第三四話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 〇四
——王都の中でも最も大通りに面する場所に、酒場と併設されている冒険者のための場所が存在している。
入り口を開けて入ってきたわたくしに一気に視線が集中していく……冒険者組合は酒場と併設されているケースが多く、まだ日が高いというのに酒を飲んでいる荒くれ者達が座っているが、こいつら仕事せんのかな……。
さてなんでこんな場所にいるかというと、学園生活にも慣れてきたわたくしはかねてより考えていた作戦を実行に移すべく、邸宅に帰ってから冒険者組合へと向かったのだ。
今は一三歳の頃に使っていた革鎧と騎士服をベースに仕立てた旅向けの頑丈な衣服と、それなりに高価な外套そして顔を見せないために深くフードを被った姿、腰には辺境伯領時代から使っている長剣と小剣を差している。
受付に立ったわたくしを見て、受付嬢が少し嫌そうな顔を浮かべながら話しかけてきた……がこれは受付で無謀な若者が冒険者になるのを未然に防ぐための圧迫受付マニュアルがあるからだ、と聞いている。
「……冒険者登録ですか?」
「はい、お願いします。田舎から出てきたばかりでして……初めて登録をしますので」
興味深そうな顔でわたくしを見ている周りの少し素行の悪そうな冒険者の視線が、革鎧の上からでもわかるくらいスタイルの良いわたくしの身体を上下に舐め回すように見ているのがわかる。
一五歳となったわたくしだが、明らかに体つきはそれ以上に成熟していて、革鎧も何度も仕立て直してはいるものの、流石にそろそろちゃんとしたものを作り直さないといけないくらい……まあそのキツくなってきているのだ。
胸元もさ、なんか押し込めているような感じになっちゃってて……これはこれで好きなやつは好きだろうけど、視線が辛い。
「ではこちらに記載をお願いします」
「わかりました」
なぜ冒険者組合へとわたくしがやってきたか……辺境伯の令嬢としてお小遣いはちゃんともらっているのだけど、わたくし個人の財産管理は侍女頭のマーサが行なっている。
彼女は誠実にきちんと帳簿をつけてくれていて、実に優秀だなと思う反面……あまりにきっちり管理してくれているがために少しでも金額を動かしてしまうと速攻で何をしているのかバレてしまう、という割と残念な状態になってしまっている。
まあ、これは「無駄遣いをしないためにもマーサに任せるね」と子供の頃にうっかり言ってしまったのが原因といえば原因で、彼女は「シャルロッタ様がお嫁に行く時の持参金として使えるようにします!」と張り切っちゃっているし、今更やらなくていい、とも言い出しにくくなっているからだ。
「随分綺麗な字ですね……」
「変でしょうか?」
「いえ、冒険者には詮索無しなので問題ありませんよ」
受付嬢が感心したように用紙へと記入していくわたくしの手元を見て感心しているが……そっか、わたくし貴族の令嬢として育てられているが、普通の冒険者は下手すると読み書きも怪しい人がいるんだっけ。
話を戻すと、マーサはまさかわたくしが普通に魔法をぶっ放したり、魔物相手に剣を振るえる何て夢にも思っていないわけで……今つけている鎧の仕立て直しの金額をこっそり使った後、何に使っているのかめちゃくちゃ問い詰められたのだ。
その時はユルにおやつを強請られたので、と誤魔化しまくったが明らかに不審がっていたので、わたくしは王都に来てから初めて自分の手でお金を稼ぐことを余儀なくされている。
「名前はロッテさん……ですね、はい。女性……あ、年齢は書かないでいいですよ。冒険者やってる女性は年齢を知られるの嫌がるので……それと死亡した際の葬儀代及び登録保証金として金貨一枚をお願いします」
「これでよろしいですか?」
受付嬢に懐から金貨一枚……これはマーサに頼んで学園の帰りにお菓子を食べたいから少しだけ分けて欲しいと頼んでもらったものの一部なのだが、なけなしのお金を受付嬢へと渡すと、彼女は冒険者の証となるギルドカードとペンダントをわたくしの目の前に置く。
ギルドカードはわたくし、いや冒険者ロッテが正式に冒険者として登録されていることを示す金属製のカードだ。実はこれは前世の世界レーヴェンティオラでも同じものが使われており、わたくしは少しだけ懐かしい気分になる。
ペンダントはわたくしの今の階級が登録したて、最下級のランク、青銅級であることを示す緑色の飾りがついており、これを身につけていることでギルドカードを出さなくても冒険者であることを証明することが可能になっている。
「ではロッテ様、これで冒険者に登録されました、今日からお仕事を開始することが可能です。ただ青銅級なので討伐系の依頼や、高ランク向けの依頼は受けられませんのでご注意ください」
「ありがとうございます、では依頼を見てみますね」
わたくしは受付嬢に軽く会釈すると依頼が貼り出されている掲示板の前まで移動する。
青銅級冒険者の受けられる仕事は割と狭い……それこそゲームでありがちな薬草採取とか、街中で猫を探すとか……そんな簡単なものが多く、得られる報酬もそれほど多くない。
どれを受けようかなと掲示板を見ながら考えていると、不意に酒臭い息が頬にかかりわたくしの肩にどっしりとした少し鍛錬不足の腕が絡みつけられる。
「随分深くフードをかぶっているな、冒険者なんて危ねえことせずに俺たちと楽しいことでもしようぜ、へっへっへ……」
「……遠慮しておきます」
わたくしはその男の顔も見ずに掲示板から「薬草採取」と「キノコ採取」の紙を剥がすと、その無粋な男の腕をどかして受付へと歩き出そうとする……が目の前に二人の柄の悪そうな男が二人、そして酒臭い男が背後に一人わたくしの進路を妨害するように立ちはだかった。
前にいる二人の男はニヤニヤと笑いながらわたくしの身体を舐め回すようにみる……さっきの視線はこいつらか、フードの下で軽くため息をついたわたくしは彼らに話しかける。
「何かご用でしょうか?」
「ウチの兄貴が酒に誘ってやってんだよ姉ちゃんよ、大人しく酌でもしろや」
「断ります、わたくしは給仕でもなければ娼婦でもありません」
「そのフードの下の顔を見せてみろよ、エロい体つきだしたっぷり可愛がってやるからさ」
これだもんなあ……全く、前世でもそうなんだけど基本冒険者の酒場にいる連中は二つに分かれる……冒険者としてきちんと活動できる者か、冒険者を騙るチンピラか、そのどちらかになるのだけど、この三人はどうやら後者のようだ。
ちなみに冒険者組合の仕込みとかそういうのかな、と思って周りを見るがその様子は全くなく、本当にチンピラなのだろうな。
なお割とこういう場所の酒場でこっぴどく暴れたりしなければ追い出されることもないし、まあ多少暴れたところで衛兵の詰所でお小言を喰らうくらいなので、割とこの手の輩は多くいたりもする。
「貴方たちに構う暇はないので、他所へ行ってもらえますか?」
「こいつ……痛い目を見なければわかんねえようだな、やっちまえ!」
「グオオオオッ!」
だが、わたくしに襲い掛かろうとした背後の男に、わたくしの影から黒い影……ユルが飛び出してその身体を押さえつける……目の前の二人組がその巨大な狼の姿に驚いたように目を見張る、ついでに酒場にいた冒険者たちも驚いたように息を呑む。
わたくしは流石にやべっ……と思うがもうすでに時遅し……ユルは背後にいた男を気絶させると、風のような速さでわたくしの前にいた男も鎮圧してしまう。
わたくしは頭を抱えたくなる気持ちでいっぱいになって……しまうが、受付嬢のお姉さんが慌ててわたくしの元へと走ってくる。
「ロッテさん! すごいですね! そんな魔獣を従属させているなんて……これはシャドウウルフですよね?」
「え? あ、は……はい……シャドウウルフのユルです」
わたくしが咄嗟に答えたことでユルがショックを受けたような顔をしているが……だって幻獣ガルムと契約しているなんてバレたら身バレしちゃうんだよ! だからなんとか落ち着いて、あとでおやつあげるから! と心の中で必死にユルに謝る。
ユルは不服そうな表情を浮かべるものの、おやつをあげるという言葉で黙って再び影の中へと戻っていく……魔獣のシャドウウルフは魔物使い達も良く使役する大型の狼種で、非常に知性が高くガルムのように喋れはしないが、主人と決めた人間の命令を忠実に聞くことで知られており、影から影へと渡る特殊な能力を持っている。
毛皮は漆黒でサイズも非常に大きく……そして青い目をしているのが特徴なのだが、ユル……幻獣ガルムは赤い目なので歴戦の冒険者が見たら一発でバレるくらい差が激しい。
だが今はこの言葉に乗っかってこの場を後にしないと……色々と面倒なことになりそうだ。
わたくしは黙って受付嬢に先ほど掲示板から剥がした依頼用紙を押し付けるように渡してお願いをすることにした。
「この依頼を受けます……それとこの人たちは衛兵に突き出しちゃってください、お願いします……」
_(:3 」∠)_ なぜか冒険者デビューする辺境伯令嬢(15)……でもいいんです!
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