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第七二話 シャルロッタ 一五歳 暴力の悪魔 〇三

「なぜプリムが追放で、お前はお咎めなしなのだナントカ姫……」


「そんなこと言われましても……わたくしやましいことはないのですわ」

 目の前で不満そうな表情を浮かべているミハエル・サウンドガーデン……サウンドガーデン公爵家次男である彼とわたくしは学園内にあるカフェテリアで同じテーブルを挟んで相対した状態で座っている。

 なぜこの男が目の前に座っているのか……わたくしの横にはターヤがオロオロとした表情で、ミハエルとわたくしの顔を交互に見ながらどうしていいのかわからないという顔で困り果ている。

「……ミハエル様もシャルも仲良くしましょうよ」


「……わたくしのことがお嫌いなのであれば、無理にお声がけをいただかなくてもよろしくてよ?」


「……俺だってこんな状況じゃなければお前に声などかけん」


「うえええ……何でぇ? なんでそんなに二人は仲良くないんですか……」

 わたくしも正直いえばミハエルのことはあまり好きではない、というか初対面でのあの言動ではっきりいえば「敵認定(ク⚪︎ヤロー)」しているわけでして……でもミハエルはクリスの取り巻きの一人であり、サウンドガーデン公爵家は第二王子派閥に急接近している貴族の一つでもある。

 それ故に無碍な扱いをすることはクリスのためにならない、というのは頭では理解しているのだ……だが、生理的にこいつはムカつく、という感情の部分でわたくしは彼に対して何か媚びるような言動や態度をする気にはなれない。


 現在イングウェイ王国には王位継承権をめぐって二つの派閥が対立している。

 一つはアンダース・マルムスティーン第一王子を擁する派閥……国王陛下が酒の席で彼に王位を継がせると口を滑らせたことに端を発しているが、順当に行けば王位継承でイングウェイ王国内での重職を担えると判断した高位貴族、そして近衛軍を中心とした王国軍の大半を糾合した「第一王子派」と呼ばれる派閥。


 そしてわたくしの婚約者でもあるクリストフェル・マルムスティーン第二王子を擁する派閥……中心となっているのはわたくしの実家であるインテリペリ辺境伯家や中立派、そして政治の中心から外れた貴族達、商人組合(ユニオン)冒険者組合(アドベンチャーギルド)、地方軍など第一王子派から弾き出された「部外者(アウトサイダー)」達だ。

「お前の家は殿下を支える派閥の中心だ……俺はお前のことは大嫌いだが、殿下を共に支える貴族として頼みがある」


「……すでにその言葉でわたくしの心象最悪なのですが、わかってます?」


「だから俺はお前のことが嫌いだとしても、ちゃんとこういうことができる……シャルロッタ・インテリペリ、頼む……俺に力を貸してくれ」

 ミハエルは座っていたソファから立ち上がると、わたくしに向かって頭を下げた……あれ? なんでこいつ急に……わたくしがキョトンとした顔を浮かべていると、ミハエルは再びソファへと座り直すと仏頂面でカップに入ったお茶を啜ってバツが悪そうな顔を浮かべている。

 俺に力を貸してくれ……? 何をすればいいんだろうか? わたくしはむしろこのイケ好かない同級生が何に困っているのか、という方が気になってしまい、軽くため息をついた後に話しかける。

「……過去のことは置いておいてですが、何にお困りなのですか?」


「お前の実家が高名な「赤竜の息吹」という冒険者を傘下に収めている、という話を聞いた……その冒険者を俺の実家、領地に出没している魔物を退治するために派遣して欲しいのだ」


「魔物……ですか?」


「ああ……」

 ミハエルの実家、サウンドガーデン公爵領は王都から少し離れたライノソー地方にあり、温暖な気候と海の幸が名産となっている場所だ。

 魔物の生息数はそれほど多くなく、王都在住の冒険者に言わせると「休暇で新鮮な魚を食べにいく場所」とのことで観光地のような扱いを受けている場所でもある。

 それ故に冒険者組合(アドベンチャーギルド)の支部はあるが、常駐している冒険者の絶対数が足りていないという話を受付嬢がこぼしてたな。

冒険者組合(アドベンチャーギルド)に依頼は出されたのですよね?」


「すでに依頼は出した、だが数組の冒険者パーティが戻ってこなかったそうだ。そこで「赤竜の息吹」ならば、という話を持ち出された」

 ミハエルが悔しそうな表情を浮かべているが、確かに「赤竜の息吹」がインテリペリ辺境伯家の傘下に入った、と正式に冒険者組合(アドベンチャーギルド)から通達が出ている。

 このイングウェイ王国を中心に活動する冒険者が貴族家の傘下に入るというのは、戦国時代における寄子のような扱いに近い、「赤竜の息吹」がインテリペリ辺境伯家の庇護にある場合、他の貴族家からの依頼を受け付けるかどうかはウチが決めていいことになっている。

 恩を売る、貸しを作る……貴族家同士の腹の探り合いや取引、そういった政治に係わる材料としての価値が生まれている……まあエルネットさん達にしたら余計なお世話に近い話だが、貴族家との契約にはそういうことも含まれている。


 その代わり貴族家は傘下に入れた冒険者を全力で守る、犯罪行為すら不問にするというある意味超法規的なことすらやってのける、それが高位貴族の権力でもあるからだ。

 民間の依頼を偽装して寄子になっている冒険者パーティへと依頼するやり方もあるにはあるが、あまり褒められたものではないし、何よりバレた時に「あの家は汚い手を使った」と後ろ指を刺されることになる……というまあ面子とかプライドの問題になってくるのだ。

「複数の冒険者パーティが失敗したという魔物……「赤竜の息吹」なら対応できるとする根拠はなんでしょうか?」


「王都における依頼達成率の高さ、それと実績だそうだ……彼らは金級へと昇格しているだろう? 戻ってこなかったパーティには銀級もいるそうだ」

 銀級冒険者パーティとはいえ、そのクラスの中にいる冒険者のレベルはまちまちだ、エルネットさん達はかなり特殊で腕も良いが、銀級とは名ばかりのものもいないわけではない。

 ただサウンドガーデン公爵家から依頼を出してそれに応募するような冒険者パーティが弱いというのも考えにくいので本当に何かとんでもない異変が起きている可能性はあるのだよね。

「……ミハエル様、承知いたしましたわ、エルネットさん達にはわたくしからもお話をしてみます」


「……いいのか?」


「貸し一つですわ」

 こういう時だからこそわたくしは最大限のドヤ顔を浮かべて、普段使いもしない扇を広げ軽く自分を軽く煽ぎながらニンマリと笑う。

 その笑顔を見てターヤが再びアワアワしながらわたくしとミハエルの間を右往左往している……すっかり蚊帳の外にしてしまっているが、重要な話でもわたくしがターヤを遠ざけないのは「わたくしの友人である」ということを周囲の人に知らしめることも目的に入っている。

 辺境の翡翠姫(アルキオネ)の庇護下にある平民の少女……お前ら手を出したらどーなるかわかってんだろうな? という示威行動でもあるけど、わたくし自身がミハエル、サウンドガーデン公爵家の人間に認めさせたいことがあるからだ。

「か、貸しって……シャルあんまり無理なことを言うのは……」


「何をすればいい?」


「ターヤを友人として扱ってくださいまし、貴族だ平民だと学園内で差別するようなことがないように、殿下の思いをきちんと汲んでくださらない?」


「シャル……」

 最近あまりにバタバタすることが多くて対応しきれていないのだが、あまり表沙汰にはなっていないが平民であるターヤは心無い一部の貴族子女から軽いイジメに遭っている……わたくしがいるときは手出しをしてこないが、いない時には細かい嫌がらせがあるらしい、らしいと言うのもわたくしが姿を見せている時は決して手出しをしてこないため全然気がつかなくて、彼女が本当に一人になった時にしか行われないそうだ。

 わたくしが気付いたのも彼女の普段持っている勉強道具に泥が付着していたことでようやく気が付いた……正直元勇者失格といってもいいほどの失態なのだが、それでもやれることはきちんとやっておきたい。

「俺が平民……い、いやターヤ・メイヘムを友人として……だと?」


「そうですわ、ターヤは平民とはいえこの学園に入学を許されるくらい優秀です、きっと公爵家のお役にも立つ人材になりますわ……今から友人として付き合っていただければと」

 サウンドガーデン公爵家は高位貴族、まあ公爵なんだから当たり前の話なのだが、インテリペリ辺境伯家、そしてサウンドガーデン公爵家の子女が後ろ盾になる……これはそう簡単に手出しができない人物になる。

 表立ってそう喧伝する必要はなく、わたくしとミハエルが「友人」として彼女を扱う……これの意味がわからないやつは貴族失格だし、その上に誰がいるのかわかっていればそう簡単に手出しができなくなるはずだ。

 少し迷った表情を浮かべたミハエルだが、おそらく実家からも何かしらの指令が出ているのだろう、少し逡巡した素振りを見せた後彼は大きく息を吐いた後頷いた。


「……背に腹はかえられんな、おいターヤ・メイヘム……今からお前は辺境の翡翠姫(アルキオネ)とこの俺の友人だ、よろしくな」

_(:3 」∠)_  シャル「知ってます? こういうのツンデレって言うんですわよ」 ターヤ「ツンデレ?」 ミハエル「ナントカ姫エエエエエーッ!」


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