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第六〇話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 三〇

「……甘すぎますよシャルは、ああいう手合いは全て恐怖でいうことを聞かせた方が早いのに」


「そうは言ってもねえ……彼らの性格を考えたら脅したところで反抗されるだけだと思いますわ?」

 冒険者たちを送り出した後、わたくしを見上げて困った表情を浮かべるユルに苦笑で答えるわたくしだが、そんなわたくしを見て全く……とでも言いたげなガルムの赤い目が邸宅の敷地から離れていく四人の冒険者たちの方向へと戻る。

 赤竜の息吹とわたくしとの契約は締結された……まあエルネットさんの優しさに救われた部分もある気はするけど、それでも心強い味方を獲得できたのは及第点ではなかろうか。

「ただまあ、彼らがシャルのために働いてくれると宣言したことには驚きました。当初はこの場だけ騙して裏切るのかと思っていましたが、どうも違うようで……理解し難い感情です」


『……危なっかしい姪っ子を見ているようで心配だ、俺たちが守らないとって思った』


 エルネットさんはユルにこれだけ無茶苦茶な条件を受け入れた理由を聞かれてそう答えていた。

 ユルからするとどうしてそんな理由で約束を守る気になったのか、さらに危ない目にも遭うかもしれないのに理解できないという感想を伝えていたが、エルネットさんもリリーナさんもお互いを見て肩をすくめて笑っていた。

 リリーナさんに至っては邸宅に来た時よりもはるかにフレンドリーな対応になっており、柔らかい笑顔を浮かべていたのが印象的だったな……なんかお姉さんがいたのであればあんな感じになるのだろうか?

 あの笑顔を見てわたくしは彼らに自分が所持していた辺境伯家の紋章が入ったペンダントを渡すことにした、これがあれば犯罪行為であっても家の威光を使って彼らを無罪放免にすらできるものだ。

 普通は冒険者には渡したりしない、とユルもかなり抵抗していたものの最終的にはわたくしの意向を入れて彼らにペンダントは渡ったのだ。

「それはそうと、あの最後の威圧めいたセリフはちょっとなあ……」


「我は人間とのやりとりをあまりしておりませんが、マーサ殿からもシャルは少し甘いところがあるから我が最後の防波堤となって欲しいと頼まれているんですよ」


「……いつの間に……」


「まあ、彼らも我の目が光っていると思えば締まりが出るでしょうよ」

 ユルは少し気恥ずかしそうな顔で鼻を鳴らしているが、まあこの幻獣ガルムとの付き合いの長さもあってなんとなく心配されているんだなという気持ちは理解できる。

 そっと彼の頭に手を載せて軽く撫でると、もっと撫でろと言わんばかりにわたくしの体に身をすり寄せてくるが全く言動と行動に差がある幻獣だな。

 エルネットさんとリリーナさんがわたくしたちが見送っていることに気がついたのか、振り返ると軽く手を振っているのが見え、わたくしは笑顔を浮かべて軽く手を振りかえす。

「ま……わたくしにとって最も信頼できる仲間はユルなのですから、そういう部分は助かりますわ」




「……戻るか俺たちの宿に」

 邸宅の前で幻獣と共に自分たちを見送る銀髪の少女に軽く手を振ると、エルネットとリリーナはデヴィットやエミリオと共に普段から定宿にしている青竜亭へと戻るために歩き出す。

 懐にはシャルロッタから預かっているインテリペリ辺境伯家の紋章が刻まれたペンダントが入っている……これがあれば何かあった時にインテリペリ辺境伯家が「赤竜の息吹」の後ろ盾となり、()()()()()()()()()()()ことが可能と伝えられている。

 こんなものを一介の冒険者に手渡してしまう貴族令嬢……脇が甘すぎるし、人が良すぎるのか世間知らずなのか、正直驚いてしまうような行動ばかりだ。


 その割には正体を隠して行動するなど、自分の身分がなんであるかを理解しているような行動もとっており、単なるお人好しなのかどうなのか判断に苦しむ。

 エルネットも騎士爵を持った父親によって育てられており、下級とはいえ貴族であることの責務や分別などは教育されてきている。

 それよりも遥かに身分の高い辺境伯の娘の行動にしてはアンバランスさが目立つのだ。

「……詮索しても仕方ないか……王国の歴史も一〇〇〇年以上だというし色々な人間が生まれてもおかしくないよな」


「私はちゃんと話してみて割と気に入ったよ? 貴族らしくない部分もあるけど、年相応に明るい子じゃない。まああのガルムはちょっと怖いけどね」


「そうですな、あのガルムの話では彼女……小さな子供の頃から正体を隠して市井に出ていたとのことであれが本来の性格なのかもしれませんしね」


「そうだなあ……それよりもシャルロッタちゃんはあの魔法を俺に教えてくれないものだろうか……気になる」

 リリーナがエルネットの隣でニカっと笑うが、そんな彼女をみて思わず表情を綻ばせるエルネット。

 そしてエミリオもデヴィットも概ねシャルロッタ・インテリペリという少女を信じると決めていると感じ、思わず苦笑が漏れてしまう。

 付き合いも長いメンバーなので彼らにとってもエルネットがシャルロッタに付くと決めるのも予想の範囲内だったのだろう……誰からともなく軽い笑い声が上がる。

 赤竜の息吹はこれまでインテリペリ辺境伯領出身だが、貴族の庇護などを受けずに行動してきた冒険者パーティだ。

 だがそれも今回で終わる……後ろ盾は王国有数、国境を守り通し領内の魔物を倒すことに秀でた武闘派貴族インテリペリ辺境伯家。

 辺境の翡翠姫(アルキオネ)を通じて確立された縁がどのような未来を見せてくれるだろうか……エルネットは久しぶりに胸が高鳴るのを感じて綻びそうになる顔を片手で抑える。

「……このタイミングでインテリペリ辺境伯家と繋がりが持てたことは、何かの前触れなのかもなあ……」




 ——王都内にある貴族の邸宅……花の香りがする部屋の中で影の中からゆっくりと染み出すように一人の人物が立ち上がる。

 黒色のローブに鳥を模した仮面を被るその魔人の姿は、華やかな部屋の装飾には似つかない不気味な雰囲気を漂わせているが、その魔人の姿が小さな魔導ランプの灯りで浮かび上がるのを待っていたのか寝台の上でゆっくりと身を起こす女性の影があった。

 紫色の髪を長く垂らし奇妙に捻れた角を頭に持つ異形の姿、肉欲の悪魔(ラストデーモン)オルインピアーダが闇征く者(ダークストーカー)の姿を見ると歪んだ笑みを浮かべて笑う。


 この部屋はホワイトスネイク侯爵家令嬢プリムローズ・ホワイトスネイクの私室であり、花の香りに混じって先ほどまで何事かが行われていたのか、汗や少しすえたような匂いが立ち込めており、どことなく淫猥な雰囲気を醸し出している。

 闇征く者(ダークストーカー)はまるでそういったものを気にする様子もなく、無表情な仮面とその奥に鈍く光る赤い目を裸身のまま豊満な肉体を腕で軽く隠すオルインピアーダへと語りかけた。

「そのままで良い……報告を聞こう」


「はい……この通りプリムローズは()()()()()()()、可愛いものですわ」

 オルインピアーダの横には静かに寝息を立てるプリムローズの姿があり、闇征く者(ダークストーカー)は仮面の奥に光る赤い目を輝かせると何かに納得したのか黙ったまま軽く頷く。

 そしてそれに呼応するかのようにオルインピアーダの魔力は恐ろしく強く莫大なものへと変わっていく……契約による縛り、そして同意を得た契約により肉欲の悪魔(ラストデーモン)と今代最強に近い魔法使いの少女は深層において強く繋がった。

血と(ブラッド)汗と(スエット)涙が(アンドティアーズ)……偉大なるノルザルツの加護は我の契約者と我自身に降り注ぎたもう……ああ、甘美なるかな」


「……これほどの才能……勇者の仲間としては申し分なかったようだな」

 本契約……オルインピアーダの申し出たその儀式はプリムローズの体内へと混沌の核を打ち込む作業……淫猥なる悪魔(デーモン)の儀式において激痛と憎しみ、そしてとろけるような快楽の中にありプリムローズは全ての体力を使い果たしてしまい、昏倒するように眠っている。

 寝台には血液と汗そして不浄なる体液の跡が染み付くように残されているが明日の朝にはこの痕跡も消え去るだろう……混沌の眷属による汚染はホワイトスネイク侯爵令嬢を完全に堕落させてしまっていた。

「私、この娘のことは好きですよ……大変美味しいですし」


 プリムローズ……彼女は混沌神の加護を認識せずに獲得しており、常人を遥かに超える恐るべき魔人としての一歩を踏み出しつつある、そしてその契約を得たオルインピアーダも同調するようにその姿を変えつつあった。

 プリムローズが望めばホワイトスネイク侯爵家の秘伝とされた古代魔法(エンシェント)を行使することも可能なほど、今のプリムローズは魔力の流れが研ぎ澄まされている。

 そしてオルインピアーダは……メキメキと音を立てて悪魔(デーモン)の全身の筋肉が盛り上がり、ひとまわり大きな体が寝台を軋ませたのを見て、闇征く者(ダークストーカー)は落ち着けと言わんばかりに軽く手を振る。

 それを見たオルインピアーダは再び体のサイズを元に戻してから、紫色の舌を覗かせ軽く舌なめずりをすると歪んだ笑みを浮かべつつ口を開いた。


「素晴らしいです、素晴らしいですよこれは……私はこの力を持ってあの辺境の翡翠姫(アルキオネ)を殺しますわ」

_(:3 」∠)_ オルインピアーダ「これは普通の儀式です!」 プリム「儀式ですわね」 闇征く者「……ええ……?」


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