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(幕間) 不死の王 〇四

 ——オズボーン王の宝物庫……その魔力で偽装された迷宮(ダンジョン)へと数人の人間が足を踏み入れていた。


「うわ……これはまずいな……どうする? もう先に進むしか戻れないぞ」

 銀級冒険者パーティ「青の隻狼」、イングウェイ王国の冒険者の中でもベテランの冒険者でもある……リーダーである戦士リオン・ラッシュ、斥候かつまとめ役のラタ・ブランカ、女僧侶ミルア・シンデレラ、魔法使いフィリア・トリスタニアの四人で構成されている。

 銀級冒険者歴も長く、もう八年もこの地位にいることでベテランとして知られている……なぜこの宝物庫へと赴いたのか。

「やっぱり受けなきゃよかったんじゃ……」


「とはいえ借金があるからな」

 それは数ヶ月前のある事件に遡る……彼らが受けた依頼の一つに裏社会と繋がりのある貴族からのものがあったが、その依頼自体がパーティの女僧侶ミルアを手籠にするために仕組まれた罠だった。

 なんとか悪意ある貴族から逃れるために依頼を破棄したのだが、冒険者組合(アドベンチャーギルド)は正式なルートを通して発注された依頼を冒険者側が破棄した場合違約金をとる必要があり、これはいくら文句を言っても変えることができなかった。

 そのため借金として計上された金額を支払うために、彼らはそれまで溜め込んでいたお金を放出したが弱目に祟り目……彼らの苦境を利用しようとした商人にも騙されてしまい、巨額の借金を抱え込むことになってしまったのだ。

「……申し訳ありません、私のせいで……」


「なに言ってるんだ、お前の豚貴族に手籠にされるところだったろ……仲間なんだから助けるに決まってる」


「そうだよミルア、お前を差し出してまで金をもらおうなんて思わないよ」

 リオンは優しくミルアの肩にそっと手を乗せる……二人はこの事件を通じて急接近しており、ラタとフィリアはその様子を見て優しく微笑む。

 ベテランと呼ばれて長く、そろそろ冒険者としては次の人生を考える時期に来ており事件によりその意識が強くなってきている。

 もしこの宝物庫荒らしに成功すれば、ここに収められている宝を売り払って引退をすることを考えていた……本来ここに入ることは許されていないが、裏社会であれば出所を疑われることはないだろう。

「……引退前の稼ぎだ、と思ったけどな……本当にオズボーン王の宝物庫なのかねえ」


「おとぎ話でも言われている有名な場所だよ、油断は禁物さ」

 すでに出口はなく、進むしかない状況に彼らも緊張した表情へと変わっていく。

 不気味な雰囲気……そしてどこまでも続く通路と濃厚な気配……恐怖心がじわじわと彼らの心へと浸透していく。

 だがさすがはベテラン銀級冒険者パーティ……一度大きく息を吐くと彼らはゆっくりと前へと進んでいくのが見える……その様子をオズボーン王とその小脇に抱えられたシャルロッタは空間の狭間からじっと見つめている。

 この狭間の空間は冒険者、また侵入者からは知覚できない異空間に存在し、迷宮の主(ダンジョンマスター)であるオズボーン王でないと侵入することは難しい。

「……冒険者パーティがここへ入るのはそうだな……かなり昔以来だな」


「……あの」


「なんだシャルロッタよ」


「この持ち方は淑女(レディ)に対して失礼すぎませんか?」

 ジト目でオズボーン王を見上げるシャルロッタは、彼の傍に抱えられた状態でまるで物のような持ち方に貴族令嬢である彼女のプライドに強い羞恥心を与えていた。

 いや人間抱えるなら普通はこうしねえだろ、と言いたげな彼女の表情だが、その視線を受けてもオズボーン王はまるで動じる気配すらなく首を左右に傾けている。

 本当にオズボーン王はなにがいけないのかわからなかったらしく、顎に指を当てるとカタカタと骨を鳴らす……その様子を見てシャルロッタは深いため息をつくと「いいです、もう言いません……」と観念したかのように視線を冒険者へと変えていく。

 彼らの移動に合わせ、異空間の中をのんびりと歩いていくオズボーン王。

「……今お前は朕の物だからな、それに朕に接触していないと同じ空間に入れん」


「そういえばなんで朕なんです? 王国の王様なら余とか言いません?」


「なにを言っている朕は帝であるぞ……第一オズボーン王ってなんだ、後年の創作ではないのか? オズボーン帝として名乗ったのだがな……まあ良い、すでに国亡き帝など虚しいだけ……遠慮なくオズボーン王と呼ぶが良い」

 つまり……本来オズボーンは帝国を支配する皇帝として君臨した帝国の主であり、小国とはいえ皇帝として君臨していたのだから自らを朕と呼ぶのだと言いたいらしい。

 シャルロッタは意外なものを見る目で彼を見るが、その視線が煩わしいのかオズボーン王は視線を別の方向に向けると彼女を抱える手をほんの少しだけ緩める。

 それはオズボーン王なりの優しさなのだが、その計らいに少しだけ笑顔を見せたシャルロッタはくすくす笑う。

「なら遠慮なくオズボーン王とお呼びいたしますわ」


「……勝手にせい……第一幼女にそう言われたところで怒る気にもならんわ」

 異空間を飛ぶように移動するオズボーン王は時折立ち止まると、何かを指示するかのように指をさし示し、移動先へと誘導するような動きを見せる。

 その指の動きに合わせて有機的な生物感のある動きで通路が巧みに組み変わっていくのが見え、シャルロッタは驚いたように感嘆した声をあげている。

 シャルロッタからしても迷宮の主(ダンジョンマスター)が実際にこういった迷宮(ダンジョン)を組み替えるところを見るのは初めてだからだ。

「……こんな動かし方をするんですのね」


「本来は最も深き場所にある部屋で行うのだが……今回は特別だ、それにあの冒険者どもを追い返すのが目的である」


「……なら怪物とか出せばいいじゃないですか」


「そんなもん迷宮(ダンジョン)の中に入れてみろ、あっという間に汚れるではないか……朕は清潔を尊ぶのだ」

 オズボーン王は懐から年代物の香水を取り出すと、軽く首筋へと振りかけるが……その匂いは人間であるシャルロッタにとってはあまり心地よくなかったようで、軽く咳き込む。

 しかしオズボーン王はそんなシャルロッタに構いもせずに空間を移動していき、小さな小部屋……とはいえ、優に大きめの会議室程度の大きさがある部屋へと到着すると、彼女を床へと優しく下ろした。

 その部屋はドス黒く陰鬱な魔力が満ちた部屋だが、オズボーン王が指を鳴らすとすぐに小さな噴水の湧き出る花々に満ちた明るい部屋へと変化していく。

「これは……」


「ここで奴らを迎え撃つ、そうだなお主この仮面をかぶるといい」

 オズボーン王が懐に手を伸ばし何かを取り出すが、彼の手にはいかにも時代の経過した黒い犬のような仮面がありそれをシャルロッタへと手渡す。

 ほんのりと感じる淡い魔力……それだけでも現在のイングウェイ王国では高値で取引される魔法のアイテムであり、どうやらオズボーン王は多くのアイテムを保管、運用しているのだとそこでシャルロッタは理解した。

 彼から渡された仮面を着用すると、少しカビ臭いが淡い魔力が着用時の不快感を低減させていることがわかり、安心してオズボーン王を見上げる。

「あーあー、あら声も変わるんですのね」


「偽装するための仮面だ、朕には必要ないのだがお主は必要になるだろう?」

 シャルロッタは王国貴族であり、銀色の髪にエメラルドグリーンの瞳というかなり珍しい組み合わせの外見をしている。

 彼女を見ただけですぐに該当の人物へと結び付けられるものはそう多くないだろうが、それでも身バレをするのはよろしくない、ということなのだろう。

 シャルロッタは優雅なお辞儀をオズボーン王へと披露すると、それを見た彼はカタカタと笑うような仕草を見せる。

「感謝いたしますわ」


「なんなら持って行ってもいいぞ、朕のコレクションとしてはもう必要のないものだからな」

 オズボーン王は再びシャルロッタへと手を伸ばすと、彼女が聞いたことのない異国の言葉で何かを唱える……ふわりと包み込むような魔力が彼女の周りに展開すると、まるで不死者(アンデッド)のような外見へと彼女が覆われていく。

 だが元々の身長などは変わらず……行ってみれば幼女ゾンビのような姿がそこには現れた。

 自らの肌の色が完全にゾンビ化したことに、シャルロッタは少し驚くがそんな彼女にオズボーン王はカタカタと揺れながら笑うように話しかけた。

「カカカッ! 朕の幻惑魔法もまあそれなりであろ? これで心置きなく戦えるということだ……だが追い返すのが目的である、勘違いをするでないぞ」




「な、なんだこの部屋は……」

 リオンが通路の突き当たりにあった扉を開くと、そこはそれまでの異空間にしか見えない迷宮(ダンジョン)とは打って変わって、花や木々が生い茂り部屋の中央には噴水の湧き出る穏やかな空間が広がっていた。

 明らかに違和感のある景色……それまでの雰囲気と違いすぎる上、建物内にしては明るすぎる部屋……天井を見上げるとそこは延々と光の空間が広がっており、それを見たフィリアは恐ろしいまでの魔力で構成されていることに気がついた。

「……まずいわ、この部屋恐ろしいくらいの魔力で満たされている……」


「ならオズボーン王本人のご登場ということか?」


「そうだな、朕の住処に入ってきた愚か者を排除するための……いわば余興だ」

 いつの間にか噴水の側で小さな子供……黒い仮面を被った少女だが、体がどこかゾンビのように灰色がかっており、どう見ても生きているようには見えないものと、古い時代の様式である衣服を身に纏ったスケルトンのような男がそこには立っていた。

 彼らの目から見ても、威圧感と存在感が凄まじく……その声を聞かされただけで、心臓が飛び出そうになるくらいの恐怖を感じる。

 だが、ここで屈するわけにはいかない……彼らはなけなしの勇気を振り絞って武器を構えるが、それを見たオスボーン王がほう? と感心した声を上げると、隣にいた仮面少女ゾンビの方をそっと叩く。


「どうやら帰りたくないようだ、では多少痛めつけてでも帰ってもらうというのがここの流儀……お前の力を見せてみよ」

_(:3 」∠)_ シャルがこういう扱いを受けても怒らないのは、オズボーン王が強者であるからです。


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