第四話 シャルロッタ・インテリペリ 一〇歳 〇三
——エスタデルから数キロ離れた深い森の中でいきなり爆音と閃光が走る。
「うわあああああっ!」
「なんだ! 襲撃だ! 衛兵か?!」
「どこのバカだ、攻め込んできてるのは……うぎゃあああっ!」
「ヒャッハーッ! 汚物は消毒ですわ!」
わたくしは野営中で油断しきっていた山賊たちの一団に向かって炎魔法である火球を叩き込むと、大声を上げながら腰に挿していた小剣を引き抜いて、混乱する山賊に向かって突撃を敢行する。
少しお嬢様らしくない言動が出てしまっているが、これはもうストレス発散なので仕方ないのだ、そうなんだよ! だって前世は男の子だもん!
奇襲攻撃で山賊たちは大混乱に陥っている……この山賊はまあまあ数が多い、二〇人程度が集団で行動しており、冒険者組合でも懸賞金がかけられている連中だったはずだ。
「うわあっ! 誰だて……びゅ……ッ!」
目の前で混乱する山賊の一人に体ごと体当たりして押し倒すと、逆手に持った小剣を彼の喉元へと叩き込む。
正直に白状するのであれば、前世で使っていたような長剣が欲しいのだけど、この背丈だとアンバランスな上に音が出すぎて移動が困難なんだよね。
なので今はこの小剣を振るうのが一番効率がいいという判断に至っている。そのままわたくしは一気に彼らに向かって剣を振りながら突進し、山賊の首や手首、そして脇の下など致命傷になる場所を切りつけながら駆け抜けていく。
悲鳴と血飛沫、そして時折わたくしが放つ魔法の爆音があたりに響き渡る。
「相手はちっこいガキ一人だ! 矢を射かけろ、囲むんだ!」
山賊の親玉らしい強面の男が周りの山賊たちに大声で命令を出している……アイツが親玉だとしてもまだ少し周りにいる山賊たちが邪魔だな、もっと数を減らさなければ。
空気を切り裂くような音と共に足元に数本、矢が突き刺さる……矢はちょっと面倒だな、わたくしは弓を持った山賊に向かって魔法を撃ち放つ。
「影よ、敵を貫けッ! 影の槍!」
「うぎゃああああっ!」
弓を持った山賊の足元、彼らの影からまるで生き物のように黒い槍が一気に飛び出し、その攻撃は山賊たちの体を刺し貫く。
この魔法は闇属性ということもあってあまり見栄えはよろしくないが、威力は見ての通り折り紙付き、ただ前世では勇者らしくないということであまり使っていなかった魔法なんだけど、勇者ではない今の姿であれば使っちゃってもいいだろうという割と雑な判断のもとにぶっ放している。
「大地に根付く荊棘、豊穣の女神の腕に抱かれよ、荊棘の呪いッ!」
山賊たちに容赦無く攻撃魔法を叩き込む……地面から生え広がる荊棘がここから逃げ出そうとする山賊を次々と捉え、その鋭い棘を突き刺していく……あーっ……超快感……無制限に魔法を撃ちまくれる機会などそうそう無いからな。
君たちはわたくしの日頃のストレスを発散するために、犠牲となってもらうのだ……この世界では山賊なんてやっている奴には人権がないって周りも話しているくらいだし。
面倒になってフードをあげたわたくしの銀色の髪が爆風と、夜風で幻想に揺れ動く……どうせこいつら全滅させて逃す気はないので、顔バレしたところでどうってことないしな。
「ふははははっ! あなた方山賊やっているくらいなのですからクズなのでしょう?! 大人しく命を差し出してくださいませ!」
「な、ガキっても女か! しかもこいつトンデモない上玉じゃねえか……」
「銀の髪に、エメラルドグリーンの眼って……こいつもしかして領主の……」
「そんなわけあるか! 貴族の娘っこがこんなことできるとか聞いてねえ!」
ギラギラした笑顔を浮かべるわたくしを見て、山賊たちが震え出す……、前世でもそうだったが割と異世界は人の命が軽く扱われている。
貴族によっては領民を実験台に使っているような奴もいるし、こいつらのような山賊は領民から物や金、命を奪い取って平然とした顔をしているのだ。
そんな連中に人権などを説く気はない、残念ながら弱肉強食の原理は異世界では当たり前なのだとわたくしは二回目の人生で味わった。
「命繋ぐ血液よ、その荒れ狂う力を体現せよ……破裂ッ!」
「ひぎゃああああっ!」
怯える山賊達の頭がまるで果実を破裂させたようにパァンッ! と音を立てて吹き飛んでいく……この魔法も勇者らしくないと言われて(以下略)な魔法だな。
ご覧の通り見た目がちょっとグロいのと、周りに与える心理的な影響がね、ちょっとね……前世でこれをぶっ放したわたくしに聖女様は本気でお怒りになられまして……「勇者の使うような魔法ではない」と小一時間説教されたもんだよ。
あらかた山賊を倒し終わったわたくしはニコニコと笑顔を浮かべながら、少女魔王よろしくガタガタと震える親玉の前へと立ちはだかる。
「最後は貴方だけですわ」
「……ぐ……てめえ、何者だ」
「わたくしシャルロッタ・インテリペリと申します。お察しの通りお貴族様のご令嬢でございますわ」
ニヤリと絶対に淑女ならやらないような獰猛な笑顔を浮かべて名乗りをあげるわたくしを見て、真っ青になりながら戦斧をわたくしへと向ける親玉。
へっぴり腰なんでまあ、怖くもなんともないけどさ……戦斧の刃は使い込まれておりところどころが刃こぼれしているが、おそらく相当な数の人間を殺しているのだろう。
わたくしは小剣をくるくると回しながら逆手に構えると、空いた左手で親玉に向かって軽く手招きをして咲う。
「いらしてください、お相手仕りますわ、おじさま」
「このクソガキ……てめえええっ!」
まだ一〇歳程度の少女に挑発されて激昂しない大人はいない……これはまあ、仕方のないことなんだけど、親玉は構もへったくれもなく戦斧を振りかぶって突進してくる。
わたくしは一瞬で彼の頭上の空間へと宙返りをして飛び上がる……それと同時に振り下ろそうとした親玉の手首から先がまるで恐ろしい切れ味の刃物に切断されたかのように地面へと落ちていく。
「はあああっ?! 俺、俺の手が……」
「炎よ、稲妻となりて荒れ狂え! 破滅の炎」
いきなり手首から先がなくなったらそりゃ驚くよね……わたくしは彼の後ろへと体を回転させながら着地すると同時に、親玉に向かって炎魔法破滅の炎を叩き込む。
稲妻のごとき爆炎がわたくしの手から放たれ、彼の体をまるで抵抗もなく貫くとそのまま骨も残さずに焼き尽くしていく……うん、運動性能も遜色ない、とはいえ子供の体でやれる範囲というのは結構限定されているな。
もう少し成長したら……長剣も振るうことができる背丈になるだろうし、学園では冒険者体験というのができるとも聞いているので、普通に参加してストレス発散もできるだろうしね。もう少しだけなんだよな……あと五年、長いようですぐに終わるだろう。
さてと、わたくしはフードを上げたまま山賊たちの撃ち漏らしがないかどうか確認する……魔力を使って周辺を探るが敵意のあるような相手はいなさそうだ。
山賊の死体に発火の魔法で火をつけて回る、万が一にも顔を見られて逃すわけにはいかない、あらかた燃やし尽くすとわたくしは山賊のお宝を探すために持ち物を確認のため荒らしていく。
親玉の持ち物を探っていくと一枚の地図が出てくる……雑な絵とミミズにしか見えない文字で描かれたその地図はこの近くにある宝の隠し場所を図解したもののようだ。
「……近くに隠し場所がございますね、今から行くともう少しお時間かかりそうですけども……参りますか……」
腰に下げた小さなポーチに入れた持ち物を再確認し、外套のフードを改めて下ろし直すとわたくしはその場を離れる。
もう仲間もいないだろうけど、その隠し場所に人がいた場合顔を見られるのはめちゃくちゃまずいからだ……間違っても領主の娘が戦闘狂で、虫も殺さないような顔をしておきながら平気な顔して攻撃魔法をぶっ放すような危ない人種だってバレたら生きていけないからな。
「さて、お宝はどうでしょうかねえ……チョー楽しみですわ……」
_(:3 」∠)_ 辺境伯……? 貴族……令……嬢……? うっ……頭が……ッ!
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