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第六七話 シャルロッタ 一五歳 肉欲の悪魔 〇七

「我が治世はよくトラブルが起きるな……これもクリストフェルが勇者としての予言を受けてからか……」


 王都の中心にある巨大な城、イングウェイ王国の王城たるオーヴァーチュア城の謁見の間において、イングウェイ王国国王であるアンブローシウス・マルムスティーンは宰相であるアーヴィング・イイルクーンより受け取った報告書に目を通して深くため息をついた。

 報告書には事細かに今回発生した事件について当事者からの聞き取りが行われた内容がびっしりと記されている。


 ホワイトスネイク侯爵家令嬢であるプリムローズ・ホワイトスネイクが混沌の僕である肉欲の悪魔(ラストデーモン)に堕落させられ契約を結んでしまい、その結果王立学園を占拠し学生だけでなく、クリストフェルにも危害が及んだこと。

 何らかの理由で肉欲の悪魔(ラストデーモン)は滅ぼされ、プリムローズは解放されたが精神的に大きなダメージを背負っていることと、次世代の天才とまで謳われたその莫大な魔力が減退しており、当分は静養が必要なほど弱っていること。

 プリムローズが堕落した原因はインテリペリ辺境伯家令嬢であるシャルロッタ・インテリペリがクリストフェルの婚約者に決まったことから、嫉妬に駆られそこを悪魔(デーモン)につけ込まれたこと。

 なぜかクリストフェルの護衛としてシャルロッタが契約を交わしている幻獣ガルムがその場にいて、王子を守ったこと。

 当のシャルロッタ嬢は今回事件には直接関わっていないものの、本人も()()()()()()を受けており婚約者を辞退できないか、と内々で相談を持ちかけてきていることなど。


「……ホワイトスネイク侯爵より此度の責任を取るために職を辞したい、と申し出がありました。ただ……現在の状況から宮廷魔導師、さらにそれに連なる魔法師団団長の座が空白になるのは他国に余計なメッセージを送る可能性がございます」

 報告書を読み直しながら再びため息をついたアンブローシウスに、険しい顔のままアーヴィング宰相が報告するが……国王は頭が痛い、とでも言いたげな表情で信頼する側近であるアーヴィングを涙目になって見つめるが、彼は無表情のままそっぽを向いて「お前でどうにかしろよ!」とでも言わんばかりの顔をしている。

 アンブローシウスとアーヴィングは王立学園で同級生、しかも悪友としてお互い若い頃は散々に悪さをしていた……そう言う仲である。

「……お前最近冷たいよね?」


「そんなことはございません、我が身は陛下のためにありますゆえ」


「じゃあこれ片付けてよ」


「あー、申し訳ありません、少し耳鳴りがしていましてよく聞こえませんね」

 アーヴィングは無表情のままあらぬ方向に顔を向けて絶対に受け取らねえ、と言わんばかりに拒絶している……やはり手伝う気ないじゃん……と小声で呟くとアンブローシウスは再びため息をつく。

 第一王子アンダースと第二王子クリストフェル、王位継承問題において二人の王子を支持している派閥の対立が激化していることでも頭が痛い。

 クリストフェルが謎の病に侵されていた時期にアンブローシウスはアンダースに王位を継承させるつもりでいた、病気が快癒してもクリストフェル本人は王位を望んでいたわけではなかったこともあり、当時はそれで収まっていた。

「まさか非公式にクリストフェルが王位継承を望むって伝えてくるとは思わないじゃないか……」


「背景にはシャルロッタ・インテリペリ……辺境の翡翠姫(アルキオネ)の存在が大きいですな」


「幻獣ガルムもさぁ……クレメントの申告と全然違うじゃねえか」


「大型犬くらい、でしたっけ……先日の報告ではそんなレベルではなかったそうで」

 頭が痛くなる話ばかりだ……とにかくクリストフェルが王位継承に興味を示したことで第二王子派という派閥が形成されてしまったことは完全な誤算だった。

 第一王子であるアンダースの性格にも問題があり、貴族至上主義……彼が王立学園で起こした問題も数知れず、平民出身の女子生徒を妊娠させて婚外子を作ってしまった事件や、その女性に心を寄せていた男子学生から抗議されたことを逆恨みして決闘で切り殺してしまった、など素行に大変な問題を抱えている。

 それ故に第一王子が王権を継いだ際には支持しないと明確なメッセージを伝えてくる貴族も存在している……クリストフェルはそういった不満を持つ貴族をまとめ上げてしまい、気がつけば第二王子派は非常に多くの貴族を糾合する派閥へと成長を果たしてしまった。

「シャルロッタ嬢が焚き付けたと思うか?」


「焚き付けた本人なら婚約者を辞めたい、などとは言わんでしょうな。クリストフェル殿下がやる気を出されたと考えるべきです」

 元々国教の大司祭より「勇者になる運命を背負っている」と予言された傑物である……素行に問題のあるアンダースよりは、アンブローシウスもクリストフェルを内心は強く愛している。

 だが一度王権を継がせると決めたからにはアンダースを蔑ろにはできない……だがクリストフェルが病気を克服し、勇者としての道を歩んだ場合、国民は素行に問題のある第一王子のことをどう思うだろうか?

「……頭痛え……どうして余の代でこんなことが起きるんだよ、聞いてねえよ……」


「まあ適当に第一王子に王権継がせるとか酔っ払って口を滑らした自分が悪いんですよ」


「お前まじで冷たくね?」


「誰でもそう思うでしょ、反省しているなら酒の飲み過ぎには注意してください」

 アーヴィングがお手上げですと言わんばかりのジェスチャーを見せたことで、アンブローシウスはもう一度深いため息をついた……いっそのことアンダースとシャルロッタを婚姻関係にしてしまった方が息子の教育にもよかったのでは……と考えてしまうが、第一王子の性格からして……簡単に手折ってしまうか、彼女が利発的な少女だとしたらその忠言をまともに聞き入れない可能性すらある。

「更生してくれねえかなあ……どこでああ育っちゃったんだろ……」




「お前が噂の辺境の翡翠姫(アルキオネ)か」


「……第一王子アンダース様にはお初にお目に掛かります、シャルロッタ・インテリペリと申します」

 わたくしが王城から邸宅へと戻る帰路に広い廊下でいきなり声をかけてきたのは、この国の第一王子アンダース・マルムスティーン殿下だった。

 彼はクリスと同じく金色の髪に藍色の目をした男性だが、クリスは優男風……いや実際優男だと思うけど、それとは違って体は筋肉質で非常にゴツい体格の持ち主だ。

 彼はわたくしの婚約者であるクリストフェル殿下の兄に当たり、確か三歳年上で数年前に王位継承は彼になると貴族の間で噂が流布された人物でもある。

 何でも国王陛下が宴会の席で「こいつが次代の王として成長できるように皆で支えてやってくれ」と酒の席で発言した事がきっかけとなりイングウェイ王国の次期国王は彼に決まったと暗黙の了解が為されたと言われている。

「弟の婚約者にしては勿体無い美貌だな、どうだ弟はやめて俺の側室にならんか?」


「あ、い、いえ……その辺りはお断り申し上げます、わたくしは現在クリストフェル殿下の婚約者ですし……」


「そうか、ただ弟に飽きたらいつでも呼べよ? 可愛がってやるからな」


「い、いえ……わたくしは田舎の貴族でございます故……」

 ただまあこんな感じで非常に女性に目がない性格であり、王立学園ではとても素行が悪かったとかで起こした騒ぎは数多くあり歩く問題児、イングウェイの下半身伝説とまで言われている。

 素行に問題はあれど、現在では王国の派閥をまとめていることと、対外軍事行動では持ち前の勇敢さで率先して敵に向かって突撃していく性格ということもあり、軍部に非常に根強い人気を抱えていると伝えられている。

 クリストフェル殿下の派閥が地方貴族や商人など、中央政界とは少し外れたものたちが多いのと対照的に、中央にガッツリと食い込んでいる、というのが現在の状況。

「田舎なあ……インテリペリ辺境伯家には俺も何度か打診をしたんだぞ、辺境の翡翠姫(アルキオネ)を俺によこせとな」


「うげ……まじか……」


「クレメントのやつ、娘は体が弱くてとてもお世継ぎを産めるような状態では……とか当時は抜かしておったが、何だ十分健康そうではないか」

 お父様……一応守ってくれてたんだなあ……別の意味でわたくしは家に感謝するが、おそらくお父様はアンダース殿下の素行の悪さを調べていてとてもではないけど大事な一人娘は渡せないと言ったのだろう、父ちゃんありがとう……娘は今ちょっとだけ感謝しているよ。

 だがアンダース殿下はいきなり距離を詰めるとわたくしの腕をガシッと掴んで眼前へと引っ張り出す、思ったより腕力が強いしこんな扱いは女性にしていいと思っているのか、と内心腹立たしくなるが一応今のわたくしはか弱い貴族令嬢なので痛みに顔を顰めて抗議の意味でも殿下をきっと睨みつける。

「い、いた……っ……な、何をなさるのですか?!」


「気が強いなあ……いい、本当に手に入れたくなってくる。お前クリストフェルとはどこまで進んでいるんだ?」


「兄上、お戯も大概にしてください……大事な婚約者に何をされるのです」

 わたくしとアンダース殿下の間にさっと割り込んでくる影……婚約者であるクリスがアンダース殿下の手を払ってわたくしを庇うように立ち塞がる。

 アンダース殿下とクリス……二人はそのまま少しの間じっとお互いを見ていたが、根負けをしたのかアンダース殿下がハッ、と失笑するとそのまま何も言わずに取り巻きを連れてその場を立ち去っていった。

 わたくしがほっと息を吐くと、振り向いて笑顔を浮かべるクリスがわたくしにそっと手を差し伸べる。


「大丈夫? 怖かったろう……話があるからこのまま僕の部屋へ行こう」

_(:3 」∠)_ 宰相と国王は悪友なので、割と砕けた喋り方をします


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