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第六五話 シャルロッタ 一五歳 肉欲の悪魔 〇五

「その炎は全てを飲み込む……終末の炎嵐(ストームオブドゥーム)ッ!」


「止めろ、プリムウウウッ!」

 プリムローズの詠唱と共に頭上に出現した巨大な火球……それはまるで巨大な太陽のように荒れ狂う紅炎が舞い踊る破壊の炎に見えた。

 クリストフェルの叫びも虚しく火球が膨張し、熱風がホール内を駆け巡りその場にいた全員が死を覚悟した次の瞬間、まるでガラスが砕け散るかのような音を立てて魔法が崩壊する。

 それまでホール内に満ちていた熱波はそれがまるで嘘だったかのように消え去り、室温が元へと戻っていく。

 歪んだ笑みを浮かべていたプリムローズ自身が放った魔法が消滅したことに気がつき、驚きで目を見開く……どうして? 魔法は完成した、ホール内で炸裂すれば学生だけでなく殿下もろとも灰になるはずだったのに。

「……な、なんで……ま、まさか……ッ!」


 そしてプリムローズは自らの魔力が凄まじい勢いで別の場所、契約した悪魔(デーモン)の元へと吸収されていくのを感じて恐怖で目を見開いて悲鳴をあげる。

 彼女の莫大な魔力が一気に体から吹き出しその魔力が一斉にここではない場所、別の場所へと流れ出していく……クリストフェルだけでなく魔法の素養がある者はまるで何かに吸われているかのように魔力が流れ出していた、と後の供述で話しているが、まさに魔力は濁流のようにプリムローズの魔力が地面へ、いや地下の方向へと流れている。

 魔力の濁流は周囲の地形を破壊し粉砕しながら荒れ狂い、その中心にあるプリムローズの肉体を傷つけていく……彼女の白い肌に傷がつくと、血が空間へと舞い散らされる……自らの肉体を破壊しながら魔力は別の場所へと突き進んでいるのだ。

「や、やめ……話がちが……きゃああああっ!」


「プリム! 今助けるぞ!」


「婚約者殿、危険ではありませんか」

 慌てて駆け出そうとしたクリストフェルの前に巨大な漆黒の狼……いや、シャルロッタの契約している幻獣ガルムであるユルが彼を庇うように影からのそりと姿を現す。

 クリストフェルはそれ以上進めず、ユルの体をつかんでどかそうとするがガルムの巨体は凄まじい重量であるためびくともしない。

 焦ったクリストフェルはユルの体を叩いてどかそうとするがそれも叶わず、プリムローズに手を伸ばして叫ぶ。

「ダメだ、プリムを助けないと……ユル! どいてくれ! このままでは彼女が……ッ!」


「いけません、今近づいたら婚約者殿に危害が及びます……あれは彼女自身の魔力を別の場所、契約により強制的に吸収されているのだから……」


「契約? なんのことだ! プリムは私の妹のような存在だ、死なせるわけには……!」


「今近づいても婚約者殿では何もできない……安全になるまで待ちなさい」

 ユルは毅然とした物言いでクリストフェルを押し留めるが、ふと恐ろしい風貌のガルムが苦しむプリムローズを見て悔しそうに歯噛みをしていることに気がつき、クリストフェルはユルでさえ危険を感じる状況なのだと理解した。

 幻獣ガルムの能力は今のクリストフェルには到底太刀打ちできないレベルで高い……そのユルが近づくなということは本当に危険な状況なのだろう。

 魔力の噴出で時折小規模な爆発と、閃光が走る……ホール内はビリビリと震え、悶え苦しむプリムローズの悲鳴と濁流に押し流されたホールの壁や、窓、ガラスがあちこちへと吹き飛んでいく。

 すでにホールは巨大な魔力に耐えきれずに崩壊を始めている……ユルはクリストフェル達の盾となって防御結界を展開し、危害が及ばないように必死に防御するが……一体下では何が起きているのか……考えたくもない、と軽く身を震わせた。

「主人よ……早く、早く相手を倒してください……このままでは学園ごと吹き飛びますぞ……」




「ふざけるなよこの小娘があああッ! 見るがいい、これが強制進化だッ!」

 莫大な魔力を糧に悪魔(デーモン)の体がメリメリと膨張していく……それはまさに進化と呼ぶにふさわしい光景だ。

 肉体があらぬ方向へと捻じ曲がり、骨は砕けながらも瞬時に再構築されパキパキという嫌な音を立てながら新しい形へと変化していく。

 元々女性の体格としては大柄だったオルインピアーダの体が一回り以上膨れ上がっていく……巨大な蝙蝠の羽は四枚へと増え、皮膜はそれまでとは違い虹色の色彩へと変化していく。

 頭に生えた捻れた角は数を増やし四本となるが、見るものをどことなく不安にさせるようなそんな奇妙な造形をしている。


 だが見るものが見ればそれは美しいと感じるかもしれない。

 どことなく不安感のある造形ながらも各部のパーツはまるで彫刻のように整っており、左右が完璧な比率で対象となっている、まるで作られたような完璧な均等。

 ノルザルツ……快楽とまやかしを象徴する淫猥なる混沌神の眷属である悪魔(デーモン)、第四階位である肉欲の悪魔(ラストデーモン)の進化した姿、第三階位を象徴する快楽の悪魔(エクスタシーデーモン)が目の前に出現する。

「フハハハッ! この姿はぁ……第三階位快楽の悪魔(エクスタシーデーモン)ンンーッ!」


「へえ……少しはマシな格好になったじゃない、褒めてあげようか?」

 わたくしは不滅(イモータル)を片手に口元をニヤリと歪める……強制進化、この場合は下の階位から一つ上の階位へとグレードアップできる能力だな。

 快楽の悪魔(エクスタシーデーモン)は第三階位を代表するノルザルツの眷属であり、肉欲の悪魔(ラストデーモン)とは比べ物にならないくらいの戦闘力を持つ強力な悪魔(デーモン)だ。

 見た目は一回り大きく羽や角が増えたくらいで収まっているが、体から発散されている魔力は比べ物にならないほど大きい。

 その能力は第四階位の悪魔(デーモン)よりもさらに強く、一説では一〇倍の戦闘能力を持っている個体も存在しているという……本当に進化という言葉が相応しいかもしれない。

「今なら私の慰み者になることで許してやらんこともないぞ、小娘エエエッ!」


「やだぁ、チョー下品じゃない……でもお生憎様ね」


「何を……進化した私に勝てるとでも思っているのか?」

 オルインピアーダは口元からねじくれた牙を剥き出しにして笑うが、わたくしはそんな凶暴な笑みにも動揺せずに笑みを浮かべている。

 それが彼女にとって本当に不思議な光景なのだろう、わたくしよりも遥かに巨大な身長が三メートルくらいまで伸びた悪魔(デーモン)が全く動揺していないわたくしを不思議そうな顔で見ている。

 だからわたくしはそれまで以上に相手を侮辱する意味も込めて、凶暴な笑みを浮かべて嘲笑してやった。

「階位が一つ上がった? それがどうしたのよ、このクソ雑魚が」


「き、貴様……」


「魔力はさっきよりマシになったわね? でも予想よりもショボいわ」

 わたくしは剣を構え直して一気に跳躍する……先ほどまではこの斬撃にすら対応できなかったオルインピアーダだが、今回の斬撃は……なんと対応できたらしく、腕でわたくしの斬撃を受け止める。

 ギャイイイン! という甲高い音と共に肉に刃が食い込む感触が手に伝わるが、皮膚や筋肉などの体組織が先ほどまでとは比べ物にならないレベルで硬化しており切断するまでには至らない。

 ふむ……こいつはちょっとだけ予想を超えてるかな......わたくしは悪魔(デーモン)の体を蹴って距離をとる。

「クハハハッ! 自信ありげな台詞の割には弱い斬撃だ、これだけか?」


「ああ、これでも手加減してんのよ? 本気で剣を振ったら……周りも壊しちゃうしね」


「負け惜しみを……ッ! カアアッ!」

 オルインピアーダは大きく開いた口から不気味な色に輝く光線を、まるでアニメで見たようなレーザー砲の如く吐き出す。

 それは直線状にわたくしの元へと伸びるが、この攻撃は直撃したら人間サイズの生物なら一瞬で灰になる竜の息炎(ドラゴンブレス)に匹敵する破壊力なのだろう、凄まじい迫力と共にわたくしに向かって迫ってくる。

 咄嗟に飛来する光線に手を翳して前面に防御結界を集中させると、次の瞬間強い衝撃と共に光線が衝突する……だが、わたくしの防御結界を貫くことができない光線が周りに拡散して壁や、天井、地面に衝突して爆散していくのを見てオルインピアーダが悔しそうに表情を歪める。

「くっ……これも弾くか化け物め……ッ!」


「これはいい攻撃だったわよ? でも……()()()()()()()()よ」

 わたくしの言葉にオルインピアーダはわなわなと身を震わせる。

 快楽の悪魔(エクスタシーデーモン)はもっと強い……進化したてということもあってか、やや能力の扱いに困っているのか、オルインピアーダの攻撃は大雑把なものに終止している。

 こんな攻撃をいくら繰り出したところでわたくしの身体には届かないし、傷をつけることすらできないだろう。

 だがそんなわたくしを見てオルインピアーダはニヤリと笑うと、魔力を集中させて一気に爆発的に放出すると、彼女の足元から一気に不気味に彩られた泥濘のようなものが空間を覆い尽くしていく。


「ならこれはどうですか……ッ! 混沌魔法……罪なる愛欲(ギルティオブラヴ)ッ!」

_(:3 」∠)_ 快楽の悪魔、という名称は少し短絡的な気がしてきたw


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