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第二一七話 シャルロッタ 一六歳 煉獄 〇七

「おお、それはレッドリバークロコダイルと言ってな、内臓がまた美味しいのだ」


「どりゃあああッ! 破滅の炎(フレイムオブルイン)っ!」

 ワニの胴体と一つ目の巨人の顔を合わせたようなグロテスクな怪物の尻尾を掴んで思い切り投げ飛ばすと、空中でバタバタと手足を動かすレッドリバークロコダイルとかいう怪物に向かってわたくしは破滅の炎(フレイムオブルイン)を放つ。

 着弾と同時に空中で炸裂した炎が怪物の体を木っ端微塵に吹き飛ばすが、それを見たシェルヴェンは感心したようにうねうねと触手を動かして拍手する。

 間髪を容れずわたくしは迫ってきた次の怪物……牡鹿の頭にムカデのような胴体を持った奇怪な見た目の怪物が飛びかかってきたのを右拳に魔力を込めて殴りつける。

「とああああっ!」


「おお、そいつはスタッグビートと言ってな血液が強力な腐食性だ、食べられるところは少ないなあ」

 ボゴン! という音共にスタッグビートの顔面を吹き飛ばすと、残ったムカデの胴体が地面へと叩きつけられるように落ち、そのままバタバタと痙攣しているのが見える。

 拳を振り抜いた姿勢が隙だらけに見えるのだろう……死角から今度は尾鰭の生えた四本腕の巨大なゴリラのような怪物が、鋭い牙を剥き出しに飛びかかってくる。

 だが……そのままわたくしは体を回転させるように自分と怪物の位置を変化させると、致命的な一撃を躱されて逆に体勢を崩した怪物の頭部に踵落としを叩き込む。

「てやあああっ!」


「おお、こいつはモグエイプ……脳みそをスープにして味わうと絶品なのだ……ってああ、もったいない……」

 ボギャアアッ! という鈍い音を立ててモグエイプの頭が地面とわたくしの踵落としに挟まれて砕けると、中身を撒き散らしながら絶命していく。

 痙攣するモグエイプを見ながらシェルヴェンは残念そうな顔で、周りを警戒しているわたくしと絶命したモグエイプの肉体を交互に見ている。

 そんなわたくし達の頭上から凄まじい速度で巨大な黒い影が迫る……大きな口を開けてわたくし達を飲み込もうとしているのは、空飛ぶサメ?! 大きな口の中には二つの瞳があり、こちらを見てまるで笑っているかのような視線を浮かべている。


「……ふざけ……っ! 氷嵐の爆槍(ブリザードランス)ッ!」

 無詠唱でわたくしの足元から氷の嵐が吹き荒れる……全てを凍てつかせる魔力が巨大な口をあげているサメの全身を一瞬で凍らせると、わたくしはそのまま右拳をサメへと叩きつけた。

 バシャアアン! という軽く何かが砕けるかのような音を立てて、凍てついた肉体が粉々に砕け散り、地面へと叩きつけられると同時に一瞬で粉のように崩れ去る。

 ふうっ、とわたくしが息を吐くとシェルヴェンはパチパチと触手を打ち鳴らしてまるで拍手でもするかのように、笑顔でわたくしへと話しかけてきた。

「見事見事……最後のはイビルシャーク、空中を舞って獲物を狩るハンターでな……これのヒレはまた美味し……」


「ちょっと、そこの役立たず」


「何だね、シャルロッタ・インテリペリ?」


「アンタのゲテモノグルメ批評を聞きたくてここにいるわけじゃないんだし、少しは手伝ったらどうなの?」

 憎々しげなわたくしの表情を見て、シェルヴェンはニヤリと笑ってまるでお手上げと言わんばかりに肩をすくめる……こいつ……何のためについてきてるのかわからない上に手伝いもしないじゃないか。

 しかもわたくしが聞いてもまるで意味のないゲテモノなグルメ批評を垂れ流して余計な情報を増やすし、第一あんな訳のわからない怪物の味とか知りたくもないわ。

 だがそんなわたくしの顔を見て、本当にムカつく顔で何度も頷きながら口元を歪ませる……笑っているのか微笑んでいるのか本当にわかんねーなこいつは!

「やなこった」


「……はぁ?!」


「お前の贖罪だろう? なぜ我が手伝わなければならんのだ」

 さも当たり前と言わんばかりの顔でわたくしをめちゃくちゃバカにした目でみるシェルヴェン……え? これって贖罪のためにやっていることなの?

 単に襲いかかってくるからぶん殴って倒しているだけなんだけど、こいつらはさらに罪でも重ねた怪物だったとかそういう話なのだろうか?

 もしかしてこの調子で怪物をぶん殴って倒していけば現世に戻る可能性が少しでも上がるということか、わたくしはシェルヴェンにほんの少しだけ期待した目で聞いてみた。

「ちなみにさっきの連中倒してどのくらい罪が減るの?」


「そうだな……ひー、ふー……三時間くらい?」


「……期待したわたくしがバカでしたわ……」

 三時間? 三時間って何だよ! バカにしてんのか!! 怒りのままに地面に転がってたモグエイプの肉体を蹴飛ばすと、それなりに重量のある肉体が空中へと吹き飛び、そのまま遠くへと消えていく。

 ったく……どうにかしてこの煉獄(プルガトリウム)を抜けないと、元の世界ではどうなっているのかわからないって状況なのに、怪物倒して三時間ッ! ふざけんなよ!

 わたくしが飛んで行ったモグエイプの肉体の方向に向かって何度も地面を蹴っているのをみて、シェルヴェンは呆れたようなため息をつく。

「全く……気が短い魂だ、そんなことだから大罪を犯すのだろう」


「……あ゛あ゛?!」


「ナニモイッテナイヨ」


「こっちはイライラしてんのよ、こんな訳のわからないところに落とされて……あのクソ女神絶対にギッタギタにしてやる」

 シェルヴェンはめちゃくちゃバカにしたような顔で、チラリと舌を見せるがまたその仕草がめちゃくちゃムカつく……ギリリと奥歯を噛み締めるが、そんなことしても何もならないのは明白でわたくしは一度大きく息を吐く。

 だめだ落ち着け、どうもここ最近イライラすることが多すぎて冷静な自分がちゃんとコントロールできていない気がする……ユルにも怒りっぽいって言われちゃっているしな。

 だが落ち着くために親指の爪を噛んでいるわたくしをみてシェルヴェンが同じようにため息をつくと、わたくしへと話しかけてくる。

「仕方ないな……ではお前に少しだけ答えてやろう」


「……何よ」


「もう一人いる門番(ウォッチャー)の場所へと案内してやろう、そこは火口へと近づく道の一つだ」

 シェルヴェンはわたくしをみてニヤリと微笑む……火口、つまりその場所へと身を踊らせることで罪が許される、だっけ? 今の所この煉獄(プルガトリウム)を抜ける手立てとしてはそこにいくしかないんだよな。

 本当に火口へと身を踊らせるかどうかは実際に見てみないとわからないが……まあ、多少色々燃えたところで三秒くらいなら助かるかもだし、肉体の損傷は修復できるはずだから問題ないだろう。

 火口への道筋の一つということは、そこへいけば門番(ウォッチャー)から火口へむかう情報が手に入るかもしれない……わたくしはシェルヴェンへと向き直ると、彼へとお願いをすることにした。

「……ならそこへ連れて行ってくださいまし、お願いしますわ」




「……撃てええッ!」

 ビョーン・ソイルワーク男爵の号令とともに再び魔獣の群れへと矢が放たれる……空中で炎を纏った矢は魔獣に突き刺さった瞬間に大爆発を起こし、周囲に炎を撒き散らしていく。

 その炎を見て魔獣の一部が動揺したのか、前進する速度が鈍ったことを見逃さず幻獣ガルム族のユルは、口内に赤い光……彼を象徴する炎の魔力を集中させて一気に放射してのけた。

 炎魔法である火炎炸裂(ファイアリィブラスト)が群れの中へと突き刺さると、大爆発を起こし周囲にいた魔獣達を軽々と宙へと舞い上げる。

「す、すげえ……!」


「これなら勝てるぞ!」

 メネタトン守備隊の士気が一気に上がると、接近戦を挑んでいた兵士達がそれまでいいように押し込まれていた場所から次第に盛り返していく。

 その様子を見ながら、ソイルワーク男爵は手応えを感じたのか彼自身が剣を手に取り、メネタトン正門に迫ってくる魔獣達へと切り掛かった。

 男爵は騎士としては大成出来なかったものの、その判断能力や指揮能力の高さを買われクレメント・インテリペリ辺境伯直々にメネタトンの支配をまかされている人物だ。

「押し返せっ! 我々のメネタトンに一匹たりとも魔獣を入れるな!」


「「「おおおっ!」」」

 本来は祖父が支配を任されていた街だが、急病にて祖父が他界し幼少期にここで優しい祖父の思い出を持っていたビョーンは、この街の領主となることを迷いもせずに受け入れた。

 彼自身もインテリペリ辺境伯家への忠誠心は持ってはいるが、内戦ともなれば思い出のこの街が戦火に包まれる可能性も高く、それを恐れて今まで中立を保ちたいという意思を示していた。

 この大暴走(スタンピード)は何かおかしい……それは魔法の知識にそれほど明るくない男爵ですらここまでの群れが動く様を見てはっきりと感じ取った。

 意思を感じる……軍指揮官が命令しているかのような統一性のある動き、だがその動きは拙く歴戦の指揮官ではないものが命令を下しているかのような動きに見える。

「立てるか? 怪我をしたならラッシュ司祭の元へと迎え、申し訳ないが治療後戻ってくるのだ」


「は、はいっ!」

 ソイルワーク男爵は怪我をして動けなくなっていた守備隊の一人へと声をかけると、剣を再び構えて襲いかかってくるゴブリンを一刀の元に切り捨てる。

 ドス黒い血を吹き出しながら倒れるゴブリンの向こうから、巨大な犬歯を持つサーベルトゥースタイガーが姿を現し、恐ろしい鳴き声と共に男爵の喉元を食いちぎろうと飛びかかってくる。

 だが、その攻撃をかろうじて躱した男爵は返す刀で手に持った剣を魔獣の体へと突き刺し、足で蹴って一気に距離を取る。

 ギリギリだ、騎士としての評価がそれほど高くないとはいえ元々戦闘経験も積んでいる自分ではあるが、流石に疲労で汗が滝のように流れている。


「……だが、この街はやれん! 俺にとってメネタトンは家、そして帰るべき場所だ! 魔獣如きにやるには思い出が多すぎる……かかってこいっ!」

_(:3 」∠)_ シェルヴェンさんのおいしく食べれる怪物料理(ただし人間には美味しいとは言ってない


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