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(幕間) 隷属 〇一

「ウハウハですわ〜、これは儲かってしまいますわねえ……はっはっは」


「……うわ、悪い顔している……」

 わたくしの前に積み上げられた金色のコイン、これは賭場でしか使われない特殊なチップで市場では一才価値の無いイミテーションである。

 美しい金色に染められているだけで実際の金は使われていないと聞いているが、それでも大量のチップを前に微笑むわたくしを見上げて幻獣ガルム族のユルは呆れたような顔をしている。

 今わたくしとユルがいるのはインテリペリ辺境伯領の中で唯一海に面した港町プロディジーで営業している賭場の中だ。

 この賭場では様々な賭け事が行われていて、中でもわたくしのお気に入りになっているのはウルフレースと呼ばれる狼を走らせて順位を競う貴族向けの賭け事である。

 もちろん裕福な貴族向けということもあり、身元がわからないように仮面をつけるなどのドレスコードがあったりして、偽名を使って参加する必要があるのだ。


 一応王国内では似たような賭場は各地に設置されており、大半が盗賊組合(シーブスギルド)による管轄で揉め事によっては彼らが出張ってきたりもするな。

 賭け事で失敗して事業をたたむ商人とか、遺産を食い潰して破産する貴族なんてのもいるんだけど、それはどこの世界でも大して変わらない人の営みのようなものだ。

 実際に辺境伯家配下の貴族でも時折こういうギャンブルで身を持ち崩して借金を申し入れてくるものなどもいるらしいし、お父様は何人かにお金を貸したこともあるらしい。

 で、なんでこんな場所にいるかというと……実はわたくし前々世では競馬を観戦するのが趣味の一つだったため、この手のレースには強い興味を持っていた。

「……馬を走らせるのもなかなか楽しいですけど、狼が走るのはまた違った迫力がありますわねえ」


「馬を走らせるレース……確かに軍馬などは迫力があるでしょうが」


「他の世界だと専用に育成した馬を使うのよ……地域によっては犬を走らせるレースなんかもあるわよ」


「犬……確かに犬種によっては我と同じように速度が出せるでしょうが……」

 好きだとはいえ実は競馬でお金をかけることには興味が湧かず、走る馬を眺めるのが好きというちょっと変わった楽しみ方をしていたのは事実だが、現在では結構な額を突っ込むようになった。

 というのも転生して貴族の令嬢であるわたくしにとって今ウルフレースで使っているお金など大した額ではないからだ。

 それだけ辺境伯家、そしてマーサの運用で莫大なものになったお小遣いが有り余っているということなんだけど。

 インテリペリ辺境伯家に連なる貴族の令嬢から「面白いものがあるんですわよ」と言われて興味半分で賭けてみたところ見事に大当たり……そこから脚繁く通うようになったというわけだ。

 まあ、わたくしの場合レースに出てる狼自体の体調や能力を魔力を使って調べて賭けてるので、基本的に最も強く、足の速そうな個体を選んでベットしているだけなんだけど。

「……シャルティア様、お飲み物はいかがですかな?」


「いただくわ、お酒以外でよろしくね」


「……かしこまりました」

 ウェイター……と言ってもおそらく盗賊組合(シーブスギルド)所属で裏稼業の人間なんだろうけど、一応きちんとした服装の男性がわたくしのオーダーに従って一礼するとその場を離れる。

 シャルティア……というのはこの賭場で使っているわたくしの偽名で、シャルロッタと名乗るわけにも行かないので咄嗟につけた名前なんだけど、まあ頭文字が似てるので反応しやすいし今では慣れたものになったなと思う。

 次のレースに出場する狼がパドックを歩き始める……全ての狼には魔力で強化した首輪がついており、レース場を飛び出して逃げないような特殊な隷属の魔力が込められている。

 その首輪を見て、わたくしの隣で座っていたユルが少し嫌そうな表情を浮かべてため息をついた。

「……嫌な首輪ですな」


「隷属の魔力よね……まあ狼は本来野生の生き物だから……」

 この場所で走らせているのはいわゆるムーアウルフと呼ばれる中型の種類で、灰色がかった毛皮が特徴的な野生の狼だとされている。

 ムーアウルフは非常に足が速く長時間獲物を狩り立てる体力を持っており、冒険者が荒野で遭難すると一番厄介な野生生物になり得る存在だ。

 だが子狼の時に捕獲して調教をするとある程度人間の言うことを聞くようになるため、平原の部族などでは飼い慣ら(テイム)して狩りに使ったりするらしい。

 だが本質的には野生の獣であり、結構好戦的な性格をしているため飼い慣らし(テイム)したはずのムーアウルフが襲ってきたりもするとかで、扱いには注意が必要だとされている。

 こんな場所でムーアウルフが暴れ出すと厄介なため、隷属の首輪(サーバント)と呼ばれる魔力を込めた首輪をしているのだ。

「……本来であれば荒野を駆ける事に喜びを見出す種族なのでしょうが……」


「この賭場にいるムーアウルフは子狼時代から飼い慣らされているそうよ、だから荒野に戻しても生きているけるかわからないわね」


「複雑な気持ちです……」


「首輪がないと人間が襲われる……そうなると人を襲ったと言うことで駆除されるわ」


「……そうですね……」

 ユルが言いたいことはわかる……本来であれば平原で自由気ままに生活できていたはずのムーアウルフがこんな場所で貴族相手の見せ物として扱われ、反抗できないように首輪をつけられて窮屈な暮らしをしている。

 それでも子狼時代からこう言った場所で育てられたムーアウルフが荒野に戻しても生きていける保証などなく、一生をこのレース場と飼育場所のみで生活しなければいけないのだ。

 それでも賞金を多く稼いだムーアウルフは一部の好事家によって高値で引き取られ余生を過ごすこともあるらしく、そこまで過ごせればなんとかなるのかもしれない。

 次のレースに出てくるムーアウルフのリストと果実を絞った飲み物がテーブルに置かれたのを見て、わたくしは稼いできたチップの一部を持ってきてくれたウェイターの前に置く。

 そのチップを恭しく手に取ると再び頭を下げたウェイターは静かにその場を離れるが、これはこの賭場でのルールみたいなもので、彼らはこのチップを換金して給料の一部にしているのだとか。

 もちろん客によっては渡さないものもいるけど、そういう客はいい扱いを受けないと言うこともあってわたくしはそのルールを忠実に守っている。

「……そのうちユルのお嫁さんになりそうなムーアウルフでも引き取る?」


「……我はそういうのではないので」

 むすっとした顔になったユルをチラリと見てからレースリストへと視線を動かすが……次のレースに出るリストに珍しいものを見つけてわたくしは思わずリストを二度見した。

 通常のムーアウルフは灰色がかった毛皮なのが特徴なのだが、そこに書かれている色は黒……突然変異か何かだろうか?

 そうこうしていくうちにパドックへとムーアウルフの一団が入場してくる……灰色の毛並みの中に一際体格の良い黒い個体が見えた気がしてわたくしは目を凝らす。

 ぼんやりと光る隷属の首輪(サーバント)の魔力とは別に、黒い毛皮の個体は一際強く赤い魔力が宿っているように見える。

「……バカな……!」


「……嘘でしょ……」

 わたくしとユルはほぼ同時に立ち上がるとその黒い個体……とは言っても他のムーアウルフと比べると、ほんの少し大きいだけなんだけどその姿へと目を奪われる。

 黒い毛皮に筋肉質の肉体……瞳は赤く爛々と輝いており、とてもではないけどムーアウルフの姿には見えない姿、そして秘められた魔力が示すのは炎の魔力。

 間違いないあれは……幻獣ガルムだ! 思わず絶句したわたくしを心配そうな顔でユルが見上げているが、わたくしは唖然とした気持ちでそのガルムがスタート地点へと歩いていくのを見ていた。

 レース場に立つガルムはムーアウルフよりも体格は良く、一際目立つ風貌をしており実際に他の参加者の目を引いている。

「……隷属の首輪(サーバント)で行動を制限されているとはいえ、ガルムが易々と捕ま……」


「……なんです? その憐れむような目は」

 そういやユルも初めて会った時はふつーに捕まってたなと思い出し、思わず傍にいる彼をじっと見てしまうが、その視線に気がついたのかユルはなんだよ、とばかりにわたくしを睨み返した。

 幻獣ガルムは人に捕まる習性でもあるのだろうか? と少し残念な気持ちになるのだけど……どちらにせよ、あのガルムが暴れ出したら周囲一帯が火の海になるぞ。

 わたくしは近くにいるウェイターを呼ぶためにベルを軽く鳴らすと、その音を聞きつけた別のウェイターがすぐさまそばへとやってきた。

「……どうされました? ミス……シャルティア?」


「ちょっと聞きたいのだけど、あの黒いムーアウルフ何方の所有なのかしら?」


「ああ、あの……アーテルのことでございますか?」


「アーテル? ああ、黒いからか……そうそのアーテルは誰が所有しているの?」


「申し訳ありません、所有者についてはこの場ではお応えしかねます」

 この賭場にいるムーアウルフにはパトロンがついており、そのパトロンが所有者として登録されている……もちろん偽名なんだけど。

 で、パトロンは飼育のための資金を提供して賭場で走らせるための準備を担う……賭場での報酬は一部がパトロンへと還元されるらしい。

 一応インテリペリ辺境伯家にもそう言うお誘いが来るのだけど、家の方針でそこには出資をしておらず直接的に実家がこのムーアウルフの飼育に携わったことはないのだ。

 パトロンさえわかればあの幻獣ガルムを解放できるかもな……わたくしはそう考えると、ウェイターへとそっと微笑みお礼を言う事にした。


「……あまりに見事なムーアウルフでしたので思わず尋ねてしまいましたわ、もし所有されている方が興味をお持ちなら、シャルティアが話をしたがってたとお伝えくださいましね」

_(:3 」∠)_ 二匹目のガルムだ!


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