第二二四話 シャルロッタ 一六歳 煉獄 一四
「では見せてみよ、お前の力をッ!」
「初手から行きますわよ? とうっ!」
その巨体を四対の翼を使って、ふわりと空中へと浮き上がらせる火焔鳥よりもさらに上空へと舞い上がったわたくしは拳に魔力を一気に込める。
こういうのはどちらが上かってはっきりとさせて仕舞えばいいだけだ、つまり一撃で全力の攻撃を叩き込むのが正しい……結果的に死んじゃったらまあそれはどうにかしよう。
火焔鳥の上空を抑えたわたくしは、そのまま全力で魔力を込めた拳を撃ち放つ……まずは一発先手を取って相手の戦意を砕く。
「……ちゃんと防御しなさいよ?」
「む……」
突き出した拳から放たれた衝撃波が火焔鳥へと衝突する寸前、彼の前面に巨大な魔法陣が展開される。
これは防御結界か? わたくしが見ている前で衝撃波が魔法陣へと衝突すると、ドゴンッ! という鈍い音と共に不可視の結界を突き破ろうとせめぎ合う。
だが……その威力は次第に収斂し消滅していくと、完全に無傷の状態で不敵に笑う火焔鳥の姿が現れた。
衝撃を完全に吸収し切った結界は、彼はボリボリと脇を掻くと軽くあくびをしながらわたくしに向かって指を指し示す。
「焔」
「な……うわっ!」
指先から超高密度の熱線が放たれる……まるでレーザー砲のようなその一撃はわたくしが避ける間もなく、展開している防御結界へと衝突すると凄まじい衝撃がわたくしの全身を包み込む。
超高熱と限界まで収斂した熱線の威力で細くて体重の軽いわたくしは大きく跳ね飛ばされていく……これは火炎炸裂の比じゃないし、何発も喰らうと多分死ぬ。
空中で体を回転させたわたくしは姿勢を制御しつつ、魔法陣を展開すると空中に静止して再び火焔鳥に向かって跳躍した。
「……今ので死なないか、素晴らしい……」
「——我が白刃、切り裂けぬものなし」
これは魔力を込めた拳とか蹴りじゃ多分防御を貫けない、戦闘術を使って一気に畳み込む方が正解だろう。
わたくしの雰囲気が変わったのを火焔鳥も察知したのだろう、口元を歪めて笑うと攻撃に備えて再び魔法陣を瞬時に複数展開していく。
これは貫いて見せろ、という意思表示だな? ……いいだろう、その自信を完全にへし折って、わたくしのいうことならなんでも聞く従順な下僕にしてやるからな!?
わたくしの全身を魔力が迸る電流のように表面を走る……空間の狭間より不滅を引き抜くと、雷鳴のごとき轟音と共に解き放たれた稲妻のような一撃を撃ち放つ。
「剣戦闘術一の秘剣……雷鳴乃太刀ッ!」
「うおお……っ!?」
全身に纏った雷と共に火焔鳥の後背へと一瞬で出現したわたくしが振り向くのと同時に、彼の前面に展開した魔法陣が次々と切り裂かれていく。
一〇枚近く展開した魔法陣が崩壊していく中、ついに最後の結界が打ち砕かれた火焔鳥の肉体に雷鳴乃太刀の斬撃が刻み付けられる。
切り裂かれた肉体から火焔が吹き出し、まるで血が吹き出すかのようにも見えたが、わたくしが見ている目の前で肉体が炎に包まれて元へと修復されていく。
「ふむ……素晴らしい、斬撃だけでドラゴンすらも殺せるな」
「……自己修復能力が凄まじいわね」
だが完全に修復できるというわけではなさそうだ、先ほど刻み付けた斬撃の後は火焔鳥の肉体にくっきりと残っている。
ふむ……瞬時に修復をしている点ではわたくしの自己修復と同じだけど、魔力の質が違うからだろうか? だが、時間が経てばあの傷も綺麗に消えるのだろう。
軽く不滅を振って感触を確かめ直すとわたくしは構えを取る……さてどうする? これだけ巨大な相手だと強力な一撃で戦闘不能に追い込む方が楽なんだけど。
「ふむ……先ほどの稲妻のような衝撃は魔力か? 魔力を剣に乗せて撃ち放つ……レーヴェンティオラの剣術だ」
「よくご存知ね、レーヴェンティオラに伝わる剣戦闘術よ」
「……剣聖の技だな? もう少し見せてみよ」
そういうが早いか火焔鳥は再び複数の魔法陣を前面に展開すると、わたくしに向かって打ってこいとばかりに指を使ったジェスチャーを見せる。
なら遠慮なくぶっ放すか……わたくしは不滅を天高く掲げるとその刀身に魔力を集約していくと、刀身が光の渦を纏って輝く。
そのままわたくしは体を回転させるように剣を振るうと、一気に魔力を解き放っていく。
「五の秘剣……星乱乃太刀ッ!!」
振り下ろした刀身から眩く輝く光の波が撃ち放たれ、火焔鳥が展開する魔法陣をまるでガラスのように一気に突き破ると……そのまま彼の肉体を引き裂き、左半身を吹き飛ばしてそのまま周りの溶岩を空中へと巻き上げていく。
翼を失った火焔鳥の体がぐらり、と揺れるが一瞬遅れて欠損部位から吹き出した爆炎が体を包み込むと、瞬時のその肉体が完全に修復されて再び翼を羽ばたかせる。
復活した肉体は少しだけ明るさがない気がするので、やはり完全な修復には時間がかかるってことだな……だがその回復能力は凄まじい。
「……素晴らしい、これほどの使い手は初めて……では魔法を見せてみよ! 焔!」
「戦神の大盾ッ!」
再び火焔鳥の指先から超高速度の熱線が放射されるが、わたくしは無詠唱で戦神の大盾、絶対防御魔法を展開してその熱線を完全に受け止める。
少しの間魔法と熱線はせめぎ合いを続けるが、純白の大盾はまるでびくともしない……そりゃそうだこの魔法で防御できないものはないとまで言われるくらい一方向への防御能力は群を抜いている。
これ以上は無駄だと感じたのか熱線の放射を止めた火焔鳥は驚いたような表情を浮かべて何度か頷く。
「……神聖魔法も行使できるのか、これは素晴らしい」
「そりゃあレーヴェンティオラでは最強の勇者でしたからね、でも一撃で仕留めきれない相手は久しぶりですわよ」
「勇者……そうか、それならば納得がいく、久々に楽しい時間を過ごした」
火焔鳥は満足そうに口元から鋭い牙を見せてニカっと笑うと、堂々としつつも優雅な一礼を見せてのける。
どうやら満足した、ということだろうか? 敵意を探ってみるがニヤニヤとした笑みを見せた火焔鳥にはこれ以上戦う気はないようでわたくしの顔をじっと見ている。
全く……殴り合いでお互いの力を試しあってとか、昔のスポ根アニメじゃないんだから……わたくしが不滅を収納すると彼は満足そうにうなずいてから話しかけてきた。
「レーヴェンティオラの勇者の話は噂に聞いている、世界を救いし最強の男……その剣技は地を割り空間を引き裂き、そして神を滅するような魔法を行使すると聞いて……ん? ……男?」
「……何よ」
「お前は男ではないな、どういうことだ?」
火焔鳥はわたくしの身体を確認するように視線を上下に動かすと、わたくしの豊かな胸へと指を指してからもう一度そのまま顔を確認するようにじっと見て……あれ? というようにちょっと困った顔になる。
ま、そういう反応をされるのは正直久しぶりというか、わたくしが転生で女性になっているとか知ってるものはいないわけだから、新鮮な反応にすら思えるな。
火焔鳥は顎に手を当てて少し考えるような仕草を見せた後、眉を顰めて再びわたくしへと話しかけてきた。
「……実は男とか? ※※※ついてない?」
「ついてないし、見ての通り正真正銘女性ですわよ」
「もしかして勇者の仲間だったとか?」
「勇者本人ですわ」
「……おかしいな、レーヴェンティオラの勇者は男性で、しかも仲間に女性しか選ばないハーレム願望の持ち主だと……」
「おい、その噂流してるやつ今すぐぶっ殺してここへ連れてこい」
わたくしが拳を握りしめてプルプルしていると、火焔鳥はうーん……と少し悩むような表情になった後、諦めたのか「ま、いいか」とパン、と手を叩いて納得する。
そこまで考えてて思ったが、わたくしの前世である勇者ラインの伝説って死後どのような感じになっていたのだろうか? それとわたくしの仲間も……不意にわたくしの心の中に辛くも楽しかった思い出が蘇っていく。
ああ、会いたいなあ……わたくしが表情を曇らせていると、全力で防御結界を構築して避難していたシェルヴェンとゾルディアが戦いは終わったと判断したのか近くへと寄ってきた。
「火焔鳥、シャルロッタ・インテリペリを煉獄より出してやってほしい」
「レーヴェンティオラの勇者をマルヴァースへと送るのか? それは盟約に反するぞ」
「い、いえ……わたくし転生しまして今はマルヴァースで生まれておりますのよ」
「転生……そういうことか、女神め……悪戯がすぎるな」
その言葉に火焔鳥は今のわたくしが置かれている状況を理解したのか、非常に納得した顔で頷いた。
そしてゆっくりとその姿を変化させていった……先ほどまでの巨大な怪物の姿がどんどんと光を放ちながら変化していくと、その外見は美しい炎に包まれた鳥の姿へ変わった。
まるで鷲のような美しい外見と、その羽や身体を覆う激しい炎、そして……美しい金色の瞳を持つ炎のロック鳥とも言える姿を見せる。
彼はそのまま首を器用に振ってわたくしへと背中に乗れとばかりにジェスチャーで伝えると、大きく咆哮しながら翼を広げた。
「久しぶりの星間宇宙だ……誇り高き火焔鳥として勇者よ、お前を元の世界へと送り届けてやろう!」
_(:3 」∠)_ 男?! いえいえ貴族令嬢です
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