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第二四一話 シャルロッタ 一六歳 大感染の悪魔 〇一

「おおおおっ! その美しいお顔を溶解させるなど歓喜の極みっ! 醜く焼けただれるお顔を拝ませてくださいいいいっ!」


「……くっそキモいわね、あんた……」

 大感染の悪魔(パンデミックデーモン)カルディバドスはその巨大な芋虫を擬人化したような醜い体を震わせながら、周囲に紫色の毒煙を吹き出しつつわたくしへと迫る。

 周りにいる混沌の戦士(ケイオスウォリアー)など構いもしないかのように、その強力な溶解能力で全てを溶かし、真っ白な煙と悲鳴を背に迫る姿は悪夢そのもののように思えるな。

 第二階位の悪魔(デーモン)は出現そのものが災厄であると言われている……マルヴァースでは出現記録がないが、概念として存在が認知されているのだ。


 ちなみに使役する者(コザティブ)が話してた通りこの上に存在する第一階位の悪魔(デーモン)病的な天使(モービットエンジェル)であり、出現そのものが致命的な災害を巻き起こすことになる存在だ。

 ちなみになぜ天使(エンジェル)なのか? という点だが第一階位は神の眷属ではなく御使いであることなどもあって、そういう名前がついているだけだ。

 そもそも病的な天使(モービットエンジェル)なんて見た目は完全なる狂気の集合体であり……人型であるかどうかも疑わしいとされているのだから。


「くっそ甘いわね? わたくしを殺すには第二階位でも足りないくらいなのよ? さっさとそこを退きなさいッ!」

 わたくしの両手に高密度の電流が集中していく混沌の戦士(ケイオスウォリアー)の数もそれなりに多く、一気に殲滅する必要があると感じ、範囲殲滅魔法を叩きつけて一気に薙ぎ払うことを選択するしかない。

 直接的な打撃を当てても倒せるとは思うけど溶けない保証がないな……おそらく病原体などの感染能力と違って、あの毒煙による溶解は防御結界で防ぐことができるとは思うけど、なんとなく嫌な感覚があるんだよね。

 手に集中させた電流は一気に体の表面を流れるように伝い、その数が限界に達したところで一気にわたくしを中心とした空間へと解き放たれる。

「おおおおああああっつ! 早く溶けるのですぞ!」


「神滅魔法……雷帝の口付け(サンダーキッス)ッ!」

 数万ボルトの雷撃が爆音と共に空間ごと薙ぎ払っていく……その高圧電流は大気を加熱し数十万度の灼熱地獄を生み出していく。

 空間内にいた混沌の戦士(ケイオスウォリアー)の大半は瞬時に炭化し、消し炭となって崩壊していくが……なんと大感染の悪魔(パンデミックデーモン)はその高熱をものともせずに魔法を放ち終わったわたくしへと体ごとぶつかってきた。

 強い衝撃と共に防御結界が放たれる毒煙とせめぎ合いを続ける……魔力すらも侵食する凄まじい浸透能力を持つ毒煙だが、次の瞬間比較的体重の軽いわたくし自身の身体が衝突の勢いで大きく後方へと跳ね飛ばされる。

「うわああっ!」


「ウヒョああああっ!」

 大きく後方へと跳ね飛ばされたわたくしは宙を舞うように回転しつつも、すぐに足音に魔法陣を展開してそこへと着地し、衝突の勢いを減衰させる。

 なんてぶちかましだ……まるで躊躇なく雷帝の口付け(サンダーキッス)の範囲内へと飛び込んできやがった。

 よく見れば大感染の悪魔(パンデミックデーモン)の体のあちこちはひどく焼けこげ、炭化している部分も存在しているにも関わらず、まるでその苦痛など感じていないかのように相変わらずキモすぎるうねうねとした動きを見せている。

 あらゆる感覚器官が鈍く、苦痛などを感じない鈍覚のようにも見えるが、そもそもそういった感覚を遮断している可能性もあるな。

 わたくしが観察をしている間にもカルディバドスはその炭化し崩れ落ちている肉体をあっという間に修復し、元の姿へと戻っていくのが見える。

「修復能力はこちらとどっこいくらい? うーん……気が進まないけどぶん殴って消滅させるしかないか」


「今、我を見ましたね? おおおおおんっ! これは美しい……その緑の瞳……腐れ落ちる時にはどのような色になるのですかね? うううおおおおおおん!」


「いやあ、普通に緑でしょ……」

 なんだかどっと疲れる悪魔(デーモン)だな……紫色の腫瘍にすら見える目にあたる部分は感情を見せないための工夫なのか、何を考えているかはわからない。

 わたくしの視線に気がつくとその度にビクビクと身を震わせているが……やっぱり動きが本当にキモいな。

 ふわり、と地面へと降り立ったわたくしだが、先ほどの雷帝の口付け(サンダーキッス)の高熱で地面は焼けこげ、辺りには炭化した混沌の戦士(ケイオスウォリアー)の残骸が転がっている。

 わたくしはそのまま拳を握りしめると、魔力を込めていく……景気よくぶっ放すと戦場すらも破壊してしまう可能性があるから、ある程度手加減をする必要はあるだろうが。

「アンタ……どれくらい強い相手と戦ったことがあるの?」


「おおおおん?! この世界には我と相見える存在はおりませんよぉぉぉ!」


「そうなの? 単に弱い相手としか会ってないだけじゃないかしら?」

 わたくしが笑いながらそう告げると、それまでくっそキモい動きを見せていたカルディバドスがぴたりと動きを止める。

 少しの間何かを考えるように静止していた悪魔(デーモン)がフルフルと揺れるように小刻みな動きを見せたかと思うと、その大きな二対の顎を何度もカシャカシャと動かした。

 笑っている? いや怒ってるのか? 感情の色が見えないのでどう判別していいのかわからないのだが、とにかくその腫瘍のような紫色の瞳でわたくしをじっと見て話し始めた。

「人間がそのような口を叩くとは……無粋な」


 大感染の悪魔(パンデミックデーモン)の全身からまるで噴き出すように紫色の毒煙が噴き出す……その毒煙は周囲にあるすべてのものを腐らせ溶解していく。

 ああ、お怒りですわね? あははっ……わたくしは次第に凶暴な笑みを浮かべて笑うと拳に集中させた魔力を一気に握りつぶす。

 ドンッ! という轟音と共に周囲の空気を振動させたわたくしを見て、ガルディバドスは不思議そうな顔で首を傾げた……何でこんな少女がこれほどの表情と魔力を発したのか理解できなかったのだろう。

 だがわたくしはそのまま再び全身に魔力を漲らせていく……周囲の空気は振動し、次第に私を中心に地面がひび割れていくのがわかる。

「そりゃそうでしょう、わたくしこの世界では最強の元勇者様よ? 戦えるだけでもありがたく思いなさいな、三下ッ!」




「人間は苦しんで死ぬ時が最高の表情を見せます、その綺麗な顔をクソほど歪めてぶち殺して差し上げます」

 暴力の悪魔(バイオレンスデーモン)クーランは剣を構えて立つクリストフェル・マルムスティーンを見ながら、四つに分かれた顎をカチカチと鳴らして威嚇を始める。

 先ほどの攻防を経てクリストフェルの身体能力を過小評価していたことにちゃんと気がついているのか、クーランはある一定の距離をとったまま威嚇だけをしている。

 迂闊に飛び込めないのはクリストフェルも同じようなものだが……クーランの腕を切り飛ばした自分の剣技はまるで自分の動きではなかったような気分なのだ。


「……驚いたな……さっきの動きは予測できた……」

 不思議な気分だ……まるであそこに打ち込めば相手を切り裂けると誰かに教えられたかのように身体が動いた。

 自分が使う剣術はこのイングウェイ王国で広く普及している実戦的なカヴァリーノ流であるが、この剣術は体系化された効率重視のものである。

 王都や各貴族の治める都市には必ずといっていいほどこのカヴァリーノ流剣術を教える道場などが存在しているとさえ言われる。

 基本的な動きは直線的で無骨ともいって良いくらいの破壊力を持つ豪剣なのだが、剣さばきは流麗で柔と豪を組み合わせたものが多い。

 だが……先ほど咄嗟に出た動きはカヴァリーノ流には存在しない動きだった……どこで見た? どこで覚えた……?

「シビッラではない……彼も僕がカヴァリーノ流を使うことを知って合わせてくれていたはずだ……」


「暴力……暴力は全てを肯定します……暴力……最高ッ!」

 クーランの両腕からまるで内側から引き裂かれるように肉の中から鋭く細かいサメの歯のような細かい刃が突き出していく……その細かい刃はギュイイイイイイイ! という耳障りな音を立てながら回転を始める。

 ここにエルネット・ファイアーハウスがいればクーランの両腕に生えた器官が以前出現した暴力の悪魔(バイオレンスデーモン)ダルランが持っていた巨大な大剣……鎖鋸剣(チェーンソード)によく似た構造であることに気がついたかもしれない。

 そこへクリストフェルを援護するかのように、第二王子派の陣営から一斉に矢が放たれる……スティールハート軍の圧力が減少し周りで起きている異変に気がついたのだろう。

 空気を切り裂くような甲高い音を立てて不気味な悪魔(デーモン)へと殺到する凄まじい数の矢に気がついたのか、クーランがその顎を何度か動かした。

「飛び道具も最高です……極上の暴力……さあ一緒にご唱和を……暴ッ! 力ッ! 最ッ! 高ッ!」


 クーランは殺到する矢に向かって両腕に生えた回転する刃を凄まじい速度で振るう……チュインッ! チュイイインッ! という金属同士がぶつかるような嫌な音を立てて殺到したはずの矢は一瞬で切り払われ、残骸があまりの勢いで振るわれた腕から放たれる衝撃波で吹き飛ばされていく。

 クーランとクリストフェルとの間に開く地面へとドカカカッ! というリズミカルな音を立てて突き立つ矢の残骸……クリストフェルはそのすべての動きを見ることが出来たわけではないが、それでも彼の中には奇妙なほどの自信が存在していた。

 自分でも驚くくらい……それは彼の中にあった確かな才能なのか、それとも勇者の器という概念がそうさせるのか……体に満ちる凄まじい力が確実にこの状況を打破できると教えてきているのだ。


「……大丈夫、僕はこの悪魔(デーモン)を倒すことができる……なぜだかわからないがそれを感じるんだ……!」

_(:3 」∠)_ ということで戦いを開始しますー


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