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第三〇一話 シャルロッタ 一六歳 王都潜入 〇一

 ——第二王子派の軍勢が再び編成を完了して出立するまで一ヶ月を必要としていた。


「……それでは王都から脱出した貴族はかなりの数になるのですね……」

 クレメント・インテリペリ辺境伯とクリストフェル・マルムスティーン第二王子は地図を前に難しい表情を浮かべている。

 先日のクラカト丘陵での戦いにおいて転進を余儀なくされた第二王子派の軍勢は、野戦陣地を再構築した上で一部崩壊した部隊などを再構成して軍勢としての体裁を整え直したのだが、そこへ王都を脱出し第二王子派へと馳せ参じる貴族達の訪問にあっていた。

 中立派貴族のように元から数に入っていなかったものだけではなく、古くから第一王子派として知られるナグルファー子爵、アガログ子爵は誓約書を正式に破棄し名代となる騎士を送り込んできている。

「王都を最終防衛拠点と位置付けて要塞化を進めているようです」


「……王都の民達にも影響が大きく、王都から離れるものなども続出しているとか……」


「戦場になりそうな場所へと残るものも少ないでしょう」


「……兄はどうしていますか?」

 クリストフェルは報告していた騎士……アガログ子爵の名代として参加している男性に尋ねると、彼は少し言っていいものか迷ったように表情を変えずにじっと見ていたクレメントへと視線を向ける。

 その視線に気がついたクレメントはクリストフェルと騎士の顔を交互に見ながら言いたいことを理解したように、黙って頷いた。

 それを見た騎士は少し緊張した面持ちでごくりと唾を飲み込むと、クリストフェルへと頭を下げてから彼の質問に答える。

「……王都に戻られて以降、酒量がお増えになりまして……自室に引きこもりがちになられています」


「そうですか……」

 クラカト丘陵で聖女ソフィーヤを失ったことは、第一王子派にとって強烈な打撃となっている……ハルフォード公爵が手勢となる神聖騎士団を率いて王都を離脱し、領地へと帰ってしまった。

 領地をあげて娘の葬儀を行うという名目ではあるが、他者から見れば第一王子アンダース・マルムスティーンを見放したとさえ見えるのだ。

 実際に第一王子派の貴族達の(たが)が外れたのは、ハルフォード公爵家の行動によるものだろう……クリストフェルからすると、公爵も人の親だったということだろうか?

 元々ソフィーヤは公爵家令嬢として溺愛されていた過去もある……聖女までになった娘を領地をあげて弔いたいという希望を、アンダースは断りきれなかったのだろう。

「現実的な話をするのであれば、公爵家が離脱したことで戦力は大幅に落ちている……包囲するにはちょうど良いかもな」


「……それともう一つ報告がございます、こちらは主が独自に入手した情報にて、真偽のほどは分かりませぬが」


「……なんだ?」


「王都の貧民街にもう一人の聖女が現れたという噂が……」

 その言葉にクリストフェルとクレメント伯は眉を顰めて騎士の顔をじっと見る……二人同時に見つめられたアガログ家の騎士は思わず息を呑んですくみ上がる。

 聖女……それは先の戦いで死亡したはずの人物、そしてこの国においてはソフィーヤ・ハルフォードのみが認められた称号でもある。

 それにしても()()()()()()()とは……と、クレメントが萎縮している騎士へと促すように頷くと、騎士は少し息を整えながら話し始める。

「……もちろん聖女たる称号を得た方はお一人かと存じますが、今貧民街では食うに困ったもの達が裏社会へと救いの手を求めております」


「裏社会へ? おかしいな……事前に相談をしていたはずの冒険者達はどうしている?」


「セパルトゥラ卿を含めた冒険者組合(アドベンチャーギルド)の冒険者達は、王都地下にある水道に発生している怪物への対処で手一杯だとかで……」

 騎士の話によれば、王都地下に広がる地下水道……こちらは数年前に謎の現象が発生し、聖域並みに浄化されたこともあったが、第一王子派の軍勢が戦いへと出立した後から何処からかそれまで見たこともないような怪物が出現する危険な場所へ変化していったという。

 そこから這い出してくる怪物……これは通常の魔物なども含まれているそうだが、その対応は兵士ではなく冒険者が率先して行なっていたという。

 第一王子派に属する貴族達は領地へと戻り、彼らへと仕える兵士たちも王都を離れる……結果的に戦力低下を余儀なくされた上に、魔物への対応に割ける余裕がなくなった。

「衛兵では魔物の相手は荷が重いだろうな……」


「冒険者は荒くれ者も多いですが、対魔物のエキスパートですし……」


「結果的に冒険者達は大元を叩くための必要性をセパルトゥラ卿へと説きました、それと時を同じくして一部の貴族領でも大型の魔物の活動が活発化したらしく……」


「なんだと? 我が領も同じことが起きるのではないか?」


「辺境伯領は冒険者も活動が活発ですし……また異変を聞いたベイセル卿が殿下の許可をいただいて、部隊と共に帰還しております」

 この一ヶ月の間に第二王子派の主力となっていたインテリペリ辺境伯家の軍勢も一部が領地へと帰還している……また、第二王子派として参陣している貴族達の中にも、異変に気がついて少数の部隊を残して領地の守備に回ったものも多くいるという。

 正直に言えば包囲をするには数が少ない……だが、王都に残る兵士たちもそれほどの数ではなくなってきている、ということになる。

 ううむ……と悩んだ表情を浮かべるクレメント伯と対照的に、地図をじっと見つめて報告を聞いていたクリストフェルは騎士へと視線を向けると彼へ問いかけた。

「王都を守るもの達は少ないのかな?」


「……自分が出た頃はまだ抑制が効いておりましたが……魔物の出現により現在ではどうなっているか」


「なら少数で行くべきですね」

 天幕の入り口から凛とした声が響き、その声に軍議を行なっていた第二王子派の主要な貴族達が思わずハッとした顔で声の主へと視線を向けた。

 銀色の美しい髪に、エメラルドグリーンの瞳を持ち天上の女神のように美しく整った容姿……辺境の翡翠姫(アルキオネ)と謳われるシャルロッタ・インテリペリがそこには立っていた。

 戦場に似つかわしくない質素だが美しいドレス……動きやすいように装飾などは最小限ではあるが、緑色をベースに白いレースなどをあしらったものを着用した彼女は視線を受けて優しく微笑む。

 戦場に立つ時はもっと動きやすい格好を好んでいる彼女ではあるが、陣地で休む兵士たちの慰問などを行う際にはこのような格好で赴く必要があったのだろう。

「シャル……少数ってどういうことだい?」


「そのままの意味ですよ、軍勢を率いて乗り込むよりまずは王都にある異変を治めないといけないと思います」


「……冒険者組合(アドベンチャーギルド)と連携してかい?」


「アイリーン様とは王都を出る前に何度かお話ししておりまして、いろいろな助力をいただいてまして」

 シャルロッタは懐から小さなメダルをつけたペンダント……これはアイリーン・セパルトゥラが一定の技量を持つ冒険者へと渡すとされているアイテムだ。

 もちろん金級冒険者であるエルネット達も所持しているもので、王都を中心に活動している冒険者であれば大金を叩いてでも手に入れたくなるような代物だ。

 だがこれには簡単な識別魔法なども仕込まれており、認められていない別人が持つと途端に輝きを失うため横取りをしたところであまり意味はないのだが。

「……これはセパルトゥラ卿がお気に入りに配っているペンダントだな、輝きが失われていないということはシャルが認められているということか」


「ええ、まあ……王都を出るまではユルがいるために戦力になると思われていた節があるのですけど」


「まあ……王都を出るまでは君が強いとは一部を除いて誰も知らなかったわけだしな」

 王都にいる間シャルロッタの真の実力を知るものは、金級冒険者「赤竜の息吹」の面々以外にはほとんどおらず、アイリーン・セパルトゥラでさえ幻獣ガルム族のユルがシャルロッタと共にあるということで接触してきていたくらいなのだ。

 王都を脱出して以降、シャルロッタ・インテリペリが凄まじい能力を隠し持っていたということが知れ渡ると、貴族達の間でも話題になったくらいなのだ。

 とはいえ、今目の前で微笑んでいる彼女はこの場にいる騎士達が見ても普通の貴族令嬢にしか見えず、本当に噂通りの実力を持っているのか疑いたくなる。

「……隠してましたから……でも今は違いますけど、潜入などであればわたくしとユルで対応可能ですわ」


「……え? 二人?」


「いやだからわたくしとユルで……」


「いやいや危ないでしょ、それ……僕は許可できないよ」

 クリストフェルは顔の前で否定の意味を込めて手を左右に振るが、それを見た貴族達も彼と同じ考えだったように頷いている。

 だが当のシャルロッタは何が危ないのかわからないとでも言いたいのかきょとんとした表情で首を再び傾げて考え始めた。

 だが、シャルロッタにとって見れば足手纏いになりかねない人物を連れて歩くにはリスクが高すぎる……彼女の能力をきちんと理解しているであろうユルくらいしか同行できないからこそ、それを望んでいるのだ。

「……ぶっちゃけて言えば潜入に人数なんかいりませんし、わたくしとユルであれば王都内を自由に動けます、何も間違ったことは言っていないかと思いますけど」


「……いや、そういうのでは……全く……」

 クリストフェルはシャルロッタの顔を見るが、彼女は何も間違ったことなど言っていないという表情を浮かべてじっと彼の顔を見つめている。

 ここまでの付き合いで、クリストフェルは婚約者が一度言い出すとなかなかそれを撤回しないということも、そしてそこまでいうのであれば本当に無傷で帰ってくる自信があるのだということを頭では理解している。

 だが感情がなかなかそれを理解しようとはしてくれない……わかっている、わかっているのだが……と彼は何度か表情を目まぐるしく変えると、最後には諦めたように大きくため息をついた。


「……わかった、僕の負けだ……それでも本当に危ないことはしないでくれよ?」

_(:3 」∠)_ ということで最終局面に近くなります


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[良い点] シャルロッタの作戦はどう出るのか気になりますが、あまり無理はしないで欲しいと感じます。
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