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第五話 シャルロッタ・インテリペリ 一〇歳 〇四

「地図だとこの辺なのですけどねえ……」


 山賊の持っていたかなり雑な地図を頼りに暗い森の中を歩いていくわたくしだが、なぜか動物に襲い掛かられることもなく何不自由なく夜の暗い森の中を進んでいる。

 視界の端々でこちらをじっと見ている魔物の視線は感じるのだけど、おそらく彼らの目にはとんでもない化け物みたいな何かが写っているのかもしれない。

 残念ながら生きているわたくしだけでなく、前世においてもレベルやステータスといった概念は存在しなかった……あったら便利だなとは思っていたけども現実はそう甘くなかったわけで。

 それでも強者が醸し出す雰囲気というのは隠しきれないものなのだろう……まあ、はっきりいってわたくしこの世界でも最強だろうしな。

「あ、ここですかね? 暗くて見えないでしょうし……導く光よ、我が前へ、灯火(ライト)


 わたくしの前に薄暗く大きな口を開けている洞窟が現れる……ちょっと汗のような匂いがツンと鼻に感じるが、まあ仕方ないだろうな。

 わたくしは手持ちの小剣(ショートソード)を松明代わりに掲げると、刀身に魔法をかけて灯火(ライト)を灯す……この魔法前世でも本当に役に立った魔法の一つで、一定時間付与したものが光るという松明やランタン要らずの便利魔法の一つだ。

 光量調整が難しいので割と明るく照らし過ぎてしまう欠点はあるけども、一度これに慣れるとなかなか手放せないんだよねえ。


 洞窟の中は比較的広くあれだけの大所帯であっても収容できるくらいの広々としたスペースがとられているのがわかる。

 流石に用を足すのは外でやっていたようだが、それでも隠しきれない生活臭というか、汗臭いようなそれではないような匂いがずっと鼻についているのが気になる。

 服や体についた匂いは魔法で浄化してしまえばいいとしても、鼻に残った匂いはなかなか記憶から消せないしな……そんなことを考えながら先へと進んでいくと、ふと嫌な予感を感じて立ち止まる。

「この方は……」


「こっちにくるな……!」

 殺気とかじゃない、これは威圧感だ……しかも割と懐かしいというか、思い出したくもない魔力を帯びた気配。

 目の前にある大きな檻、金属製でかなり頑丈な作りをしているそれには、中型犬くらいの黒い何かが怯えたように震え、うずくまっている。

 檻は何らかの魔法結界が付与されており、確かに普通の生き物では物理では壊せないだろうけど……わたくしはその折に近づくと松明代わりの小剣(ショートソード)を軽くかざすと中を照らす。

「わ、我は……魔の使いなるぞ……に、人間ごときが我を見るでない……」


「マジかよ、サイテー」

 わたくしは思わずはあっ! と強くため息をつくが、その明らかに面倒だなと思っているのが伝わるくらい大きなため息に、黒い何か……漆黒の黒い毛皮を纏った大型犬、いやこの場合は狼か? その小さな生き物がわたくしに向かって牙を剥き出しに怒りのままに食ってかかるように怒鳴りつけてくる。

 あの山賊ども、どういう生き物を捕獲して閉じ込めてんだ、バカじゃないのか……。

「ちょっと待て! 何だその『面倒なことになった』と言わんばかりのため息は! 我は幻獣! 人間が怯える存在なの! 第一お前だってクソガキじゃないか!」


「えー……だって所詮幻獣ですわよね、どうせ今は力が無くて捕まったとかでしょう?」


「……はい、肉につられて……って貴様! 人間のくせに生意気な口を聞くでない、この小娘が……ってあれ? なんで、何で効かないの?!」

 幻獣と名乗る狼? は明らかに子供であるわたくしを威圧するように赤い眼を輝かせて吠える……おそらく威圧の能力を乗せているのだろうけどわたくしに効かないのを見て、困惑したような表情を浮かべている。

 前世が勇者であるわたくしには精神攻撃、支配、威圧とかまあその辺りの攻撃は一切効果を発揮しない、自分から防御を解けば効果は出るのだろうけど、第一弱った幻獣ごときの能力じゃ今のわたくしに影響を与えるのは相当難しいだろう。

「肉に釣られるレベルの幻獣様が、何を宣っていらっしゃるのか……で、出してあげても貴方逃げる場所はございます?」


「……ありません、生意気を言いました、申し訳ありません」

 目の前の少女が明らかに人間から逸脱していると本能的に理解したのか、急に大人しくなって両脚を揃えてシュンとなって項垂れてしまう。

 こういうところフツーの大型犬だよな……見ればところどころ怪我もしているようだし、山賊は全滅させてしまったから誰も戻ってこないわけで。

 放置したら衰弱死するだけになるよね……仕方ないな。わたくしは檻に両手をかける……この檻にかかっている防御結界は、許可なく内外から触れようとすると電流が走るという実にオーソドックスなものだが、こんなもの児戯に等しい。

 触れた手を焼き尽くそうと結界の防御機能が発動するが……ちょっとチリチリするくらいで痛みすら感じず、わたくしは腕力で檻の鉄格子を破壊していく。


「え、えええ……!?」

 幻獣は目の前の少女が苦もなく防御結界を無効化して、なおかつ金属製の鉄格子を素手で引き裂いていくのを見て、完全に怯えも加わったドン引きしている目を向けてくる。

 檻を完全に破壊し終わると、わたくしはニコリといつもの営業用貴族スマイルを浮かべるとそっと彼へと手を差し出すのと同時に、幻獣に治癒(ヒール)の魔法をかけてあげる。

「癒しの力よ、暖かなる光を、治癒(ヒール)……これで怪我はありませんわ。幻獣様、どうぞこちらへ」


「……なんと高密度の……傷が一瞬で治るとは……」

 治癒(ヒール)によって身体中についた傷を一度眺めると、本当に驚いたような顔でわたくしを見る幻獣。

 あれ? この営業用スマイルめちゃくちゃ評判良いんだけどな!? 「素敵! 超可憐な!」とか「お美しい!」ってよく言われてるんだけど違うんだろうか。

 幻獣は檻の外に出て一度大きく伸びると、わたくしに向かって伏せの体勢を取り、顎を完全に地面へと着ける、服従とは違うが、お礼を伝えるための姿勢のようなので、軽く彼の頭をそっと撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じて尻尾を振り始める。

「美しい姫君……失礼なことを申しました。我は幻獣としてこの世に生まれ出でましたガルムの一頭です、ご迷惑でなければ我を側に置いていただくこと、叶いましょうか?」


「……ガルム……ねえ」

 ガルム……わたくしの転生前に住んでいた最初の世界ではガルムというのは地獄の番犬で冥界から逃げ出そうとする魂を見張るんだっけ。

 この世界のガルムは幻獣として一部からは神の使いとされているが、魔獣との区別がつきにくい存在だ……まず外見が怖い。

 赤い眼にドス黒い毛皮に成長すると狼よりも巨大な体へと成長し普通の人間では対処が難しくなる……まあ、こいつまだ小さいから簡単に捕獲できたんだろうけど。

「貴女は神の使いか何かでしょうか? お美しい外見に似合わない強者の雰囲気……可能であれば我の主人となっていただきたい……」


「……まあわたくしが綺麗なのは自分でも理解しておりますけど、困りましたわね……貴方秘密は守れますか?」


「お側に仕えさせていいただけるのであれば我が真名にかけて」

 ガルムはあまり知られていないが契約さえしてしまえば、かなり義理堅い幻獣の一つだ……種族全体に騎士道精神というか、犬のように忠誠心を大事にする文化がある、と本で読んだ。

 わたくしは笑顔で頷くと、もう一度頭をそっと撫でる……まあ、乗りかかった船だしな、山賊如きが幻獣を捕らえるなど普通はあり得ないわけだし。

「承知です、わたくしはシャルロッタ・インテリペリ……この地を治めるインテリペリ辺境伯……貴族の娘ですわ」


「我は祖霊よりユルと呼ばれておりました、そのままお呼びください」


「そう、ユル……わたくしたちは主従関係でなくお友達の関係になりましょう。契約は今のところわたくしには必要ございませんし、お友達ならもっとお話できますわよね?」


「……よろしいのでしょうか? 貴女をシャルと呼んでも?」


「よろしいですわよ、ただわたくしがここにきたのは内密にお願いしますわ、まずわたくしの部屋に帰って明日からの準備をいたしましょう」

 イタズラっぽく笑うわたくしを見て、クスッと笑ったユルはじゃれつくようにわたくしの体に自分の体を擦り付ける……黒くモフモフの毛皮は暖かく、気持ちよさそうだ。

 ユルは満足そうに鼻を鳴らすと、わたくしの外套を軽く噛んでわたくしを宙へと放ると背中で優しく受け止める……そしてそのまま風のように走り出す。

 おお、この疾走感……なかなかにたまらないものがあるな、彼の背中に捕まって目を輝かせているわたくしに、ユルは楽しそうな声で話しかけてくる。


「シャル、貴女のことを色々聞かせて欲しい……どうしてそんなに強いのか、そしてなぜあそこにいたのかを」

_(:3 」∠)_ ガルムとフェンリルは一緒、という説もあるそーですが、とりあえず本作では別として考えてます


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[一言] この章ではどうやって彼女は治癒魔法を使えるのでしょうか?時間反転魔法のみが使え、治癒魔法は使えない。
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