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第八七話 シャルロッタ 一五歳 暴力の悪魔 一八

「ああ、まずい……悪魔(デーモン)など食べるものではないな、吐瀉物の味がするわい……」


 知恵ある者(インテリジェンス)は濁った瞳をわたくしに向けてニヤリと笑う。

 飄々とした語り口ではあるが、先ほどからわたくしは一歩も動けていない……隙があるようで隙などない、見た目はすんぐりむっくりな腫瘍だらけの肌を保つ、でっぷりとした肥満体型のカエル面。

 だがしかしその内に秘めたる魔力は凄まじく、そしておどろおどろしい不気味な感覚を伝えてくる……混沌の眷属としてはほぼ最上位、この上には神しかいない、そんな雰囲気を感じる。

「……で? 貴方は何しにここへ?」


「……噂のシャルロッタ・インテリペリを見物に、ついでに弱ければ殺して帰ろうと思っていた、戯れだよ」


「ならお帰りいただいても結構ですわよ?」

 わたくしは笑みを浮かべて知恵ある者(インテリジェンス)へとそう伝える……戦って勝てるか? という自分自身への問いに対して、わたくしは「イエス」と答えるだろう。

 なぜならわたくしは前世で魔王を倒した最強の勇者だったのだから、この世界においても誰にも負ける気はしない……ただそれは本気も本気、この周囲一体を焦土と化してという注釈がつく。

 こいつは見た目はちょっとアレだけど、強さは本物だ……魔王級と言っても差し支えないくらいのレベル。

「そいつは難しいな……気に食わないやつが仲間におってな、見た目は整っていても性格が最悪で殺したくなるようなやつだ」


「わたくしお淑やかで性格は良いと言われておりますのよ、対象外じゃなくて?」


「安心しろ、お前はそいつと同レベルで性格が悪い性悪だ……だから今からお前を殺す」

 ブワッ! と知恵ある者(インテリジェンス)の魔力が膨れ上がる……ターベンディッシュの眷属もしくは信奉者だとしたら魔法能力は恐ろしく高いだろう。

 本気でやらないとダメか……わたくしはユルへと「ひたすらに全力で防御して」と念話(テレパシー)で伝えると、虚空をこじ開け狭間より不滅(イモータル)を引き抜いて構える。

 が、それを見た知恵ある者(インテリジェンス)が思い切り嫌悪の表情を一瞬だけ浮かべ、長い舌を伸ばして言葉を吐き捨てる。

「き、貴様……アンスラックスの愛剣だと?」


「今はわたくしの愛剣でしてよ?」


「……だから性格が悪いと言っている、貴様はアバズレだ」

 知恵ある者(インテリジェンス)がわたくしへと手をかざすと、無詠唱で凄まじい量の破滅の炎(ルインオブフレイム)が照射される。

 いちいち数えるのも馬鹿らしいが、わたくしがカトゥスに叩き込んだ数よりはるかに多い……数十本近い稲妻状の炎がわたくしへと迫る。

 これでも殿下からは「シャルは控えめで可愛いね」と言ってもらってるのだから、性格は悪くないとは思うんだよね……ふうっ! と大きく息を吐くとわたくしは剣を真横に構え、少し腰を落とす。


「——我が白刃、切り裂けぬものなし」


 この攻撃は正面から打ち砕かなければいけない……相手の出方がわからない以上、ここはわたくしが持てる最大の技で一気に仕留める、つまり剣戦闘術(ブレードアーツ)……相手の出鼻をくじくために叩き込む。

 長期戦はまずい……という冷静な思考も働いている、この場所に来るまでに魔力をかなりの勢いで消費している上に、わたくしは「赤竜の息吹」のメンバーを無事に返さなければならないのだから。

 わたくしは無数に飛来する稲妻状の火焔を全て叩き切るつもりで一気に地面を蹴り飛ばし、突進を開始する。

剣戦闘術(ブレードアーツ)四の秘剣……狂乱乃太刀(クレイジートレイン)ッ!」


 わたくしの体が音速を超えて進行方向にある全ての魔法を破壊し突き進む……その衝撃は少し遅れて地面を割り、空気を引き裂いて一直線に混沌の眷属へと突き進む。

 この技は進行方向上にある全てのものを破壊し、切り裂きながら突進していく攻撃力を最大に生かすための技で、音速を超える突進斬撃はドラゴンすらも一撃で屠るのだ。

 だが、知恵ある者(インテリジェンス)は口元から舌を伸ばすと、近くの木へとくるりと巻きつけまるで伸ばしたゴム紐が収縮するかのような動きで、わたくしの攻撃をひらりと避ける。

「クフフッ! 猪突猛進? 単細胞だなッ!」


「まだまだあっ! 狂乱乃太刀(クレイジートレイン)ッ!」

 攻撃を避けられたわたくしだが、木にぶら下がったままの知恵ある者(インテリジェンス)に向かって、再び地面を蹴り飛ばしてほぼ直角の軌道で音速の突進を仕掛ける。

 再び迫るわたくしの攻撃を見て、やれやれと言わんばかりに少し呆れ顔のようなものを浮かべた知恵ある者(インテリジェンス)は、木に巻きつけた舌を解くと地面へと降り立ち私に向かって手をかざす。

「炎を退けしもの、嵐を受け止めるもの、雷を薙ぎ払うもの、戰の女神を守り賜う盾をここに……戦神の大盾(アイギスシールド)


 彼の目の前に光輝く純白の盾が出現する……こいつは超高レベル帯に位置する絶対防御魔法戦神の大盾(アイギスシールド)か!

 わたくしの斬撃が純白の盾に衝突するとあたりを揺るがす振動と、ガギャーン! という凄まじい轟音と共に突進自体を受け止められ、わたくしは勢いを完全に殺されたと判断して距離を取るために大きくジャンプする。

 この魔法はわたくしも使えるのだが、戦を愛する女神の持つ巨大な大盾を具現化してどんな攻撃でも一回受け止める防御特化の魔法。

 光の盾(ライトシールド)の超強化版と考えればいいが、わたくしがあれを使っているのは魔力を込めると余程の攻撃でなければ防御可能だし、詠唱が短いので咄嗟の時に出しやすいという点だけだ。

 むしろわたくしの狂乱乃太刀(クレイジートレイン)はこれでないと止められない、というのを瞬時に判断して繰り出してきたところを見るとこいつは戦い慣れている。

「く……こいつ……」


「この剣技、世界には存在しないな……やはり貴様が盟約を破ったものか……そして不滅(イモータル)を継承したということは勇者の器ということだな」

 純白の盾が消滅していくと共に、再びヒキガエル面の知恵ある者(インテリジェンス)が憎々しげな表情でわたくしを睨みつけているのが見える。

 盟約を破る……? ダルランもそう話していたが、もしかしてわたくしがこの世界へと転生したことはなんらかのタブーを破っているということだろうか?

 しかし本来勇者としての予言を受けたのはクリスだ……彼は一〇歳になる前聖教の大司祭によって勇者の素質があるという予言を受けている。

「クリ……あ、いやクリストフェル殿下が勇者なのでしょう? わたくしはそう聞いていますよ?」


「そうだ我々はそう思っていた……だが、お前は三度……いや今回で四度悪魔(デーモン)を退けてのけた、それ故私はお前を勇者として認定する」


「うれしくない認定ですわね? どうせならイケメン司祭様に認定してほしいですわ」


「クハハッ! お前らのような連中は皆同じだ、外見の美醜のみで内面を全く見ようとしない……私のような訓戒者(プリーチャー)に認められるというのは光栄なのだぞ?」

 グニャリと混沌の使徒らしい歪んだ笑みを浮かべる知恵ある者(インテリジェンス)……この笑みは彼らに共通する表情で、人間の姿に擬態してもこの笑みを浮かべるためかなりわかりやすい特徴になっている。

 だが普通の人間が見たときにその笑みは不気味で不安感を煽るものだ、それゆえに混沌の眷属に自ら近づいて傅くなどという変わり者は少ない。

 認められたところでな……魔王にも「お前この世界の半分を支配しないか? そしたら平和的解決できるだろう」と誘われたことがあったな。

 だからわたくしの答えは毎回一緒だ……第一魔王クラス、いや魔王に匹敵する敵だとしても……混沌と手を結ぶことはない。


「やっぱり貴方イケメンじゃないから無理ね、認定されても困るわ」

 わたくしはニヤリと笑って剣を向ける……その姿を見て知恵ある者(インテリジェンス)は再び歪み切った笑顔を浮かべると、口から伸ばした紫色の舌を長く伸ばす。

 そしてその舌を鞭のようにしならせると近くにあった岩を一撃で破壊する……つまりあの長い紫色の舌ですら、一撃必殺の武器となり得るという証なのだろう。

 彼から放出される巨大な魔力が膨れ上がっていく……それは地面にヒビを入れ、恐ろしいまでのプレッシャーとなってわたくしの肌にビリビリと突き刺さる。

「なら交渉決裂だ……せっかく汚物の世界をくれてやろうというのに……残念だ」




「ユル……シャルロッタ様は有利なのか?」

 エルネットはリリーナの手によって簡易的な応急処置を施されながら、傍に立つ黒色の毛皮を持つ巨大なユルへと問いかける。

 すでに「赤竜の息吹」のメンバーは戦闘力を喪失しているが、致命傷を負ったものはおらずリリーナと意識を取り戻したエミリオがエルネットの傷を応急処置をしている……デヴィットは目の前で繰り広げられている超人と怪物の凄まじい激闘に唖然とした顔を浮かべながら、その成り行きを見守っている。

「今のところ……互角かシャルが有利だ」


「そうか……さすが、だな」


「だがあの知恵ある者(インテリジェンス)と名乗る不気味な怪物……まだ隠し球を持っているようだ、それに対してシャルはすでに戦闘術(アーツ)を見せてしまっている」

 ユルの顔には余裕の表情はない……知恵ある者(インテリジェンス)が纏っている凄まじいまでの混沌の魔力は、彼が幻獣界で聞いた神にも匹敵するなにか、のように見えるからだ。

 確かにシャルロッタは神にも匹敵する戦闘能力を持っているだろう、彼女自身の自信とそして昔話を聞けば魔王を倒したというのがブラフではないことが理解できる。

 だが……それでもなお彼女の前に立つ怪物はあまりに不気味で底がしれない何かを持っている。


「……これほどまでの怪物がこの世界にいるなどと……古老は教えてくれなかったが、恐るべき力を持つ強大な存在……それが混沌に与しているというのか……」

_(:3 」∠)_ TSしててもやっぱりイケメンには目がないのです


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