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第三六話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 〇六

「……聞きました? 採取用の森にオウルベアが出たんだそうです」


「あら、そうなのですか? でも冒険者の方達がいれば問題ないのではなくて?」

 わたくしの隣を歩くターヤが心配そうな顔で話しかけてくるが、採取用の森……って先日わたくしが薬草とキノコ採集に入った森だったな。

 今わたくしとターヤは次の授業のために場所を移動しており、学園の廊下を歩いている。

 学園に入学した一年生は、定められたカリキュラムに沿って受ける授業が決まっており、ターヤとわたくしは友達になってからずっと一緒に授業に出席していて、いろいろなことを話す仲となっていた。

 なお、あれ以来他の貴族の子女からは少し距離を取られていて腫れ物扱いだなー、と思わなくもないけど……まあ下手に殿下の婚約者としての権力行使を期待されても困るからな。

 これはこれで静かな学生生活っぽいくて問題ないだろう……少し寂しいけど。


 冒険者デビューを果たした新米冒険者ロッテとしてはここ一週間ほど活動できていない。

 というのも、カリキュラムが詰め込み気味で夕方まで勉強漬けになっていて活動時間が取れないからだ。

 ただ、個人用のお財布には金貨と銀貨が割と詰め込まれている……冒険者組合(アドベンチャーギルド)の受付嬢からは、採取したキノコにとてもレアな薬品に使うキノコが混じってたとかで、追加報酬が出て金貨数枚が追加されたんだよね。

 貴族の中にはこの金貨一枚というのがどれだけの価値があるのか理解していない人も多いのだけど、王都の庶民であれば一枚あれば一週間は余裕で暮らせるらしいし、辺境の村などであれば倍以上の期間、少し裕福な生活ができるはずだ。


 そう考えるとあの特別報酬金貨数枚というのが実に重いな、と思ってしまったりもするが……マーサに今わたくしの財産ってどのくらいあるの? って聞いたら「金貨一〇〇万枚以上はありますね、投資とかで出ているのもありますけど……」とあっけらかんとした答えが返ってきて、彼女の商才に少しだけ恐怖を感じたのは確かだ。

 まあ、わたくしが自由に使えるお金じゃないんだけどね……それだけあればオーダーメイドで剣作ろうが、鎧を新調しても全然問題ないのに……。

「シャルは貴族ですから知らないかもですけど……王都の冒険者だと銀級のパーティで戦うような魔物ですよ?」


「……え゛? 銀級冒険者ですか?」


「そうですよ、危険な魔物だって言われててそんな場所に出てくるようなレベルじゃないんです」

 それは初耳だ……前世の世界レーヴェンティオラにおいてオウルベアは、ちょっと森に入って遊んでたら普通に出会うくらい数が多かったし、むしろ冒険者からすると美味しいお肉扱いだったのでわたくしも散散ぱら狩りまくった動物なんだけど。

 それ故にめちゃくちゃ警戒心が強くなっていて、人間の匂いがするとさっさと逃げ出すような習性があった。

 でも先日遭遇した個体はわたくしに出会う前に何かから逃げていて偶然遭遇したように見えたのだけど、そうではないのだろうか?

「……辺境伯領ではあまり見ない魔物のはずなので、お兄様に聞いてみればわかるかもですが……」


「騎士なんでしたっけ?」


「ええ、王都のお屋敷は本来お兄様達が使っていたのですけど、わたくしが学園に通うからって気をつかってくれて、最近は騎士団が提供してくれた邸宅にお引越しをされてますわ」

 ウゴリーノ兄様はマリアナ義姉(ねえ)様とご結婚なされた後、一時的にインテリペリ辺境伯の別邸に入っていたが、騎士団での出世が順調ということで、そのうち爵位を得て独立すると言われている。

 ただ王都の土地はもう空いていなくて、新しい屋敷を購入するには財産が足りず……空き待ちの間は騎士団が用意した小さな邸宅で生活をしている。

 まあ、彼らも若いし色々お盛んなこともあるだろうから……流石に新婚さんと同じ家に同居はきついなあと思わなくもなかったので、ありがたく屋敷を使わせてもらっている。

 ウォルフ兄様は辺境伯領の中で部隊を率いて野営が多いし、ベイセル兄様は隣国への特使団に帯同して国を出ている……インテリペリ辺境伯家の子供達はちょうど別々に生活を開始したところなのだ。

「シャルのご兄弟だとイケメン揃いですよねえ……羨ましい」


「ターヤも可愛いですわよ? ……わたくしが男子なら見過ごせない淑女でしてよ」

 これは嘘でもお世辞でもなく、紛れもない事実だ……というかわたくしは知っているが、同学年の男子の視線はターヤにも向いているということを。

 わたくしを見る周りの目はすでに「殿下の婚約者」であり、どうやっても手が届かない令嬢であるシャルロッタよりも、手が届きそうなターヤに注がれているということも理解している。

 まあ本人がそういう視線に敏感ではないし、むしろこっちが心配になるくらい無防備なこともあってちょっと目が離せないんだよね。

「シャルに言われてもなあ……ご令嬢の見本みたいなのに」


「……わたくしはご令嬢失格だと思いますわよ、マリアナ義姉(ねえ)様みたいにはできないですし……」


「え? そ、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど!」

 わたくしの表情が少し翳ったのを見て、慌ててフォローに入るターヤ……まあ、本当に失格なんだよね……本来であればご令嬢としての交友関係を重視して、同級生のように毎日夜会とかお茶会とか参加しなきゃいけないんだけど。

 どうもそういうのは気疲れしてしまうので、割と控えさせてもらっているわけだが……そろそろどこかに行かないとダメかもなぁ。

 なんか腹の探り合いみたいなのをしなきゃいけないこともあって、何が悲しくてわたくしの中身の年齢よりも全然若い女の子と張り合わなきゃいけないんだというちょっとした気後れを感じたりもしてたりする。

「で、実はシャルにお願いがあって……」


「なあに? わたくしにできることならなんでもお手伝いいたしますわよ」


「お茶会に誘われているんだけど……どうすればいいかわからなくて……一緒に付いてきてくれないかな?」

 ふむ……ターヤは平民出身だからお茶会なんか出なくていいとは思うんだけど、それでも誘われたってことは……思い当たる節を考えてみるが……どう考えても平民虐めってやつだな。

 イングウェイ王国は平和で統治機構もきちんとしているけど、それでも平和の中の堕落というのは発生していて、貴族の一部は平民を平気な顔して虐げたりする。

 ありし日のカーカス子爵のように、統治下の街にすむ住民に迷惑をかけたところで問題ないと思っている層も多く存在しているのだ。

 この学園は平等を謳ってはいるものの、身分差を笠にきて平民出身の学生を虐げたりするものもいるってことだな、ちょっとそれは許すわけには行かないかもね。

「……わたくしもついていくしお茶会の作法はフォローするから安心してくださいね。ところで何方からの招待なのかしら?」


「招待主はプリムローズ・ホワイトスネイク侯爵令嬢なの……」

 ターヤの言葉に思わずズッコケそうになるが……こ、侯爵令嬢が平民出身の学生に嫌がらせするのか?! というとんでもない事実に驚いてしまった。

 普通の神経なら絶対にこのお茶会は開くことはない……当たり前の話だが、何を話すつもりなんだ? 今まで話を聞いていてターヤは確実に貴族が求めるような受け答え、礼儀作法は期待できないはずだ。

 それを理解して呼んでいるのであれば、理解はできるのだけど……どうも違う可能性を考えてわたくしは心配そうなターヤに優しく微笑む。

「大丈夫、何を考えているのかわかりませんけど……わたくしがいれば問題ございませんわよ」




「あの平民をお茶会にねえ……ずいぶん手の込んだ事をするのねプリムローズ」

 紫色の美しい髪をした令嬢……ソフィーヤ・ハルフォード公爵令嬢が目の前の席に座る金色の髪を縦巻きロールにまとめ、深い海のような美しい青色の瞳の令嬢と相対して紅茶を飲んでいる。

 金髪の令嬢はプリムローズ・ホワイトスネイク……ホワイトスネイク侯爵家はイングウェイ王国開闢以来の忠臣として知られ、王国の魔法使いを統べる宮廷筆頭魔導師であるデイヴィット・ホワイトスネイクが当主を務める名家の一つだ。

 プリムローズは手に持った扇で軽く口元を隠すと、ソフィーヤに笑顔で語りかける。

「これで気が済んだ? あの辺境の翡翠姫(アルキオネ)が婚約を辞退しても、殿下のお心は貴女にはないのわかっているのではなくて?」


「……また取り戻せば良いことよ? その時は正々堂々と婚約者の座を奪い合いましょうよ」


「正々堂々ねえ……貴女の口からそんな言葉が出るなんて、思っても見なかったわよ」

 プリムローズの嫌味にグッと怒りを堪える表情で愛想笑いを浮かべるソフィーヤ……彼女とプリムローズはクリストフェルの婚約者候補として名が上がっていた女性だ。

 だが辺境の翡翠姫(アルキオネ)……シャルロッタ・インテリペリに電撃的に婚約者が確定してからというもの、悲嘆に暮れるもの、なんとかしてその座を奪い返そうとするものなど反応は様々だ。

 この二人はライバルではあるがシャルロッタが婚約者になるということがどうしても許せず、一時的に手を組むことに同意しているのである。

「……ところで、どうやって呼び出したの?」


「平民ターヤ・メイヘムの近くにあの女がいるわ、直接呼び出しても来ないでしょうけど友人が呼び出されたら事情を察してくるでしょうよ」

 余裕の表情で笑うプリムローズの顔を見て、ソフィーヤはこの天才的な魔法使いの素質を持つ少女を驚いたように見つめる。

 筆頭魔導師が当主であることから分かる通り、ホワイトスネイク侯爵家は代々魔法使いの家系であり、王国でも最強の魔法使いを輩出することでも知られている。

 当然プリムローズも小さい頃から魔法の訓練を受けており、一五歳にして当主デイヴィットから「我が娘は一族でも天才である」とお墨付きをもらうレベルの魔法使いでもある。

 プリムローズはゆったりと扇を仰ぎながら、少しだけ不安そうな表情を浮かべているソフィーヤに対して笑いかける。


「……ま、シャルロッタ何某が本当に殿下を愛しているかどうか、詰問してみましょう……その態度次第で今後どうするか決めるわ」

_(:3 」∠)_ 王国最強格の魔法使い(予定)のプリムローズさん登場


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