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第四三話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 一三

「……これは……出ますわねえ……」


「出ますねえ……」

 王都の外に位置する寂れた住宅街に建てられた、とある商人が所有していると言われる割と大きめの館の前に立って、わたくしとユルはその館を眺めている。

 場所が割と辺鄙な場所に建てられていて、近くには小さな共同墓地もあるその場所は周りの住宅からは少し距離をとった形で庭園に囲まれており、おそらくだけど古い時代には貴族が所有していたんだろうな……と思えるくらい豪華なものだった。

「……そもそも場所が悪いですわ、共同墓地の近くに建てておいて負のエネルギーが溜まりやすい場所ですし……」


 クソザコナメクジの不死者(アンデッド)達がなぜ生まれるか、というのはこの世界の理論では死霊魔術(ネクロマンシー)や死神の悪戯によるものだと説明されている。

 しかし自然発生する不死者(アンデッド)は未練や悔恨などといった負のエネルギーを吹き溜まりとして実体化、顕現させることで生まれやすくなる、という仮説を立てた賢者がいたはずだ。

 わたくしもそっちの理論を支持していて、前者だけでは説明ができないケースを多々見たからなのだけど、これは前々世の日本人的価値観が影響しているものあるかもしれない。

「地下室で音がするということは、やはり死霊(レイス)とかその辺りですかね……」


「その程度なら全然良いのですけど、前みたいに黒書の悪魔(グリモアデーモン)が出てくると厄介ですわ」

 黒書の悪魔(グリモアデーモン)……前に出てきたカトゥスのように、魔法と秘密を司る混沌神ターベンディッシュの眷属として顕現する悪魔(デーモン)の一種として知られる。

 一〇歳の頃は普通にシバいているが、カトゥスは死霊魔術(ネクロマンシー)に能力を全振りしている特殊な個体だったようで、通常は超強力で格闘戦もこなせる飛行する脳筋魔法使いみたいなやつだと思えばわかりやすい。

 つまり割と強力な悪魔(デーモン)だし、普通の人間では最下級の眷属でも倒せない可能性の方が高いはずだ。

「屋敷ごと吹き飛ばしてしまうことも考えられますからな……あの時は山を少し削ったくらいで済んだんでしたっけ?」


「それでも即死ではございませんし……剣戦闘術(ブレードアーツ)でトドメ刺しているくらいなので、屋内で戦うにはちょっと面倒ですわね」

 屋敷の入り口に向かって歩きながらユルと会話しているが、今現在この屋敷に住んでいる人は存在していないし、いたとしても不審者くらいなのでまあなんとかなるだろうね。

 依頼は地下室で発生している奇妙な物音の原因を掴むこと、そして対処して欲しいという事なので屋敷の主人も一応住む気はあるってことだ……つまり屋敷を破壊してしまうとその時点で依頼は失敗扱いとなる。

 まあ青銅級でも受けられるレベルの依頼扱いってことはそんなにすごいの出てこないでしょ……わたくしは少し朽ち始めている扉を押し開いていく。


「ごめんくださいまし……」

 軋むような音と共に、屋敷の大ホールが薄暗い中視界に入ってくる……灯は確か魔導ランプのスイッチがあるとか話してたな……手探りで壁を探ると小さなレバーが突き出ているのに気がつき軽く下に引く。

 ブウウン……とまるでブレーカーのスイッチが入ったかのような鈍い音があたりに響き、ホールに設置されている小さな魔導ランプに光が次々と点っていくが、光量はかなり小さい。

 この魔導ランプはこの世界では魔導機関の恩恵として知られる高級家具の一つだ……小さな石に呪文を刻み魔法で半永続的に使用できるようにした画期的な魔道具で、小さな灯りを灯す。


 わたくしが使っていた灯火(ライト)よりも光量は低いし、コストは高いしで一般にはほとんど流通していない貴族向けの高級品なのでわたくしのお屋敷では昔ながらのオイルランプを愛用していた。

 魔導ランプをこのように贅沢に配置するなんてこの屋敷を立てた人はどれだけコストをかけて建設したんだろな……ちょっと考えたくない気分にはなる。

「シャル……いやロッテ様、前から何か来ます」


「……生きている殿方かしら」

 ホールの奥に何かが揺らめいた気がする……わたくしは腰に下げている長剣(ロングソード)の柄に軽く手を当てていつでも抜刀できる体勢を取るが、ホールの奥から予想もしていなかった()()がこちらへ向かってくるのを見て内心驚く。

 向かってきたもの、とは執事服を着用した青白い顔の男性……だが下半身は膝から下が薄く透き通ったように空中に溶け込んでおり、歩くのではなく滑るようにこちらへと向かってきている。

「……執事? いやこれは……」


『お客様、ようこそお越しくださいました』

 急に頭の中に声が響く……目の前の執事服姿の男性は無表情のまま口を動かしてもいない、念話(テレパシー)か? 傍のユルを見るとやはりわたくしを見上げたり、前の執事服を見直したりして困惑した表情を浮かべている。

 しかし冒険者組合(アドベンチャーギルド)の依頼書にはこんな執事の報告情報は入っていなかったはずなんだけど……わたくしが黙っていると再び頭の中に声が響く。

『……ある一定以上の強さを持つ方が現れない場合、お迎えをする必要がない、と私は申しつけられております。あなたは十分すぎる以上に強いためお迎えにあがった次第です』


「一定以上の強さ? 確かにわたくしは強いですけど……」


『主人がお待ちです、ついてきてください』

 ふわり、と男性が滑るように屋敷の奥へとさっさと移動するのを見て、わたくしは一瞬躊躇してユルを見るが彼もどうしたものかとわたくしをじっと見つめている。

 ——わたくしが躊躇しても状況は好転しないだろうし、ここは黙ってついていくしかないか……魔導ランプの少し暗い光量の中、恐ろしいほどに静かな屋内を彼の先導の元歩き出す。




「よく来た……素晴らしい力を持つ少女よ」

 幽霊に案内されるまま屋敷の地下室からさらに奥……明らかに人為的に隠された壁の向こうにあった部屋へと入ったわたくしとユルの前に広がる巨大な空間。

 それはまるで神殿のように広大な広場となって目の前に広がっている……これは……視覚的には本物の部屋にしか見えないのだけど、その実態はおそらく異空間に作られた無制限の領域。

 そして広間の真ん中には一段だけ高く台座のようなものが作られていて、そこに一人の男性……いや板金鎧(プレートメイル)に身を包み一本の素晴らしく作りの良い長剣(ロングソード)を携えた騎士が座っている。

「……貴方は何者でしょうか?」


「挨拶が遅れ申し訳ない……わたくしはスコット・アンスラックス、元勇者で不死者(アンデッド)だ。こちらは執事のような役割を担当するキャトルだ」

 ゆっくりと立ち上がるその男性とその隣で優雅な一例を見せる執事服の幽霊……スコットは明らかに生気の失せた青白い顔のままこちらを見ているが、不死者(アンデッド)の特徴そのままなのに彼は本当に穏やかな目をしていたためわたくしは柄に当てていた手を外すと、ひらひらと敵意がないことを示すために軽く振る。

 その様子を見て軽く唸っていたユルもすぐに体勢を変えて、お座りの姿勢で背筋を伸ばす。その様子を見てスコットはそれまで無表情だった顔をほんの少しだけ緩め微笑を浮かべた。

「冒険者ロッテ……いやこの場合はきちんと名乗りますね。わたくしはシャルロッタ・インテリペリ、このイングウェイ王国の辺境を支配するインテリペリ辺境伯の令嬢でございます」


「インテリペリ……ああ、王の騎士だった家か、もう辺境伯にまで出世したのだな」


「我が家をご存知で?」

 わたくしの問いにスコットはゆっくりと頷くと、ゆっくりと右手を挙げてから軽くパチン! と指を鳴らす。

 その行動に反応して執事服の男性が手を振るとわたくしと彼の間の空間に石造りのテーブルと椅子が出現していく……これはもしかして古代魔法の一種だろうか?

 無から有を生み出す魔法術式は現代のマルヴァースには伝承がないし、前世の世界にも存在していなかったはずだ。

「……これは私がいた時代に存在していた空間に干渉して物を保存する技術だ、もう失伝している可能性が高いが、魔法だよ」


「わたくしもこれは見たことがありません……」

 わたくしの答えに軽く頷き「失伝するくらい使い手がいないからね」と補足を加えるとスコットは手振りで座るようにわたくしに促したため、わたくしは軽く頭を下げてからその椅子に座り、ユルは黙ってわたくしの横に伏せた状態でじっと相手のことを見ている。

 わたくしがテーブルについたと同時に、まるでテーブルの上に浮き出るかのようにカップなどのお茶のための道具が出現し、わたくしはその光景を見て少し面食らっている……この不死者(アンデッド)、もしかして神話時代(ミソロジー)の人なのでは、と。

 そんなわたくしの少し緊張気味の顔を見て、少し笑みを浮かべたスコットはキャトルに合図し、まるで普通のお茶会を始めるかのようにキャトルはそれはもう見事な手つきでお茶の準備を始める。


「……まずはこの場所までキャトルが連れてきた強者(つわもの)に敬意を表して、私にとっては数百年ぶりのお茶を振る舞わせていただこう」

_(:3 」∠)_ 元勇者様登場……シンボルマークは五芒星(オイ


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