第三二七話 シャルロッタ 一六歳 欲する者 〇七
「勇者アンスラックスの所有した剣を……どこから出し……ッ!」
空間収納魔法……繰り返しになってしまうが今世マルヴァース、前世レーヴェンティオラ二つの世界でこの別空間へと物品を収納する魔法というのは普及どころか認知すらされていない。
現にわたくしもスコットさん本人が使うのをみてようやくその原理や方法に気がついた、と言っても良い……慣れると超便利なんだこれ。
なおメジャーなのは物の重さを増減する魔法とかだった気がする……だがこれも効果時間がそんなに長くなくて実用的ではなかった気がする。
魔力をひたすら放り込んでどうにかする系の魔法だから、効率がひどく悪いんだよね……だがスコットさんの収納魔法は空間の狭間に物をぶっ込むだけなので、維持に魔力を使用しないという画期的な物だった。
取り出す時と収納するときに魔力を消費するだけという……なんでを思いつかなかったんだろう、というアイデア賞ものの画期的な魔法だ。
「そういやこの世界じゃレア魔法だったわね……」
「そうか……空間の狭間に……!」
「ご名答、でもこの魔法貴女達が恐れる勇者アンスラックス……スコットさんの残した魔法の一つよ」
収納魔法自体が切り札になるとは彼も思ってなかっただろうけど、この魔法の利点は大きくギリギリまで手札を隠しておけることや、収納する物品の選別なども瞬時に行えるなど非常に使い勝手が良い。
何度か実験してみたけどそれこそ魔力の大きさに比例するが、巨大な岩石などを放り込んでもちゃんとおさまってるのには驚いた。
とはいえ荒っぽく使うと繊細なものは壊れてしまうし、スコットさんがやっていたようにティーセットを入れてみたら粉々になってしまったりと、わたくしでは再現が難しいものもまだある。
生物を入れたりすると死んじゃうしな……とはいえ、使い方にさえ気を遣えばこれを利用した戦法を考えると無限の可能性が広がっていると言える。
素晴らしい魔法だ……それ故に渡す人間の選別にも苦労したんだろう、それ故に勇者アンスラックスはわたくし以外にこの魔法の原理を見せることはしなかった。
「——我が白刃に切り裂けぬものなし……ッ!」
「ぐうううッ!」
「剣戦闘術第四の秘剣……狂乱乃太刀ッ!」
空中を蹴って飛び出したわたくしの剣が欲する者をとらえる……剣戦闘術の中でも最も直線的かつ高速の突進斬撃である狂乱乃太刀の一撃が反応がほんの少しだけ遅れた彼女の左肩から先を文字通り粉砕する。
さすがは訓戒者というべきだろうか? 回避できないと判断した瞬間、ほんの少しだけ身を捩ったことで本来胴体を両断するはずだった一撃の軌道をずらしやがった。
ドス黒い血液を撒き散らしながらも必死に距離を取ろうとする欲する者へと追い討ちの一撃を叩き込むために再び空中を蹴ると、わたくしは彼女との距離を詰めていく。
「……逃さねえよ?」
「逃げる気などないわッ!」
そう叫んだ欲する者の肉体から撒き散らされる赤黒い血液がまるで生きているかのように、空中に対空しているのをに気がついたわたくしは、咄嗟に顔を庇うように防御姿勢をとる。
次の瞬間、血液はまるで連鎖的に爆発するように空中で炸裂し鋭く尖った剣先のようにわたくしの全身へと突き立てられる。
魔力による防御結界へと叩きつけられたそれは、結界を貫き腕や脚に突き刺さるがわたくしは突進を止めることなく距離を潰した。
血液そのものを操る古の魔法、その極みとも言える紅血は純真なる天使も使いこなしていたものだ。
同じノルザルツの眷属に属している彼女達であれば使用できるのだろう、こういう使われ方をするという予測はあんまりしてなかったけど。
「紅血の炸裂を受けてもなお前に出るか……ッ!」
「とーぜん……痛みや苦しみでわたくしを退けることは出来ませんわよ?」
「怪物め……ッ!」
だが欲する者も諦めようとはしない……残った右拳を握りしめるとそのままシンプルに突き出す……この一撃には魂がこもっている。
まさに満身創痍の彼女が繰り出す最後の一撃、全てを失おうとしている訓戒者による反撃の一撃である。
その拳に向かってわたくしは力を込めた左拳を叩きつける……力勝負で負けるわけにはいかない、こちらも相手の全てをへし折る一撃を叩き込むことこそ元勇者であるわたくしがやらねばならないこと。
この世界に蔓延る悪を滅ぼす一撃、勇者としての全てを賭けた魂の一撃をわたくしは叩きつける……ドゴオオオッ! という轟音と共にお互いの拳が衝突し空間を歪ませる。
「……負けられない……ッ! お前のような異物には負けられ……ッ!」
「その心意気やよし……最後の一撃を叩き込んであげるッ!」
「……な……」
わたくしの右手に握られていた不滅がいつの間にかに空間の狭間へと放り込まれていたのを、欲する者が気がつき驚嘆の表情を浮かべる。
いつでも武器を出し入れできて、しかも瞬時に収納できるなんてある意味チート級の技だからな……だがこういう荒っぽい使い方をしても魔剣不滅はその名の通り決して折れることや滅することはない、わたくしにうってつけの武器だということだ。
右拳に魔力を集中させる……焦る欲する者はまだ流れ出している紅血を使って血液の槍を作り出すと、わたくしを貫く。
魔力による防御結界を貫いたそれは、わたくしの腹部を刺し貫くと貫通して背中からその穂先を飛び出させる……飛び散る血液と激痛、普通の人間であれば昏倒しかねない凄まじい一撃であったが、わたくしは意識を保ったまま拳に込める魔力を一気に解放した。
「——我が拳にブチ抜けぬもの無し……ッ!」
「肉体を損傷してまだなお立っている……お前は本当になんなんだ……!!!」
「わたくしは女神よりこの世界に遣わされた元勇者……異世界の魔王を撃ち倒した最強の勇者様よ……ブチ抜けわたくしの拳ッ!! 拳戦闘術、大砲拳撃ッ!!!!!」
振り抜いた拳と共に大砲拳撃の衝撃波が音速を超え、空間を粉砕しながら欲する者を、そしてその背後にあった多面結晶体を文字通り完全破壊していく。
ドゴオオオオオッ!!!! という爆音と共に星幽迷宮を構成した異空間の壁が砕け散り、瞬時に元の空間である地下水路へと風景が戻っていく。
だが大砲拳撃の衝撃はそのまま水路の壁をぶち破り、巨大な穴を作り出しながらそのまま水路の一部を完全粉砕し、爆音と共に水路全体の構造そのものが破壊されていく。
「あ、あれ……? もしかしてわたくしやっちゃいました?」
一瞬水路全体がブルブル、と震えたかと思うと、衝撃とそもそもの構造が古かったためなのか天井が砕け散り、大量の水とともに目に見える範囲の水路が大崩壊を起こしていった。
水路そのものを支える柱、王都全体を支えている岩盤自体には穴が空いていないかと思うが、水路自体は数百年にわたって改築に改築を重ねた構造だ。
迷宮みたいになっていたのもそうだし、一部の構造は安普請といってもおかしくないものだったため、そういった部分が連鎖的に崩壊し、ついでに言うなら以前わたくしが水路で剣戦闘術をぶっ放しているのも相まって、今わたくしがいる大きな部屋そのものも崩壊を始める。
こりゃ逃げないと……とわたくしがその場を離れようとしたその瞬間、ガシッと足首を掴んだものがいた。
「あ、ぶあ……に、にがさ……ないわぁ……!」
「欲する者……こ、このタイミングで……!」
「私はもう……だが、お前はにがさ……ないッ!」
ほぼ肉体は消失し血液が黒い煙をあげて蒸発する中、上半身の一部だけがかろうじて残っていた欲する者がわたくしの足首へと絡みつき、ついでに体へとするすると巻き付くとそのまま凄まじい力で締め上げていく。
魔力による防御結界がイマイチうまく働いていない、密着した欲する者が紅血を使って対消滅を仕掛けているのか?
そのままギリギリとわたくしの体を締め上げた欲する者の力は凄まじく、呼吸がまともにできなくなる。
まずい……窒息による意識消失なんか起こしたら肉体自体を修復することができなくなる……! なんとか彼女を引き剥がそうと震える手を血まみれの訓戒者へとかけて必死に引っ張るが、恐るべき力で絡みついている彼女を引き剥がすことができない。
「あ、が……や、やめ……!」
「ギハハ……ハッ! 地下……水路のほう、かいで共にかみの元へとぉッ!」
メリメリメリという音と共に欲する者がわたくしの肉体を締め上げていく……息ができない……必死に呼吸をしようとするわたくしの口から唾液と、血液が同時にこぼれ落ちる。
さっき避けなかった腹部への一撃が内臓の一部を吹き飛ばしており、貫通した傷口からドボッ! という嫌な音を立てて大量の血液がこぼれ落ちた。
まずい……これ以上はもう……崩落していく天井を見ながらわたくしが必死に踠き、身を捩って欲する者から逃れようとした瞬間、わたくしたちがいる部屋の天井が大きく崩壊を始める。
ここで死ぬわけには……わたくしの脳裏に一瞬だけだが、優しく微笑むクリスの顔が思い浮かぶと、わたくしは大きく叫んで全身に残された力を振り絞る。
それと同時に部屋が地下水路の崩壊に巻き込まれ天井と床が大きく崩壊しわたくしたちは暗闇の中へと投げ出された。
「……死ねない……ッ! わたくしにはまだやらねばならないことがあるのだから……死ななないッ!」
_(:3 」∠)_ 崩壊……そして(オイ
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