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(幕間) 不死の王 〇三

「……うわ、カビくさ」


「かなり長い間中には誰も入っていないようですね……」

 わたくしとユルがクソ重い扉を開けて中を覗き込むが暗くてよく見えないなあ……この闇はわざわざ感覚遮断をするために魔力で構成している暗闇だ。

 まあここに何かいることは確定だな……自分たちが入るスペースを確保するために立て付けの悪すぎる扉を開くとギギギギギ、と鈍い音を立てるがお構いなしに押していくと、ギリギリだがユルもすり抜けられそうなスペースが開いた。

 スペースを抜けて前に伸びている通路の中へと出ていく……恐ろしく濃い魔力と何だろう、こちらを監視しているかのような視線を感じる? うーん、うまく感覚が働かないな。

「……ところでこの通路、どこまで続いていると思う?」


「先が見えない……変ですね、そもそもこんな通路があるような建物には見えませんでしたが……」


「ああ……そうかこいつは……」

 迷宮(ダンジョン)化……長い間混沌の魔力がこの場を支配していたために、本来あり得ない構造へと変質しているのか。

 似た構造となってしまった建物を前世で見たことがあるな……なんて言ったっけ、えーと……忘れた! だけどこの手の迷宮(ダンジョン)は厄介だ。

 建物の構造とは別に侵入者を阻むための仕掛けが満載だし、そもそも構造も簡単に変えることができてしまう……よく異世界転生などで構造を変化させるダンジョンマスターものなんかがあったりするけど、あれに近いと思えばいい。

「……どうします? 戻りませんか」


「どうもこうも入り口がすでにないわ……導く光よ、我が前へ、灯火(ライト)

 わたくしが小剣(ショートソード)を松明がわりに掲げている間、発した言葉にギョッとした顔でユルが背後を見るが……そこには入ってきたはずの入り口はなく、ただ漆黒の暗闇が広がっているだけだ。

 正確に言えば偽装された入り口があるんだけど、この濃い魔力の中ではそれを探し当てることは難しいだろう。

 前に進むしかない……大丈夫気が済んだら出してくれるよ、多分……まあ普通の人間であれば、それは死もしくは屈辱を植え付けての敗退ということになるんだろうけどさ。

 わたくしがずんずん進んでいくのを見て、ユルはおっかなびっくり周りをキョロキョロ見ながらわたくしの後をついてくる。

「……やだなあ……我はこういう場所苦手なんですよ」


「なら一緒に来なかったら良いじゃない」


「ダメですよ、契約者と離れるなんて考えられない」


「ならちゃんと背筋を伸ばしなさい」


「……やだなあ……」

 ブチブチ文句を言いながら後をついてくるユルだが、そうは言っても契約した幻獣としての意識は持っているらしく周囲を油断なく探っているようだ。

 わたくしたちが歩いている通路は、漆黒の壁を持つかなり広い作りとなっており、ずっと真っ直ぐに向かってつながっている……明らかに数キロ近い長さがあるのか、灯火(ライト)が照らす範囲でも先の方が全く見えない。

 そして時折耳元で聞こえる少し荒い息遣い……変態かよ、他に見ている人がいたら事案だぞ? だがこういう地味な恐怖の積み重ねは、人の心を容易く削り取る。

「……面倒だからすぐ出てきたら? オズボーン王」


「シャル! そんな挑発するような……」


「それとも子供相手だと本気が出せないってか? このヘタレチキン野郎が、幼女に息吹きかける変態ロリコンジジイのくせにビビってんじゃねーぞ」

 わたくしの言葉に怒りを覚えたのか、そうではないのか……いきなり通路の構造が変化していき、通路だったはずの風景が一転していく。

 突然視界が白く……いや光が満ちていくのがわかる、急に暗闇から引き出されたから変化に目が追いついていないだけだな。

 後ろでユルが「目がー! 目がー!」とかのたうち回っているけど放っておこう、どうせすぐに元に戻るから大丈夫……次の瞬間、わたくしの前方で恐ろしいまでの魔力が膨れ上がった。


「……生意気だが小童ではないか……帰れ、ここはお前のようなものが来る場所ではない」

 黒い魔力が泉のように湧き上がったかと思うと、まるでぬるりと床から生えてくるかのように、古典的な衣装を纏った白骨死体にしか見えない人物がその場に姿を現す。

 溢れるような闇の魔力……そして眼窩の奥に光る金色の光……カタカタと骨同士がぶつかる音を立てながら、怪物がその場に姿を表した。

 不死の王(ノーライフキング)……不死者(アンデッド)の中でも最上位とされる怪物で超高位魔法使いや大司祭などが混沌神の加護などを得て変化したものと言われているが……おいおい、こりゃすげえな。

「クハッ! なんだあんた強そうじゃん……」


「えー……? いやいや朕は幼女には興味がないのでな、出口はあっちだ帰れ、それと宝には手をつけるなよ」

 不死の王(ノーライフキング)オズボーン王は本当に興味がないとばかりにシッシッと手を振ると、再び地面に湧き出した魔力の中に沈もうとする。

 いやいやここまできてお預けはないんだわ! わたくしは咄嗟にオズボーン王の首根っこ(とは言っても骨なんだけど)を掴むと無理やり引っ張る。

 いきなり引っ張られたオズボーン王は驚いたのか、バタバタと手足を動かして抵抗しようとするがわたくしは一気に彼を引っこ抜いて投げ飛ばす。

「うるせえ! さっさと出て来いや、この引きこもりのクソニート!」


「いやーっ! なにこの幼女、怖い! 暴力反対!」

 仁王立ちでオズボーン王を睨みつけるわたくしと、地面に這いつくばっているオズボーン王……あれ? なんか立場が逆の気が……だが混乱から立ち直ったのか不死の王(ノーライフキング)はゆらりと立ち上がる。

 じっと金色の光る目でわたくしを見ると……顔から、胸へと視線を動かし……そこで、はぁ……と深いため息をつく。

 あれ? なにこれ……もしかして体型をチェックされてる? 視線に気がついたわたくしが咄嗟に胸を、と言っても一〇歳にしてはちゃんと出っ張ってるのだが、それを隠すと、彼はもう一度大きくため息をついた。

「ねえお嬢ちゃん、家はどこ? 送ってあげるからおイタしちゃダメだよ、飴ちゃんいるかい?」


「……ちょっと待って、なにそれ」


「いやいや朕は大人の女性にしか興味がなくてなあ……確かにお主は成長したらすっごい美女になる、うん、朕が認めよう……だけどさあ……まだ成長しきっていないのに興味を持てって言われてもさ……」

 ほうほう……つまり今のわたくしは単なるロリっ娘だから相手するまでもないとな? イラっとしたわたくしが青筋を立ててピクピクしていると、オズボーン王はその表情を見てむむっ! と何かに気がついたような仕草を見せる。

 ずずい、と音もなく近寄ってくると彼はわたくしのその表情を興味深そうに眺め……そしてぽん、と手を叩くと何かに納得したかのように何度か頷いた。

 うーん、どうも戦おうって気分になっていないようだ……だが恐ろしいくらいの魔力だ、これならば満足する戦いになりそうなんだけどな。

「……なんですの? 人の顔をジロジロと……」


「うーん五年くらい待てばイケるかなあ……よろしい質問をするが、なぜこの場所へ来た」


「ここにオズボーン王っていう不死の王(ノーライフキング)がいるから退治しに来たってだけよ」


「朕はここ一〇〇……もっとか、人間の暮らしに干渉することはしていないはずだが、それに以前来た冒険者にも干渉しないように言い含めているぞ、くるなと」

 確かにね……オズボーン王は基本的にこの宝物庫に入らなければなにもしない、というのが冒険者の共通認識だとかで、それゆえに死霊の沼の不死者(アンデッド)だけを狩るというのが依頼にもなっているのだ。

 わたくしの後ろでユルが少し怯えたように体を丸めているが、それほどの不死者(アンデッド)なのだ、オズボーン王は……もし戦ったら今のわたくしが苦戦するくらいだろうか? それでも足りないかもしれないけど。

 いやー、殴りてえ……全力で殴ったらめちゃくちゃ気持ちいいだろうなあ……ああ……ミシミシと軋む拳を握りしめるわたくしを見てオズボーン王がめちゃくちゃドン引きした顔でユルへと話しかける。

「ねえ、そこなガルム……この幼女なんか怖くない?」


「……すいません、そういう人なんです……」


「そもそも朕は人を殺すことは好かん、この宝物庫にいれば魔法の研究に没頭できるから籠ってい……」

 オズボーン王はそこまで話すと何かに気がついたのか、急に会話を止めると不思議そうな顔で遠くへと視線を向けて、金色の瞳を輝かせた。

 ん? 何かあるのか? とわたくしがそちらへと視線を動かすが、この空間は彼の領域(テリトリー)であり、わたくしには単なる宝物庫の一部にしか認識できていない。

 じっとそちらを見たオズボーン王は、はぁ……ともう一度ため息をつくとわたくしの肩を指で叩いた。

「……今日は来客だらけだな……お主名前は?」


「イングウェイ王国インテリペリ辺境伯家の令嬢シャルロッタ・インテリペリよ」


「ふむ、朕の仇敵の王国貴族か、道理で身なりが良いと思った……でな、お前の他にここを目指してやってきているものがいるのだが……仲間か?」


「わたくしはこのガルム……ユルしか仲間はいませんわよ」

 どうやらわたくしの他にこの場所を目指す不届者がいるのだろう……そしてどうやったかはわからないが、死霊の沼を抜け宝物庫に眠ると言われる宝を狙ってやってきたのだろう。

 とはいえ、死霊の沼を抜けるということはあの凄まじい数の不死者(アンデッド)を倒すか、無効化してやってきているのだ……単なる盗賊とは思えないな。

 ふむ、とオズボーン王は顎に手を当ててから、何か思いついたかのように指をパチン、と鳴らす。

 そして白骨化した顔だが、カタカタと笑うと再び顎を撫でるような仕草を見せるとわたくしへと改めて話しかけてきた。


「……支配者たる朕がインテリペリ伯爵家令嬢へと命ずる、朕に同行し侵入者を排除することを手伝え……その上でお前の望みを叶えてやっても良い、どうだ?」

_(:3 」∠)_ いやーっ! 怖いこの幼女ッ!


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[良い点] 去ろうとする不死の王の首根っこを掴んで引っ張り出す幼女……
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