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第四〇話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 一〇

 ——数日後……王立学園の広場に本年度の入学生が集められた。


「シャル、おはようございます!」

 わたくしを見つけたターヤが笑顔のまま小走りで向かってくる……殿下とのお食事から数日が経過し、王立学園名物とも言える冒険者体験の授業がやってきた。

 この冒険者体験は、イングウェイ王国の祖となる初代マルムスティーン一世が国を起こす前に一介の冒険者だったことから、国を支える貴族にも冒険者を体験させるというとても有難い慣わしなのだそうだ。

 まあ、現代の貴族はそんな体験なんかする意味はない、と思ってるものが大半で例年出席率は非常に悪いとされていた。

「おはようターヤ、今日も元気ですわね」


「えへへ……でも随分と人が多いですね」

 ターヤがあたりをキョロキョロと見回しているが、そう……わたくしがお兄様に聞いたこの冒険者体験の授業は例年参加率が非常に低く、全体の一〇パーセント程度の学生しか出てこないって話だったのに、今周りには一〇〇名近い学生が談笑をしながら教師の到着を待っている。

 と言うのも、今年クリストフェル……ええと、クリス様は入学前よりこの授業に出ることを宣言していてそれに賛同した貴族の子女も集まってきているからだ。

「そうですわね……わたくしの兄もこの学園出身なのですが、例年は十数人しか出てこないという話でしたわ……」


「そうなんですか?! 今年は人気の授業になっちゃったんですねえ……」

 うーん、これは困ったぞ……数が少ないならソロ活動で思い切り授業で狩る魔物を倒してストレス発散だ! と思っていたのにここまで貴族の参加が多いと下手に魔物を素手でぶん殴って……なんて見られた日には何を言われるかわかったものではない。

 うーん……とわたくしは周りに顔見知りがいないかどうか確認していくが、はたと目があった金髪ツインテールに赤い眼をしたわたくしと同じくらいの背丈の女性が急に笑顔を浮かべるとわたくしの元へと走ってくる。

「こんにちは……と言っても私は貴女と一回しか会っていないのだけど……覚えてるかな?」


「……えっと……領地でお会いしました……よね?」

 その女性には見覚えがあった……えーと随分昔だ、まだわたくしが八歳とかそのくらいの頃にあった人物に似ている気がする……ツインテールに金髪でしょ? 赤い眼かあ。

 そこまで考えて一気に記憶が蘇りわたくしはそうだあの人! と手を叩いて頷くとその女性はニッコリと笑ってから優雅なカーテシーを見せてわたくしに挨拶してくれた。

「ジェシカ・フォン・メガデス……メガデス伯爵家の三女よ。本当にお久しぶりシャルロッタ様」


「ジェシカ様……大変ご無沙汰をしております。ベイセルお兄様とはお会いになられているんですか?」

 そう、目の前の女性こそジェシカ・フォン・メガデス……メガデス伯爵家のご令嬢にしてわたくしの兄であるベイセル・インテリペリの婚約者で将来的には義理のお姉さんにあたる存在だ。

 そういえば本当に小さい頃にこの人とは会ってたけど、お互い一回だけしか会っていないのによく彼女はわたくしがシャルロッタだとわかったな……。

「噂通りの美貌なんだもの……すぐにわかっちゃった。ベイセル様もずっと「俺の妹は一目見たらすぐにわかるよ」って仰ってるし、本当だわ」


「すぐに挨拶することができずに申し訳ありません……こちらはターヤ、わたくしと懇意にしてくれている平民出身の学生ですわ」


「はわわ……なんて綺麗な……あっと、ターヤ・メイヘムですっ!」


「ターヤさんこんにちは、ジェシカって呼んでね」

 ニコリと笑うジェシカ様は優しくターヤの手を握る……彼女のメガデス伯爵家は王都から少し離れた場所に領地を構える名門貴族の一つで、商業に力を入れた中規模の都市をいくつか領地に持つとても裕福な貴族でもある。

 流通業などが発展しており。ベイセル兄様との婚約によりインテリペリ辺境伯領の流通経路の一部をメガデス伯爵家が担うこととなっていて、双方の流通は飛躍的に伸びていると聞いている。

「ジェシカ様、冒険者体験をされるのですか?」


「ええ、とは言っても私はついていくだけでして……伯爵家ゆかりの貴族家の人たちと行動しますわ」

 そういうと彼女は後ろで固まって居る一団に目をやるが……同級生として入学している数人の貴族、おそらくメガデス伯爵家の領内に領地を持つ子爵級以下の子女がそこには集まっている。

 伯爵家以上になってくると領地が広がり寄親として複数の貴族家を統括する役目を担う……インテリペリ領内でいくとカーカス子爵やリヴォルバー男爵のような低位貴族と呼ばれる家だ。

 メガデス伯爵家は伯爵家でありながら、侯爵級の領地面積を持っており、領内の街や村は子爵級以下の貴族家に委任しているため、本年度ジェシカ様の入学に合わせて彼らを入れてきたのだろう。

「そうなのですね……わたくしの家は特にそう言ったことはしていないのでわたくしと主従契約をしている幻獣だけですね」


「幻獣がいるんですねえ……見てみたいけど私も平民仲間と一緒にグループ組むことになっちゃっているんですよね……申し訳ありません」


「大丈夫ですわ、わたくし領地でいくつか実習を兼ねて魔獣狩りは経験がございますし、問題ございませんわよ」

 わたくしの隣で申し訳なさそうに謝るターヤにわたくしは大丈夫、と言葉を返すが、そんなわたくしたちを見てジェシカ様は優しく微笑む……彼女はそのまま一度お辞儀をすると自らのチームへと戻っていく。

 そんなことをして居る間に、教師がやってきてしまいわたくしは殿下……クリス様と顔を合わせないうちに授業の説明を受けることになってしまった。

 どうも彼は色々な貴族の取り巻きに話しかけられていてわたくしたちを見つけられないらしい……まあ、一緒に行動しても面倒だしな、このまま授業に出てしまった方が良さそうだ、あとでフォローしてあげれば問題ないだろう。

「えーと、では冒険者体験授業について説明しますね、危険がないような形で進行しますが例年それなりに怪我人は出ています、慣れていない人は無理をせずに危ないと思ったらすぐに退避してください」


 先生の説明が続く……実習で使うのは先日わたくしが冒険者ロッテとして訪れた場所とは違う森林で、そこにはいわゆる草食系の魔獣が放たれている。

 魔獣なのに草食系……というのもおかしな話だが、人を襲うような魔物、魔獣と違い草食系の魔獣はこちらから襲わない限りのんびりと草を食んでいるようなおっとりした種類が多い。

 とはいえ野生ではあるため命の危険を感じると全力で抵抗してくるし、決して生やさしい相手ではなかったりもするのだ。

 ちなみに解体して肉や骨などを売るというのも冒険者の日課として知られており、酒場などではこういった魔獣の肉が提供されることも多いと聞いている。

「今回は魔獣狩りをしてもらい、指導書にある通り解体、分別、そしてここにある納品箱に納品するまでを体験してもらいます」


「質問です、草食系の魔獣以外に危険な魔獣はいるのでしょうか?」


「そうですね、この草食系の魔獣を狙った肉食魔獣が紛れ込んでいる可能性がありますので、それには十分注意してほしいです。そういった魔獣を見たら指導書通りに撤退をしてもらいます」

 管理はされているがイレギュラーはいつでも発生する、ということだろうなあ……数代前にもこの冒険者体験中に紛れ込んでいた魔物に襲われて貴族が大怪我するという事件があったばかりだ。

 その時は臨時の護衛として巡回していた冒険者たちが怪我した貴族を救出して、魔物を狩ったそうだが……それから数年は同じような事態が起きていないのでおそらく問題はないだろう。

「……ユルがいるし複数相手でもなんとかなるでしょう」


『そうやって油断すると足を掬われますぞ?』

 ユルが念話(テレパシー)を使って話しかけてくる……というのも学園に入学した直後、学園長からの依頼で幻獣ガルムは他の生徒の前にはあまり出さないでほしいとお願いをされている。

 実は入学直前にユルを見せてほしいと頼まれたので大型の狼サイズのユルを呼び出したら腰抜かして驚いてたんだよね……あれは悪いことをしてしまった。

 見た目がかなり怖いからだろうなあ……普通にわたくしの横を大型犬サイズのユルが歩いている分には気にならないだろうけど、戦闘のために大型の狼サイズまで戻すとかなりの威圧感があるしね。

『まあ、これもシャルの魔力が上質なおかげですなあ……我がサイズを自由に変えられるのは莫大な魔力を共有しているからですし』


 ちなみにカーカス子爵邸でのわたくしとユルの大暴れの噂に尾鰭がついて一部の貴族の間では「あいつら待遇が気に食わねえと館ごとぶっ壊しにくるらしいぞ」という話になってたこともあったそうだ。

 そんなことしねーよ! とは思う……わたくしはこの世界に生まれ落ちてようやく一五年経過したところだが、割と今のインテリペリ辺境伯爵家とそこに住む人たちのことを気に入っている。

 知り合った友人や知人だって守りたいとすら思っているのだから……貴族が横暴だからと言って、どこかの副将軍のように世直し道中なんかする気は毛頭ないしね。

 そんなことを考えている間に体験授業の開始が宣言されてしまい、例年より数の多い学生達は一斉に森へと進んでいく……ああ、これは本当にクリス様と合流するのは難しいな。


「……じゃあ単独行動しますかね…後でお声がけすれば問題ないでしょ…」

_(:3 」∠)_ ツインテールだけど金髪なのはある意味オマージュだったりします


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