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第三九話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 〇九

「君と食事を共にできるなんて本当に嬉しいよシャルロッタ、本当にありがとう」


「そんなに大喜びするようなことですか? でも嬉しそうで何よりですわ殿下……」

 翌日……学園に登校した後お昼前に忙しそうなクリストフェル殿下に偶然廊下で出会ったため、わたくしは「この後お昼の時間はいただけますか?」と聞いてみたところ、彼は「シャルロッタが僕を昼に誘ってる! 聞いたかヴィクター!」って大喜びして、お昼を一緒に食べると約束してくれた。

 そして今わたくしと殿下は学園にある食堂に用意された貴族専用の個室にテーブルを挟んで座っているところだ。

 周りには学園の給仕が数人忙しそうにお皿に料理を盛り付けているが、それまでわたくしとターヤが食べに行っていた一般食堂とはグレードの違いすぎる料理が準備されているのがわかる。

「……どうしたんだい? シャルロッタは、この貴族専用の個室を使うのが初めてだったのか?」


「そうですね、普段は一般の学生と一緒に食事しております。殿下はこちらをお使いに?」


「うん、僕が一般食堂で食べていると警備が大変だって話だし……本当は一般食堂がいいのだけどね」

 そりゃそうか……でもわたくしが一般食堂でご飯食べていても大してみんな話しかけてこないし、何だか腫れ物でもみているような目で見られているし、もしかしてターヤがいなかったらぼっち飯確定だったのではないだろうか? と今更ながら自分のことが心配になってしまう次第だ。

 ただ根っこと言うか、そもそも前世までは貴族などではないわたくしにとって、この学園の一般食堂の食事ですら相当に豪華なので、この個室側で提供されている料理がどれだけのものなのか想像がついていないし、そこまで食事にこだわりはないんだよね。

「最近殿下はお忙しそうですが、何かあったのですか?」


「生徒会へ内定が決まっていてね……本当は君との時間をもっと取りたいのだけど……護衛から君が何度か訪ねてきていたのは聞いているけど、会えなくて本当に申し訳ない」


「……い、いえ……わたくしもそれほど頻繁に会いにきた訳じゃないので……」


「そうだねえ、ソフィーヤは毎日出待ちしてたくらいだから……シャルロッタは思ったよりあっさりしてるね、なんて話してたところだったよ」


「……あはは……流石に学生の本分を弁えておりますわよ……」

 ソフィーヤ様はそんなことしてたのかよ……実は婚約者ムーヴの一環で毎日出待ち作戦は「やったほうがいいですよ! むしろやってくださいシャルロッタ様! 婚約者なのですから!」とマーサから強く勧められたのだけど、この反応を見るにやらなくて良かったのだろう。

 やったらどうなっただろうか……わたくしの目の前で幸せそうな笑顔で微笑んでいる殿下のお顔を見て、少しだけ暖かい気分になる。

 うん、彼を怒らせるとお父様も苦労させてしまうだろうし、やらなくて正解だったな。


 すぐに料理が運ばれてきてわたくしは目の前に置かれた高級そうなお皿に盛られた肉料理をナイフとフォークを使って口に運ぶが……なんだこれ、一般食堂の肉と違いすぎるだろ。

 一般食堂は値段も非常に安価で栄養たっぷりの食事が日替わりで用意されており、お替わりも自由という割と平民に優しい食堂になっているが、そこで提供される肉はやはり値段なりの少し硬めの肉だったりするのだけど、これは領地で食べていた質の高い肉にも劣らないものだ。

 恐ろしく美味しいお肉に舌鼓を打ちながらわたくしは食事を食べすすめていくが……いかん、今日は食事だけをしに来たのでは無かった。

「殿下、先日プリムローズ様にお会いしました」


「……何があったんだ?」


「平民出身のターヤ・メイへム嬢をお茶会に誘われたのでわたくしがついて行きましたが……殿下はプリムローズ様のことはどう思われていますか?」


「……幼馴染だよ。昔君と出会うずっと前、ホワイトスネイク侯爵家より婚約打診の申し入れがあったらしい。その時は他の貴族との兼ね合いもあって返事を保留にしていたそうだよ」

 殿下は至って普通に手元にあるグラスから一口だけ水を口に含む……すぐにじっとわたくしの目を見つめてから、ニコリと微笑む。

 そういうことか……プリムローズ様は殿下への恋心から幼い頃に婚約打診したそうだが、政治的な思惑などもあり王家から保留にされていたのだろうな。

 で、そんなこんなしているうちに他の令嬢も婚約打診して……最終的にソフィーヤ様に決まりそうになったところで、クリストフェル殿下がそれをひっくり返しているそうだ。

 とはいえプリムローズは結構な優良物件だと思うんだけどなあ……魔法の能力が高いと称されているらしいが、実際にわたくしの目から見てもこの年でかなりの実力を持っていると思える不思議な令嬢だった。

「プリムは確かに美しいし、魔法の才能も高い、しかしそれだけでは僕の心は動かないよ」


「……十分じゃございませんか?」

 国王陛下が第一王子を後継にすると発言して以来、クリストフェル殿下は昼行灯……あまり王位に興味のない態度を貫いている。

 ハルフォード公爵家との繋がりが生まれそうになった時に、彼を王位につけたいと考えた一部の貴族達が第二王子派を結成し、第一王子派との対立構造を作ってしまった。

 最終的にソフィーヤ嬢を袖にしたために第二王子派はインテリペリ辺境伯家に泣きついて……わたくしが婚約者の座に収まったことで派閥の瓦解は防ぐことができた。


 しかし……ハルフォード公爵家だけでなく、複数の貴族家とも微妙な関係に陥った殿下だが飄々とした態度を貫いており、周りがヤキモキすることも増えてしまった。

 お父様も「せっかくなので殿下には自覚を持ってもらって」と第二王子派の強化を始めてしまい、結果的に現在において第一王子派と第二王子派は勢力に差はあれど、水面下でせめぎ合いを続けているような状況になっている。

 まあ、喧嘩売っちまったのはわたくしだが、プリムローズは話せばちゃんと味方になってくれそうな存在のような気がする……なんだろう、不思議な繋がりのようなそんな感じがしている。

「僕が心を奪われたのは、野生の花……そうシャルロッタのように力強く咲き誇る花だよ」


「クリストフェル殿下……は、花って……どういう例えなのですか……」


「クリスって呼んでくれ、僕も君のことをシャルって呼びたい」


「はい?」


「ク・リ・ス。仲の良い人からはそう呼ばれている」

 殿下はニコニコと笑いながらわたくしに微笑むが……これは呼ばないと不敬罪だとかなんとかって言われるパターンか。

 本人はわたくしが多少冷たくしたところで気にもしないだろうけど、お父様がなあ……「殿下の婚約者になったというのにお前は殿下にもう少し愛嬌を振りまいてくれ……」と胃が痛そうな顔でお願いしてくるようになっているし。

 しかし数年前に会った時は元気になったけど、ここまで押しが強い人だとは思ってなかったんだよね……軽くため息をついてからわたくしは殿下に優しく微笑むと精一杯の愛嬌を振りまいて彼の希望通りに呼んであげることにした。

「それではクリス……様、一つお願い事がございます」


「なんだい?」


「ホワイトスネイク侯爵家をきちんと味方につけてくださいまし……クリス様は思っている以上に敵が多い気がします。王立学園では高位貴族の子女がいるわけですし、ご自身の味方を増やす努力はしていただきたいのです」

 ふむ……とクリス様は少しわたくしの言葉に考えるような仕草を見せる……ちゃらんぽらんな王子ではない、手紙や気遣いなどを考えてもこの人はずっと貴族としては高潔だし、その才能はおそらく勇者級に優れたものだ。

 魅力も兼ね備えているためわたくしとしては好ましい……いや好きとかじゃなくて、好意的に思える人物だと判断している。

 それ故にわたくしとしてはちゃんと王位継承権第二位の王族として足元を固めてほしい、そしてプリムローズ様たちをうまく使って派閥の強化を果たして欲しいのだ。

「……理解した、君は優しいし賢いな。さすが僕の婚約者だけある……わかった、僕にできることはなんでもしよう。だけど代わりにお願いがある……聞いてくれるかな?」




「……なんだねーちゃん、俺たちに依頼したいって仕事は」


「ふふふ……いい仕事ですよ、人を襲って欲しいのです」

 王都の外縁部に当たる貧民街、ここは盗賊組合(シーブスギルド)の管轄からも外れた場末の酒場、貧民とお尋ね者などが隠れるように集まる秘密の場所。

 そこで数人の荒くれ者を前にローブを深く被った魔法使い風の女性……フードの下からは長く伸びた紫色の髪が覗いている不思議な人物とともに酒場の奥にある小さなテーブルを囲んでいる。

「人を襲うだあ? そりゃあちゃんとした報酬が必要だが、誰を襲うんだ?」


「……辺境の翡翠姫(アルキオネ)


「……マジか?」

 こんな酒場に行き着く男たちでも辺境の翡翠姫(アルキオネ)の名前は届いている……インテリペリ辺境伯家のご令嬢にして、第二王子の婚約者。

 確かに下世話な話の中で「辺境の翡翠姫(アルキオネ)に相手してもらったら死んでもいい」という発言するものもいることはいるのだが……それは決して届かないからこそ話せるネタのようなものだからだ。

 ゴクリと男たちの喉が鳴る……貴族令嬢に手を出したら極刑が待っているに違いないが、それでも……彼らは気が付かなかったが女の体臭が少しだけ増している。

 それは普通ではあり得ない甘美な匂いとなって荒くれ者たちの思考能力をじわじわと奪い取りつつあった……その様子を見てフードの下で女はニヤリと笑う。

「数日後に野外研修があるそうよ……そこでは数人の学生に分かれて冒険者体験するそうなの……」


「そ、そうなのか……そりゃあチャンスだな」

 惚けたように頷く男たちを見て、女は満足そうに頷く……肉欲の悪魔(ラストデーモン)オルインピアーダはフードの下に煌めく黄金色の瞳を輝かせながら権能(オーソリティ)である調和(ハーモニー)を強く行使していく。

 この権能(オーソリティ)はノルザルツが愛する眷属に下賜される強力な洗脳能力……普通の人間であればこれを防御することは不可能だ。

 魔法使いとしての能力が高いはずのプリムローズですら抗えない力……オルインピアーダは男達に囁くように告げるとそっと席を立つ。


「手に入れなさい、辺境の翡翠姫(アルキオネ)を……学生とはいえガルムの契約者だから死ぬ気で頑張ってね」

_(:3 」∠)_ 恋愛軍師(自称)マーサの物語もどこかで幕間で出します。


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