えばお前は本当の騎士だったな……」


 一〇〇〇年前……アンスラックスと知恵ある者(インテリジェンス)は一度だけ死闘を繰り広げたことがある。

 勇者と訓戒者(プリーチャー)は互いに持てる力を振り絞り戦った……そしてその時も大技であるこの腐死の女王(リビングデッドガール)を使用したのだ。

 アンスラックスはこの魔法に囚われた時にも冷静に、目の前の不死者(アンデッド)を倒すことが不可能と瞬時に判断し、空間を叩き切るという離れ技を演じて見せた。

 その時の剣技は知恵ある者(インテリジェンス)の脳裏に焼きついて離れない……無駄がなくまるで全てを切り裂くかのような流麗な剣筋は忘れたくても忘れられない。


「……これが破られたとしても次があろうというのに……シャルロッタ何某はそれすらも出させてくれぬのか……残念だ」

 確かにアンスラックスは魔法能力と剣技に優れていたが、それよりも冷静に状況判断し何を為すべきかを選択できるという恐ろしいまでの判断能力を備えていた。

 先ほどシャルロッタが見せたような多彩な技は持ち合わせていなかったのに、勇者としての基本性能が恐ろしく高かった、いや高すぎた。

 それ故に以前の魔王は彼に敗北した……誰もが信じられないものを見ただろう、魔法すらもその剣で切り裂くという恐るべき男の闘いぶりに。

 彼に勝つために、彼を跪かせるために強くなったというのに……すでにその男の魂はこの世界からは消えてしまっている。

「……寂しい、寂しい……お前だけだ、私を醜いと罵らなかったのは……お前の墓前にこの阿婆擦れの首を添えてやろう、お前を汚したあの女の魂を堕落させて、ゴブリンどもの苗床にしてやる……」

_(:3 」∠)_ ロブゾンビって割といい楽曲作ってるんですよねえ……ホワイトゾンビもちょっと変わってていいバンドでした(懐


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