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(幕間) 絵画 〇一

「……ああ、美しい僕のシャルロッタ……いつまでもここにいてくれて構わないのだよ」


「……いえいえ、お気になさらず帰りますのでさっさと解放していただけないでしょうか?」

 わたくしの前で微笑む男性……少しくすんだ金髪に藍色の目をした彼はまるで最愛の女性を見るかのように見つめてくるが、今そんな表情を浮かべられても困ってしまう。

 だってわたくしは今椅子に縛り付けられて監禁されている真っ最中なのだから……これは立派な女児誘拐というやつではないのだろうか。

 この世界にもそんな言葉があれば、の話だけどね……わたくしの名前はシャルロッタ・インテリペリ、貴族にしてインテリペリ辺境伯家の令嬢である。

「つれないなあ、僕と君は運命の糸で結ばれたもの同士だ、二人だけの世界から抜け出すことは叶わないよ」


「運命の糸って……貴方わたくしとどれだけ歳が離れてるんですの?」


「君は確か今年で一一歳だったか……二〇以上は離れてるね、でも愛の前ではそんなものすら障害にならないよ」


「……マジで言ってます? 大マジですか? うわぁ……引くわ」

 ことも投げにそう話す目の前の男性……アーンゲイル・グリッター伯爵はまるで宝物でも見るかのような熱烈な瞳で椅子に縛り付けたままのわたくしを見つめている。

 こういう視線は近しい、もしくは同年代の男の子から向けられるケースは多かったのだが、グリッター伯爵は歳の頃は三〇代だったはずなので、正直いえばこの年齢の女児に向けるような視線ではない。

 つまり……前々世の感覚でいえば伯爵は「少女愛(ロリコン)」ってやつなのではないだろうか? うわ、そう思ったら急に背筋が寒くなってきた。


 今何が起きているのか? ことの始まりは辺境伯家で開かられた夜会にわたくしが出席した頃に遡り、その夜会でわたくしを見た伯爵が熱烈な手紙を送りつけてきたことから始まる。

 いやそういう手紙を受け取ることはよくあったんだよ、だってわたくし可愛いからな……でもそういうのは同世代の男子から来るケースが多くて、それまでの最高年齢は二五歳くらいの騎士で「遠くから見つめています」くらいの温度感で済んでいたんだ。

 この世界でも騎士が令嬢に恋文を送るなんて話は結構あって、庇護欲を掻き立てられた騎士が年若い令嬢を見初めて手紙を送るなんて逸話はたくさん転がっていた。

 だが……流石に二〇以上歳の離れた、しかもまだ幼女と言ってもいいくらいの年齢の令嬢にそんなもんを送りつけてくるのは流石に非常識極まりない行為だ。

「僕はあの夜会で君を見て、必ず君の心を手に入れたいと思ったんだ……ウフフ」


「いやいや、わたくしにも選ぶ権利というものがですね……」


「何を言っているんだ、僕と婚約すれば何でも好きなものを買ってあげられるよ、君に権利なんてものはないのさ」

 マジで話聞かねえなこいつ……多少なりともイラッとしてくるが、今現在わたくしの前世で培ってきた魔力、そして力がうまく発動できない。

 なぜそんなことになっているのかは周りを見て納得できた……今わたくしと伯爵がいる場所は現実の世界じゃない。

 油絵で書き殴った絵画のようなどことなく現実感のない、美しい部屋の中にいるためでわたくしの感覚がここは結界魔法の中にいるのだと知らせている。

 そしてこの結界魔法……とんでもないことに中にいるものは目の前にいるロリコ……グリッター伯爵の許可がないと何もできない、という制約が刻まれている。

「……第一こんな監禁まがいのことをして心が手に入るとでも?」


「僕を愛してくれなければここから出られない……我が一族に伝わる古代魔法天使の横顔(エンジェルフェイス)はルールを強制するのさ」

 クスッと笑ってからグリッター伯爵はわたくしの側へと近寄ると、椅子に雁字搦めに縛り付けられたわたくしの唇に自らの指を押し当てると、唇に塗られた薄い色の口紅がついた指を自らの舌で舐めとった。

 気持ち悪っ! わたくしは思わず逃げ出そうと暴れるが椅子から伸びる緑色の蔦のようなものはわたくしの力を持っても引きちぎれる気配がない。

 そんなわたくしの様子を見ながらグリッター伯爵は何度も何度も自らの指に舌を這わせると、あまりの気持ち悪さに少し顔色を変えたわたくしを見て微笑んだ。

「君の唇は柔らかいねえ……君が僕を愛するって誓ってくれたら、誓いの口付けをしよう」


「や、やめましょうよ伯爵……わたくしなどどこにでもいる小娘ですよ……」


「僕は美しい君の全てを知りたい、今すぐにでも僕のみなぎる愛をその小さな体で受け止めて欲しいんだ」

 背筋がゾッとするくらい気持ち悪い笑みと、それ以上に気持ち悪い口説き文句を話しながらも、グリッター伯爵は笑顔のまま油断なくわたくしの様子を見ている。

 どうやらこの天使の横顔(エンジェルフェイス)という結界魔法は術者本人の願望をルール、そして制限として強制することで絶対的な閉鎖空間を作り上げることに成功している。

 結界魔法というのは実は厄介な代物であると前世の魔法使いがよく話していた……結界は対象を特定の空間に閉じ込めるだけの単純な魔法ではない。

 使い方によっては空間内のルールを相手に強制し、その通りに動くまでは全ての行動を不能にする……そんな凶悪な結界魔法なども存在するのだ。


 ただ相手を直接的に傷つける……例えば空間内に入ったものに絶対的な死をもたらすなどの直接的な効果を生み出すにはかなりの魔力が必要だし、空間の構成がめちゃくちゃ難しい。

 驚くべきことだがグリッター伯爵のこの天使の横顔(エンジェルフェイス)という結界魔法はバカみたいな話だが「伯爵の愛を受け入れる」というルールがあまりに単純すぎて、それに伴って発生する制限が強すぎる……いや無茶苦茶すぎる。

 愛を受け入れるまでは伯爵本人への反撃どころか、一歩も動くことすら許されない恐るべき効果を生み出しているのだ。

 これはグリッター伯爵の魔法の才能が歪なくらいに高いことを示唆している……こんなレベルの魔法使いがこの国にもいたんだな。

「シャルロッタ、新婚旅行は海がいいね……誰もいない浜辺で僕たちは獣のように一つになるんだ、そこで君は僕の子供を宿す……」


「……わたくし一一歳ですわよ? マジで言ってますの? マジ……気持ち悪すぎるんですけど……」


「そんな顔をして驚かないでくれよ、僕はそれくらい真剣に君のことを愛しているんだよ」


「せ、生理的に無理です……無理無理無理……ひいっ!」

 伯爵はわたくしの素足……少し暴れたんでスカートが乱れたんだけど、そこから見えている白い足に優しく触れるが、あまりの気持ち悪さにわたくしが思わず身を固くして悲鳴をあげたことで、悲しそうな顔をしてそっと離れる。

 だがわたくしを解放するそぶりは見せずに、椅子に縛られたままのわたくしから少し離れた場所にある椅子へと腰を下ろすと、テーブルに置かれたお茶を飲みながらわたくしをうっとりと見つめている。

 怖い、怖すぎる……グリッター伯爵に手紙を送り付けないで欲しいと伝えにきただけなのに、まさか監禁されるとは。

 わたくしが伯爵の屋敷へ直接乗り込んで文句を言いに行く、と話した時にユルが驚いて止めてきた時の言葉を思い出した。


『……シャルは確かに強いですし何でもできるとは思いますが……過信は禁物です、ここはご家族に頼んではいかがでしょうか?』


 その言葉を聞いてもわたくしは自らの能力を信じてこの場所へノコノコきてしまった……まさか伯爵がこれほど見事な結界魔法を構築できる魔法使いなどとは思わなかったためだ。

 この拘束さえどうにかなればぶん殴れるんだけどな……憎々しげに巻きついている蔦を見つめているわたくしには先ほどから伯爵の視線が痛いほど突き刺さっているのがわかる。

 そして伯爵はこの後に及んでもわたくしが泣き出しもせずに、冷静に受け答えをしていることに多少なりとも違和感は感じているらしく、先ほどまでのうっとりとした視線ではなく、微妙に観察するような視線へと変化し始めている。

「シャルロッタは冷静で少し変わっているね……」


「常に冷静であれとお父様に教えられているので」


「普通はこんな状況、年頃の娘ならずっと泣いているか、おかしくなって僕へ愛を囁くかどちらかだけど、君は本当に興味深い」


「……現実味がなさすぎますわ」


「だけどそんな君と僕の子供が生まれたら素晴らしい魔法使いが生まれるね……大好きだよシャルロッタ」

 伯爵は少し歪んだ笑みを浮かべると椅子から立ち上がり、わたくしだけを空間に残してその場から消え去る……いなくなったわけじゃない、結界魔法を維持しながら空間から出ただけだ。

 なんせこの空間は彼の邸宅の中ではなく、異空間に置かれているようでここからそう簡単には脱出できないと踏んでいるのだろう。

 くそ……一人になると流石に疲労だけでなく、転生後あまり感じなかった恐怖……どちらかというと生理的嫌悪感からくるものだけど、それを感じてどっと汗が吹き出した。

 前世でも肉欲の悪魔(ラストデーモン)の手で結界魔法に閉じ込められて貞操の危機を感じたことはあるんだけど、今回は格別だな。

 わたくしは意識を集中させるともう一度力を込める……だめだな外れやしない、これは助けが来るのをじっと待つしかなさそうだ。


「……ユルあたりなら気がついて助けにきそうね……仕方ない、ここは囚われの姫君として助けを待ちますか……」

_(:3 」∠)_ やべえのがいるぞ!


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