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第二二〇話 シャルロッタ 一六歳 煉獄 一〇

「……おおよそ他者に物を頼む態度ではない、だが……気に入ったぞクソ女」


 怪物はニタリ、と底冷えのする笑みを浮かべるともう一人の門番(ウォッチャー)であるシェルヴェンへと視線を向ける。

 その視線にシェルヴェンは黙って頷くと、それを見た怪物は満足そうに何度か頷き、そして独り言でそうかそうか……と呟くと重そうな音を立てながらあたりをうろうろと歩き始める。

 頭蓋骨が無造作に積まれた場所を何度かその鋏で漁ると、巨大な何かの骨を組み合わせて作られた大金槌(モール)を引っ張り出すと器用にその鋏で持ち上げ肩へと担ぐ。

 形状は大きな鉄槌のようにも見えるが、素材は骨のようなもので組み合わされており、牙や肋骨のようにも見える突起物が突き出していて明らかに凶悪な形状をしているのがわかる。

 わたくしの目にはその大金槌(モール)に込められた力……明らかなる神話時代(ミソロジー)の銘品であることが理解できた……すごい魔力を内包しているな。

「……試練をやろう、門番(ウォッチャー)とは本来大罪を犯したものへと試練を与える役目がある、そこの愚か者は放棄しているようだが……」


「へえ……? 話がわかりそうなやつじゃない」


「……大罪を犯すものがどう戦うのか見てみたい、喜べこの魂砕き(ソウルクラッシャー)は銘品だ……魂を砕き、永遠に煉獄(プルガトリウム)を彷徨う亡者にしてやろう」

 怪物はニヤリと笑うと、かかってこいとばかりに軽く片手を振る……つまり暴力でどうにかしたら道を教えるってことか? わかりやすくていいじゃねえか。

 確かにあの武器は危険だが、わたくしもそれなりに実力には自信を持っている、なおかつどちらが強いのか? という勝負事でわたくしは負けたことなど一つもないからだ。

 わたくしは指をパキパキと鳴らしながら笑顔のまま怪物の前へと出ていき彼へと尋ねた、まずは名乗り合いだろう。

 どういうわけかこの煉獄(プルガトリウム)の連中はわたくしの名前を理解できるようだが、わたくしは教えてもらわないとわからないからな。

「……アンタ名前は? わたくしが発音できる名前だといいけど」


「不便だな? グハハッ……よかろう我のことはゾルディアと呼ぶと良い、お前の魂を砕き、そして弄ぶものだ」


「ゾルディア……! よろしくてよ、わたくしがどれだけ強いのかその身に染み込ませなさい!」

 その言葉と同時にわたくしは全速力で前へと跳んだ、これは天空の翼(ウイングオブヘブン)を応用しており真横に展開した魔法陣を強靭な膂力で蹴飛ばすことによって実現している。

 いきなり全力でぶっ飛んできたわたくしの動きに面食らったのか、ゾルディアは見た目以上の速度で大きく横へと跳躍してその一撃を回避する。

 わたくしはそのまま空中で体を回転させると、地面をさらに蹴ってゾルディアに向かって直角に跳躍した……魔力を込めた拳を振りかぶると、回避直後で体勢が崩れている彼に向かって拳を叩き込む。

「……いきなりだけど、もらったああっ!」


「……売女がッ!」

 だがその拳の一撃をどういうわけか察知したゾルディアは恐ろしくしなやかに胴体を捻って巨大な大金槌(モール)をコンパクトに振り抜く。

 なんだそりゃ!? わたくしの魔力を込めた拳と魂砕き(ソウルクラッシャー)が衝突する……一瞬だけせめぎ合う魔力だったが、神話時代(ミソロジー)の武器の威力は凄まじかった。

 凄まじい抵抗感と共に耐えきれなくなったわたくしの右拳が文字通り弾け飛ぶと肘から下が全て粉砕されて血が吹き出す。

「うあああっ!?」


「言わなかったか? 魂砕き(ソウルクラッシャー)は魂を砕く……お前の肉体を粉砕するなど造作もない」

 ゾルディアはぐにゃりと再び胴体をしなやかに捻ると、その図体からは考えられないくらいの速度で空中に投げ出されたわたくしに向かって回し蹴りを叩きつけてきた。

 咄嗟に残った左腕を使って防御するが、巨大な破城槌に衝突したかのような衝撃と共にわたくしの比較的軽い身体が大きく跳ね飛ばされ、頭蓋骨の塔へと衝突する。

 だが防御結界が働いたのか、右腕が千切れた状態だがわたくしはクラクラする頭を押さえながら怪我の影響を感じさせずに立ち上がるが、それをみてゾルディアはほぅ? と感心したような声を上げる。

「……一撃で死なないのか? これはまた楽しめるではないか」


「わ、わたくしの腕を一撃……神話時代(ミソロジー)の武器とはいえ破壊力は折り紙付きですわね?」

 痛む腕を一気に修復させるとわたくしは空間より魔剣不滅(イモータル)を引き抜くと手の中へ光そのものが剣のような形状となって集約していく。

 再び呼び出された不滅(イモータル)はまるで呼び出されたことを喜んでいるかのように軽く震えるが、これを呼び出したのはあの骨砕き(ボーンクラッシャー)に肉体を叩きつけると破壊されてしまうためだ。

 やっぱこの見た目慣れないなあ……一度軽く振ると、フォン! という鈍い音を立てるが、それを見てゾルディアの表情が歪む。

 なんだ? と思って彼を見るとじっとわたくしの手の中にある不滅(イモータル)を見つめてわたくしへと話しかけてきた。

「嫌なものを持っているなお前は……」


「へえ? これはマルヴァースの勇者アンスラックスから受け継いだ魔剣よ」


「勇者……そうかお前は……だがここで死ぬことは変わらんっ!」

 ゾルディアは表情を歪めると、大きく大金槌(モール)を振り翳して構えて一気に前へと出てくる……いいね悪くない、わたくしは再び笑みを浮かべると同じように前に出る。

 ちょうど中間地点、神速で振り抜かれるお互いの武器が衝突するとギャアアアアン! という鈍い音を響かせるが思った通り、魂砕き(ソウルクラッシャー)の一撃でも不滅(イモータル)はびくともせずにその形を保っている。

 決して折れず刃こぼれすら起こさない一〇〇〇年前の魔剣らしい頑丈さだ、わたくしと鍔迫り合いの状態となったゾルディアはわたくしを見てニヤリと笑う。

「見た目と異なる素晴らしい膂力……屈服させ甲斐があるではないか」


「いやらしい目で見ないでくださいましね! 破滅の炎(フレイムオブルイン)ッ!」

 鍔迫り合い中の超至近距離からわたくしが放つ数十発の破滅の炎(フレイムオブルイン)がゾルディアの全身へと突き刺さり爆発を起こす。

 その爆発とともにゾルディアの体が爆発の勢いで後方へと跳ね飛ばされる……何か違和感が……? とわたくしが軽く首を傾げるなか、燃え盛る爆炎の中からまるで無傷の状態で、大金槌(モール)を持った怪物が姿を表す。

 無傷……これはちょっとおかしいな、魔法は確実に相手の体に突き刺さって爆発したのだから、無傷ってことはないだろ?

「……おかしいと思っている顔だな?」


「ええ、わたくし魔法も自信ありますから……」

 まるで先ほどの魔法が効果がなかったとでも言わんばかりの相手の顔を見つつ、当てはまりそうなケースを考えてみるが……まあ単純に魔力に対する耐性が高いとか、そもそも魔法自体を無効化する権能か何かを得ているかだ。

 後者の場合はめちゃくちゃ面倒だ……攻撃に魔力を乗せてぶん殴るスタイルの戦闘術(アーツ)は全て無効化されてしまうからだ。

 そもそもわたくしの戦闘スタイルは女性として転生した時点で不足する筋力などを魔力で補完するものなので、恐ろしく相性が悪い相手とも言える。

 そしてゾルディアが持つ魂砕き(ソウルクラッシャー)は最も簡単にわたくしの肉体を粉砕してのける……人間としての頸木に囚われるわたくしにとって最悪の組み合わせだ。

「……気がついたか? 種明かしをすれば我は魔法攻撃を完全に無効化する権能を得ている」


「お優しいことで……」


「お前の能力は魔力を中心に組み立てるものだな? つまりお前は我を殺すことは能わず……降伏するなら今のうちだぞ?」


「お優しいことで……でも魔法攻撃無効化なんて相手散々相手してきてますわ」


「ほう……?」

 わたくしの記憶にもある前世である勇者ライン時代に、実際魔法攻撃無効化という権能を得ている怪物と何度か戦闘をしているのは確かだ。

 勇者ライン……前世のわたくしはちゃんと鍛えていたし男性の肉体としてもかなりの身体能力を持っていた、それ故に「魔法が効かないなら物理でどうにかする」というゴリ押しが効いてしまっていたりもするので……今のこのシャルロッタ・インテリペリという女性の肉体とはかけ離れた能力の持ち主でもあった。

 同じことはできない、だけど……その時積み重ねた戦闘経験という確かな記憶はわたくし自身に継承されているのだ。

「だからね……魔力が効かないなら効果が出るまで弱らせるためにブン殴るっていう手段もアリなのよ」


「は?」

 次の瞬間わたくしの姿がいきなりゾルディアの眼前に現れたことで、防御姿勢を取ろうとするが……それを掻い潜ってわたくしの拳や蹴りが、彼の肉体へと叩き込まれる。

 体を拗らせて反撃をしようとするゾルディアの動きを見つつ、わたくしの頭突きがいきなり彼の顔面へと叩き込まれ……青い血液を鼻から滲ませながら、ゾルディアはうめき声をあげて後退する。

 わたくしの拳や脚がへし折れる、そして彼に叩きつけた額が割れて血が流れ出すのもお構いなく、無理やりに修復をかけるとそのまま破壊される肉体をものともせずに、全力の攻撃をゾルディアへと叩き込んだ。

「オラあああああっ!」


「ぐ……この……狂人が!」

 大きく体を捻ったゾルディアは魂砕き(ソウルクラッシャー)を振るうが、その攻撃をわたくしは左脚を使って受け止める……もちろんこの武器の特性である「肉体を粉砕する」という効果によりわたくしの美しくも滑らかな左脚が粉砕され、大量の血液を撒き散らす。

 痛みを感じるよりも先に肉体を修復したわたくしは、右手に持った不滅(イモータル)をくるりと回転させて逆手に持つと、ゾルディアを支える尻尾のような器官へと突き刺した。

 突き刺した剣をそのまま横に振るって相手の肉体を引き裂くと、わたくしは痛みに悲鳴をあげようとした相手の脇腹へともう一度左拳を叩き込んだ。

 ドグシャアッ! という鈍い音とぐしゃぐしゃにつぶれて血を撒き散らすわたくしの左拳……だが、その一撃を受けたゾルディアは表情を歪めて叫んだ。


「……ぐあああっ! 肉体を崩壊させることを厭わずに攻撃を仕掛けるなど……お前は頭がおかしい! 狂っている……ッ!」

_(:3 」∠)_ 失礼な貴族令嬢にお前は失礼だと言った方がいいですよ……(本音


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