第二二三話 シャルロッタ 一六歳 煉獄 一三
——炎と溶岩……灼熱の世界が広がる中、銀髪の戦乙女は不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「はーっはっはっは! ここが火口ね!」
わたくしは仁王立ちのまま灼熱の溶岩が渦巻く火口の入り口に立って不敵に微笑む……まあ、背後にいる二人の怪物はげっそりした表情でわたくしを見ているのだけど。
ちなみに火口からの強烈な熱波は普通の人間ならすでに燃え尽きていそうな気もするので、防御結界がないと厳しい気がする。
ちなみにシェルヴェンやゾルディアも同じように防御結界を展開することで対応するのだそうだ……ただわたくしと違って常時展開は相当に難しいらしい。
「なんでこの女燃えないの……おかしいよ……」
「結界が強すぎるようだな、だが魔力は大丈夫なのか?」
「わたくし基本的に結界は常時展開してますわよ?」
その言葉に「うわぁ……」という表情を浮かべる二人だが、確かに防御結界の常時展開は魔力を常に消費し続けると言う点で効率が非常に悪い。
通常は攻撃を受ける瞬間などに展開して防御したり、方向を決めて盾のように展開するなどの使い方がオーソドックスだ。
魔力による防御というのは高等技術に相当し、普通の魔法使いが使う結界魔法などと違ってどのように攻撃を防御するか? という部分にコツがいる。
盾にする場合は強固に固める感じで組み上げるのだけど、魔力を固く固めるなんてイメージを全ての魔法使いが共有できるわけじゃない。
「いや、常時展開をするにしても魔力をどう収斂しているんだ? 我らの場合は周囲に空間を作るような感じなのだが……」
「それは普通の展開方法ですわね、結界魔法の延長線上というか……肉体のラインに沿って形を変化させてますわよ」
「……そんなことが可能なのか……」
わたくしの場合はこの花も恥じらうナイスバディなスタイルの上にもう一枚布を薄く張っているような感じになる……この状態を作り上げるのに何度もトライアンドエラーを繰り返してるし、なんなら重要なところで魔力切れになって死にかけたりもしたな。
布のようなイメージにしているのは、前々世でもあるようなクッション性のある材質をイメージして展開していて、個人的には限界まで硬化させるものよりも柔軟でしなやかな物の方が防御力が高そうな感じがしているからだ。
それにその状態から硬化させるのも簡単で、さまざまな状況に対応ができるとわたくしは思っている……そんなことを考えている間にも防御結界の表面がジリジリと焼けているのがわかる。
「……なんでこんなに高温になってるの?」
「火焔鳥のせいなのだ」
「火焔鳥のせい?」
「そうだ、あれは二〇〇年以上前になるか……トペロリアとファタダスタの戦乱が激しくなりかけた時のことだ……」
わたくしの問いかけにゾルディアは頷くと、どうして火焔鳥のせいでこれだけのことになっているのかを説明し始める。
どうでもいい歴史と背景情報から話し始めたのでそこは完全に聞き飛ばしていたが、なんにせよどこかの世界で死を迎えた後、煉獄にて新しい生命を得た火焔鳥が再生した。
この火口で再生を開始した幻獣はどういうわけだか火口から出ることを拒み、溶岩の中に身を潜めたまま引きこもっているのだとか。
「……ふーん、じゃあぶん殴って引き摺り出せば良いのね?」
「……殺すなよ?」
「手加減はしますわ、耐久力がなければ死にますけど」
「お願いだから殺さないでね?」
シェルヴェンは精一杯の笑顔でわたくしへと話しかけるが……そもそも手加減しないといけないような火焔鳥なんて生きてる価値ないだろ。
とはいえ一度死んだ幻獣が復活するにはかなりの時間がかかると言われており、シェルヴェン達がいうようにかなりの時間……予想では三〇〇年くらいはかかる気がする。
これは自然や寿命での死などであればもう少し早いはずなのだが、流石に殺しちゃったらそりゃね?
パキパキと指を鳴らしたわたくしは、目の前で渦を巻いている溶岩へと足を踏み出す……魔法陣を展開して空中へと立つと、まずは火焔鳥に向かって声をかけることにする。
「……えーと、火焔鳥! 出てきなさい!」
わたくしの呼びかけが火口に響く……出てきなさい……なさい、なさ……な……と何度か反響したあと、溶岩の一部が盛り上がるとその中から巨大な火焔鳥が出現する。
これが鳥……? いやその頭は完全に通常の鳥類の範疇から外れたものであり、言い得てみれば巨大な鯨のようにすら思えてそれを見たわたくしの頭が混乱する。
外皮は明るいオレンジ色に発光しており、背中には巨大で美しい四対の羽が生えているが、胴体は人間を模したもののように腕が生えている。
翼を羽ばたかせて空中へとゆっくりと舞い上がった火焔鳥の下半身は赤い羽毛に覆われた鷲のような脚が見えており、その辺りはちゃんと鳥だなあとか思ってしまった。
「……何のようだ小さき人間よ……」
「言葉は通じるのね? わたくしはシャルロッタ・インテリペリ……マルヴァースに生きる貴族よ」
「マルヴァース……ああ、あの世界か……」
火焔鳥はわたくしの言葉を聞いて顎に手を当てるように考える仕草を見せると、マルヴァースのことを理解したのか一度頷いた。
鯨のような頭には二つの瞳がついているが、ほぼ側面に近い場所にも関わらすこちらを見ているということは余程視野が広いのだろう。
瞳は金色……魔法的な生物や、高次元に生きる上位の幻獣などはこの瞳の色が多いのだけど、この個体は特別美しいと思えるような明るい金色をしているのが特徴的だ。
「わたくしはマルヴァースへと帰りたいの、あなたの力を借りてね」
「……私にお前を送るメリットがないように思える、条件を提示しろ」
「はぁ?」
「だからお前をマルヴァースへと送るにあたって、何かよこせと言っている……タダ働きなどごめんだ」
「……急に俗物的になりましたわね……」
神話の火焔鳥は人と言葉を交わすようなことはなく、喋れるというだけでも神話でしか相手を知らないわたくしからすると意外な気分だったりするのだが、供物を要求するというのは初めて聞いた。
この手の供物というのは神格を得ているようなものだと生物を生贄にするケースもあるし、宝石などを捧げることもあると聞く。
珍しいところだと継続的に魚を捧げたり、希少な鉱物を一定量捧げるまでは呪いがかかるなんてものもあったな……ちなみにわたくし的に出せるものはそれほど多くないため、いきなりはアイデアが出てこない。
「……ちなみにお前の身体でも良いぞ」
「な……!? わ、わたくしを手篭めにでも……まだ清らかな身体ですのよ?!」
「あー、そういうのやってないの、わかるかな?」
「だ、だって女性相手に身体を要求するなんて……」
「……ああ、違う違うこっちのことだ……もしかしてお前はそういうのが好みなのか?」
「違いますわよ!!!」
火焔鳥はそういうが早いかその腕を使って力こぶを作って、鋭い牙をむき出しにして口元を歪める……つまり、そういうことだ。
わたくしはそれを見て少しだけ早とちりした自分に恥ずかしくなって、ほおが熱くなるがそのまま誤魔化すように何度か咳払いをして考える。
割と脳筋だなこいつ……見たところあの暴風の邪神くらいの強さはありそうな気がするけど……でもまあ、それで良いなら話は早いな。
わたくしはパキパキと両手の指を鳴らすと、火焔鳥に向かって獰猛な笑みを見せつつ啖呵を切った。
「こほん……わたくしに殴られるのが好みということなら喜んでお相手いたしますわ、かかってきなさい!」
「これは……病気? いや……戦闘時についた傷から感染したの……? しっかりして!」
「た、助け……い、いやだあああっ!」
教会で負傷者の治療にあたっていたミルア・ラッシュ司祭は負傷した兵士を治療していて、その異常に気がついた。
魔獣の牙に引き裂かれた傷口が凄まじい勢いで腐っていく……治癒の奇跡を使って、傷口を塞ぐものの塞いだ傷口が盛り上がるかのように腐肉と化し、兵士は悲鳴をあげながら凄まじい激痛と恐怖に怯える。
まるで不死者へと変貌するかのようにその兵士は次第に生気を失い、ミルアの前で肉体を腐らせ命を失って崩れ落ちていく。
同じ症状で命を失ったものが数人……重傷者が寝台に寝かされたまま溶けた腐肉へと変化したことがきっかけで、次々と兵士たちが死んでいく。
「ラッシュ司祭!? 黒い煙が!」
「吸い込まないように口を布か何かで押さえて! 神よッ!」
腐肉は音と凄まじい匂いを放つ激臭を纏いながら黒い煙を上げていく……その煙に魔力の流れを感じてミルアは咄嗟にハンカチで口を抑えると、手伝っている住民たちへと警告を飛ばし神の奇跡を願った。
神に愛された司祭であるミルアの願いに答え、神はこの教会内の空気を浄化していく……光が建物内部に満ちると、黒い煙は苦しむ人間の顔のような形状をとると、不気味な呻き声をあげて消滅していく。
それは邪悪な混沌の力を感じさせ、ミルアは思わず顔を顰める……凄まじい邪気、そして無制限の狂気に当てられ思わず眩暈がしたような気がした。
だが、浄化された空気が次第にその場の混乱をおさめていく……残ったのは音を立てて沸騰しながら消滅していく先ほどまで負傷していた兵士の肉と、苦しむ姿勢のまま残された白骨のみ。
「……これは……戦場で何かが起きて、凄まじい邪悪がこのメネタトンに迫っているということですか、神よ……」
_(:3 」∠)_ 日本人だった頃に多分くっころ女騎士ものを見ていたと思われ……
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