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第三一五話 シャルロッタ 一六歳 地下水路 〇五

「……かんタァい!」


「き……気持ちわるッ!」

 名無し(ネームレス)の背後にボボッ! という破裂音のような音が響くと同時に、ドス黒い魔力の絡まりが生み出され、そこから放射状にこれまた黒い光が打ち出される。

 放たれた光は恐ろしいまでの速度で私に向かって迫るが、防御結界に衝突すると結界を貫くことなく爆散し黒い爆煙を撒き散らす。

 威力はそれほどではない……数が多い故に一発一発の威力にはさほど力がないというところだろうか? 無傷のままでいるわたくしを見て名無し(ネームレス)は首を傾げて不思議そうな顔をしている気がする。

 気がするっていうのも、あの歪んだ顔でこちらを見られても感情がイマイチ伝わりにくいからだ……笑みは浮かべているけどあれは心の底から笑っているわけじゃないと思うし。

「……ったく混沌の眷属ってやつは……」


「コンとンは全テヲ融合シまス!」


「魔力の桁が半端じゃないけど……第二階位も行かないくらいか」

 ドス黒い瘴気とも魔力ともつかない不気味な威圧感がビリビリと周囲の壁や地面を揺らす……確かに凄まじい魔力だけど、この程度なら厄介なだけでそれほど消耗せずに勝てるかな。

 わたくしが指をパキパキと鳴らしながら構えをとったのを見て、名無し(ネームレス)は口元をぐにゃりと歪めて笑みを浮かべると、まるで蝶や蛾が翼を広げるようにその体組織を大きく広く伸ばしていく。

 それは混沌の眷属による開花と言っても良いのかもしれない……羽のように広げた体の先から再び漆黒の光を私に向かって放つ。

 さっきよりも魔力の密度が高い……連打で喰らうといくらわたくしの防御結界でも貫通するものが出るかもしれない。

「でハ……本キでタタかウとしまショウ!」


「本気くらいさっさと出しなさいよ」

 その言葉と同時にわたくしは回避のために一気に跳ぶ……移動に合わせて部屋の大きさが瞬時に変わっていくが、迷宮の大きさがある程度こちらの移動に合わせて広がるのか。

 無限ではないだろうけどある程度暴れても問題なさそうだ……わたくしは瞬時に空中を蹴ると、名無し(ネームレス)との距離を一気に詰める。

 相手の動きが緩慢であればこちらはついてこれないくらいの速度で掻き回すだけだ……わたくしは名無し(ネームレス)の胸元へと拳を叩き込む。

 ドガアアッ! という鈍い音と共に怪物の胸部がグシャリと潰れそのままの勢いで拳を振り抜くと、名無し(ネームレス)は大きく跳ね飛ばされる。

「……手応えがイマイチね」


「キあああアアアッ! コれはスゴい!」


「どう見ても痛覚はなさそうね……」

 胸部が潰れたまま空中で回転した名無し(ネームレス)はまるで触手を伸ばすかのようにその手足を地面と天井に貼り付けると同時に、勢いを殺してその場に静止する。

 首をカクカクと痙攣させながらその方向を変えてこちらを見ると、先ほどの衝撃で位置がずれたのか元々歪んで配置されていた目と口がさらに大きくずれ、縦に伸びた口を大きく開くとまるで悲鳴のような金切り声を上げる。

 痛覚は確実にないな、まああっても別にこっちはどうでもいい話なんだが……だが先ほど殴った時の手応えが妙に軽いのが気になる。

 何度か拳の握りを確かめるわたくしを見て、再びグニャリと歪んだ笑みを浮かべた名無し(ネームレス)が話しかけてきた。

「何カ、おカシいと思ッていまスネ?」


「……何? お喋りしたいのかしら? お茶会でも開いてくれるなら参加しますわよ?」


「ヲちゃ会? ソれはコロし合イですカ?」

 ……混沌の眷属に貴族的な侘び寂びを求めても無駄か、わたくしは黙って構えを取り直すがそれを見た名無し(ネームレス)は笑みを浮かべたままゆっくりと地面へと降り立つ。

 そのままお互い睨み合う……あの手応えから考えるに打撃系の攻撃ではあまり効果がない気がするのだが、それでもダメージはゼロだとは考えにくい。

 だが効果が低い攻撃を何度叩きつけてもこの世界には治癒魔法とか、わたくしの修復みたいな魔法がある限り、細かいダメージはカウントできないわけだ。

 やるんなら一気に殲滅して回復させないって方法じゃないときついだろうな……であれば。

 わたくしの魔力が一気に膨れ上がったのを見て、名無し(ネームレス)は歪んだ笑みを浮かべたまま同じく膨大な魔力を放出し始める。

「……クヒハァ! コれは楽シいッ!」


「口も聞けないようにしてやるよ……神滅魔法、聖なる七海(セヴンシーズオブライ)


「デはこチらモっ! 混沌魔法……漆黒の降雨(ブラックレイン)

 わたくしの周囲に天界の海に荒れ狂う大渦巻(メイルストローム)が津波となって荒れ狂うの同時に、名無し(ネームレス)の周囲に漆黒の雨が降り注ぐ。

 お互い周囲を破壊し尽くすための大魔法が放たれたことで、双方の領域による押し合いが始まる……これは以前使役する者(コザティブ)とやり合った時に双方の魔法が衝突した時に近い。

 だがあの時と違い閉鎖された空間で放たれた魔力はその出口を求めて周囲の壁を押し広げようとする……混沌の力で構成された星幽迷宮(アストラルメイズ)の壁は実体があるものの、魔力により近い構造をしている。

 そのためいきなり崩壊せずにまるで歪んで外側へ膨張するように膨れ上がり、その形を変質させていく。

「……うひはっ! スさまジイ魔法デすねッ!」


「……マジか、聖なる七海(セヴンシーズオブライ)と押し合うなんて……」

 聖なる七海(セヴンシーズオブライ)の本質である「大質量による圧倒的な破壊」という攻撃力に、相手の混沌魔法が匹敵するとは思えない。

 漆黒の降雨(ブラックレイン)という魔法自体は、使役する者(コザティブ)が放った病魔の(エンジェルオブ)使徒(ディジーズ)ほどの破壊能力はないように思える。

 こちらが大質量による破壊魔法だとすれば、漆黒の降雨(ブラックレイン)は範囲を侵食する静かなる魔法だと言える。

 それでも今この閉鎖空間内ではほぼ互角に近い押し合いが行われており、なんなら名無し(ネームレス)の表情はまだ余裕のあるものだ。

「コの星幽迷宮(アストラルメイズ)にオける不文リツ……混沌ノ眷ゾくは恩恵ヲうけルのデす」


「ああ、そう……あんたのホームってこと?」


「そノ通り……こコは母ナル胎内ト同じ……!」

 つまり本来わたくしの神滅魔法に抗し得ないはずの混沌魔法漆黒の降雨(ブラックレイン)は、同じく混沌の魔力に満たされた星幽迷宮(アストラルメイズ)の中においてバフがかかった状態だということか。

 ただその割にはすでに迷宮(ダンジョン)自体の壁や天井、そして床面は崩壊寸前まで膨張し、はち切れそうな状態へと陥っている。

 何度か神滅魔法をぶっ放せば迷宮(ダンジョン)を構成している混沌の魔力は一時的に焼き切れ、領域や結界としての効果を失うだろう。

 だが……一時的に崩壊した星幽迷宮(アストラルメイズ)がどうなるのか? それがわからない……この迷宮(ダンジョン)は世界の狭間に位置しているいわば仮想の存在である。


 世界と世界の狭間には「無」と呼ばれる空間が広がっている……これは前々世の宇宙に近い概念だと思うが、例えばレーヴェンティオラとマルヴァースはその無の中に漂う浮遊物みたいなもんと考えれば良い。

 世界と世界を渡り歩く存在……失われた創世神話には無の中を航海する旧世界の巨人船団なんて話があったりするのだけど、基本的には人間は無に落ちた場合元の世界へと戻る保証がない。

 というかそんな場所に到達して戻った人間が存在しないため、本当にどうなるかがわからない……ただ、星幽迷宮(アストラルメイズ)のなかで生きたまま姿を消した人間がどこへ行ったのか、は長らく無に飲み込まれたのだとされている説が正しいと信じられてきた。


「……どうする?」

 すでに世界と世界を移動したり煉獄に落とされたりと、何度も危ない橋を渡ってきているわたくしなので今更狭間……無に落ちたところでなんとか戻って来れるとは思うけど。

 ただ時間や概念の感覚がない場所に落ちてしまった場合、元の世界へと辿り着いたとして、実際には恐ろしいまでの時間が過ぎてました、なんてケースがあり得るかもしれない。

 せっかくクリスが王位につく寸前……もはや大勢が決している状況なので、可能であればその様子は見たいしまだ訓戒者(プリーチャー)は残ってるからわたくしがいなくなるのはマジでまずい。


 押し合っていた神滅魔法と混沌魔法の効果が同時に切れるとともに荒れ狂う魔力が消失し、わたくしと名無し(ネームレス)のいる空間に静寂が戻る。

 だが星幽迷宮(アストラルメイズ)の歪んだ空間は壁面が歪み切り、そのところどころに存在の綻びのようなものが見えている。

 思っていたよりも強度が低く、あと一発か二発全力で大魔法をぶっ放したら迷宮(ダンジョン)自体が一時的な崩壊を起こすに違いない。

 いやワンチャン崩壊しないことに賭けるか? ほんの少し迷ったわたくしの隙を逃さず、名無し(ネームレス)は少し離れた場所からの距離を先ほどのお返しとばかりに詰めると触手のような腕をしならせ、まるで鞭のようにわたくしへと叩きつけた。

「どコを見テいマスか! 私ダけヲミてくダさいッ!」


「ぐっ……この……ッ!」

 反応しきれなかったために、その触手の一撃をかろうじて魔力による防御結界で受け止めるが、凄まじい衝撃が体重の軽いわたくしの体を大きく跳ね飛ばす。

 あまりの衝撃に一瞬目がチカチカしたが、なんとか空中で体制を整え直したわたくしはそのまま宙を蹴って名無し(ネームレス)へと向かって飛び蹴りを見舞った。

 ズドオオッ! という音とともに怪物の体が再び大きく跳ね飛ばされる……だが音の割に手応えが薄く、わたくしは着地とともに舌打ちを漏らしてしまう。

 同じように器用に空中で姿勢を制御した名無し(ネームレス)は地面に着地すると、グニャリと歪んだ笑みを浮かべ、黄金色の瞳をぎょろぎょろと動かしていく。


「……さア……オ互い持っテる最高ノ魔法でケッ着ヲつけマしョうか! 辺境の翡翠姫(アルキオネ)ッ!」

_(:3 」∠)_ 威力高過ぎてここでぶっ放すと自分も巻き込まれちゃうシチュエーション


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