第三一三話 シャルロッタ 一六歳 地下水路 〇三
「わたくしこの程度の魔法では死なない程度には強いんですのよ?」
わたくしの侮蔑を込めた笑みに驚愕と歯噛み……そして恐怖の入り混じった表情を浮かべる首無し騎士イスルートの首。
胴体はというと部屋の端っこで大の字になってひっくり返っており、動けなくなっているところを見るとダメージの蓄積が凄まじすぎて行動不能になっている様に見える。
不死者達の肉体は基本的には損傷を受けたとしても修復ができるため、理論上はいくら破壊されても修理が可能である。
彼らの本質は魂そのものであり、肉体は器でしかないためだ……なので死霊に代表されるゴースト系の不死者は魂そのものが剥き出しになっているため攻撃などで消し飛ぶと本質的な意味での福音……つまり死が訪れる。
肉体の修復といっても損壊した肉体を治癒することはできない……これは治癒系の魔法が生物にしか作用しないためだ。
当たり前だけど肉体を切断してそこから新しい肉体を再生するというのは治癒魔法では不可能だ……魔法が生物に作用する、ということは切断された部位は生物ではなく、単なる物体として認識されているからだ。
だが、不死者は失った部位を継ぎ接ぎなどすれば、核となる魂そのものが損傷していない限りは再び動かすことができる様になるという。
この辺りは前々世であった『フランケンシュタインの怪物』と同じようなものだな、あれも死体を継ぎ接ぎして蘇らせた怪物だったはずだから。
怪物が動くきっかけは雷だったか? ともかくこの世界においては魔法により魂を定着することができるので、それよりはもっと簡単に再現ができたりもする。
この辺りの理論的な部分はオズボーン帝から教えてもらった……使い所はないけど新しい知識や魔法系統の習得というのは新しい技術を思いつくきっかけになるのでありがたいところなんだよね。
「肉体が一定のダメージを受けても修復すれば再び元に戻せる……つまり核となる魂は首側に存在している、これが首無し騎士の仕組みだったわよね?」
「……ずいぶんと詳しいな」
「死霊魔術は使う気はないけど仕組み自体は学んでいるわ……肉体をあれだけ強化した個体は初めてだけど、首をぶっ壊せばなんとかなるわね」
その言葉を聞いたイスルートは表情を歪めて笑う……魔力による防御結界があるからどうにでもなると思っているのだろう。
確かに先ほどはわたくしの攻撃が通用していない様に見えた……だけどそれはわたくしも全力で魔力を込めてないからなんだけどね。
そんなことを考えているとガチャリ、という音と共に彼の肉体がゆっくりと起き上がる……自己再生できる不死者ね……仕組みはわたくしの修復と似た様な感じかな。
だけど……わたくしは一気に床を蹴って一足飛びに飛ぶと、立ちあがろうとしていた肉体へと魔力を集中させた右拳を叩きつけた。
バゴオオオオッ! という轟音と共にイスルートの上半身が瞬時に消し飛び、不死者故に血を吹き出すことのない下半身はバランスを失ってフラフラと数歩歩いた後、グシャリという音と共に地面へと倒れ伏した。
「肉体を修復するなら、それ自体を消し飛ばせばいくらでも時間はかけれるわ」
「……は、あ……」
「だって貴方首だけしかないものね、ラクショーだわ」
満面の笑みを浮かべて笑うとわたくしは振り向きざま跳躍する……空中に固定されたイスルートの首、先ほどから同じ場所に固定されたように張り付いている様に見えるが、これは魔力のよる結界だけでなく座標を固定することによって、独自の縛りを生んでいると思う。
縛りというのはメリットとデメリットが存在している、例えばイスルートの縛りで位置を固定し身動きをできなくする縛りによって生まれたメリットは、その位置で固定されること。
一定の攻撃を受けてもそこから動かない、これはデメリットでもあるがメリットも生まれる……単純に防御能力が上がるのだ。
だから先ほどの攻撃をイスルートの防御結界は防ぐことができた……だけど、わたくしはコイツに本気を叩きつけることをしているわけじゃないから、そりゃ防御できたんだというだけである。
「や、やめ……」
「つまりはそこに止まっていられないくらいの一撃を叩き込めば……いなくなるってもんよ」
「ふざけ……悪魔の炎ッ!」
イスルートの魔法により再びわたくしの全身が炎に包まれる……だがその炎は魔力による防御結界を展開しているわたくしには毛ほども触れることはできない。
それどころか地獄の炎は防御結界に触れた瞬間にひどい匂いと悲鳴の様な音を立てて一瞬で消滅していく様を見て、イスルートの表情に恐怖の色がまざまざと浮かび上がる。
わたくしは不滅を振りかぶったまま一気に空中に浮かぶイスルートの首へと肉薄すると、刀身に一気に魔力を流しこみ剣は白銀の炎を吹き出した。
「——我が白刃、切り裂けぬものなし」
「……ひ、ひいいいいっ!」
「剣戦闘術二の秘剣、聖炎乃太刀!」
イスルートの首へと叩きつけられた不滅の刀身にまとわりつく白銀の炎が空間ごと一気に焼き尽くす……魔力による防御結界が一瞬だけ働き、右手に強い抵抗を感じるがわたくしは構わず剣へと送り込む魔力を増大させていく。
白銀の炎は勢いを増して狭い空間を埋め尽くし、その辺に転がっていたイスルートの肉体は聖なる炎に浄化されて瞬時に消し炭へと変化する。
防御結界はまるで抵抗するイスルートの必死の形相に応えるように、なんとか数秒間だけ刀身を防いで見せたが……それも瞬時に消し飛び悲鳴をあげる間もなく首無し騎士は消滅していった。
ゴオオオオッ! という音と共に部屋の中の瘴気や闇の魔力が浄化されていく……混沌の魔力によって形成された迷宮の壁や床がまるで生き物のように蠢き苦しむような動きを見せる。
わたくしは笑みを浮かべたまま吠える……これはわたくしなりの混沌神への宣戦布告なのだ……全部ぶち壊してやる!
「はっはー! 周囲一帯の混沌の魔力ごと全部浄化してやんよ! 待ってなクソ神とその眷属どもがああッ!」
——迷宮の防御機構が働き、聖なる力を拒む壁が次々と組み上がっていく……その様子を見ながら異形の怪物がきょとんとした表情で震えながら立ちすくむ。
「かんタァい……かんタァい?」
異形の怪物は痙攣しながら首を傾げ、行手を阻む壁の前で立ちすくんでいる……怪物の思考は澱んでおり美しい青髪の少女が伝えた『お客様を歓待して』という言葉のみが行動原理となっている。
肌は漆黒の渦を描いており、常にその渦は光を吸収するかのように蠢いている……金色の瞳はとてもではないが醜い風貌の中にあって、異様なほどギラギラとした光を帯びている。
ギリギリギリギリと歯軋りをした怪物はゆっくりと解けたような、それでいて纏まっているとてもではないが生物の手には見えない腕を伸ばすと、壁へと触れる。
「カんタァい? かんタァい……」
怪物の言葉に合わせて壁は溶け出し、その姿を変え通路へと変化していく……聖なる力がその空間へと蔓延しており怪物は少しだけこの力が嫌だな、と思った。
怪物は聖なる力の渦巻く空間へと足を踏み入れる……ピリピリとした刺激が怪物の体へと尖った針を突き立てるような痛みを感じさせ、苛立ちが金色の瞳を鈍く光らせる。
怪物には性別がない……彼なのか彼女なのかわからない存在であり、混沌の魔力や神格が生み出した全てを併せ持った奇妙な怪物である。
「……カンタァあイ?」
怪物は全身を蝕む力に身を晒しながら、自らの存在を維持するために体内の力を放出していく。
この聖なる力を撒き散らした存在を歓待しろとあの少女は伝えた……正確にはあの少女の中に潜む何か、の命令なのだが、怪物からすると歓待するという意味がよくわからない。
彼もしくは彼女を生み出した造物主はこの力をよく思わない、自分がそうなのだからよく思うことはないだろうと考えているだけだが。
体内に秘めた力を一気に放出していく……混沌の力が怪物の体を塗り替えるために一気にその力を空間へとのばし、まるで触手のように壁や床、天井へと粘着質の半液体の体が張り付く。
それは蜘蛛の巣のように広がり、怪物は自らの体が作り替えられていくのを感じる……この聖なる力に対抗するための、邪悪なる力の純度を上げていく。
「……歓待……ツまりコの聖ナル力を持つ存在をめっスる……」
意識がはっきりとしていくのがわかる……急激に成長していく自分の能力が怪物の知性や理性を最適化していく。
怪物は生まれ出た際には幼児程度の知能しか持ち合わせていなかったが、今でははっきりと敵と味方を区別する程度の能力を身につけていた。
それは混沌神の恩寵なのか……彼もしくは彼女の脳裏に一人の少女の姿が浮かび上がる、銀色の髪に緑色の瞳を持つ美しい少女。
怪物はその顔を考えると、彼の創造主がその少女を排除したいのだと理解し、そして今なお全身を蝕む聖なる力を撒き散らしたのが彼女だとはっきりと認識した。
怪物はゆっくりと清浄なる空気を満たす通路の中を歩き出す……怪物が足を踏み出すたびに聖なる力が澱み、瘴気となり澱んでいく。
「……ワの敵、我の殺すベキ相手はひトリ……シャルろッタ・いンてリペリそノ人にアる」
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